57話 限られた時間の中で
外にいたみんなと合流して、倒れている騎士達を捕縛した。
武具を取り上げて、動けないように縄で縛り上げる。
これで、領主達と繋がっている騎士達を一網打尽にすることができた。
計画の第一段階は成功だ。
「レイン」
倉庫の外に出ると、部下にあれこれと指示を出していたステラが戻ってきた。
そのまま、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとう。レイン達のおかげで、騎士団の膿を取り除くことができた。連中を無力化したおかげで、簡単に身辺捜査を行うことができる。領主達と繋がっている証拠は、山程出てくるだろう。私達の正当性は、十分に証明できるはずだ。本当にありがとう」
「まだ礼を言うのは早い。領主達をなんとかしないといけないからな」
不正に手を染めている騎士達は排除したものの……
元凶である領主達はそのままだ。
このまま放置すれば、同じことが繰り返されるだろう。
騎士団を正常な姿に戻すことができた。
なら、次にするべきことは?
領主の館に踏み込み、悪事の証拠を押さえることだ。
騎士団があるべき姿に戻った今ならば、領主達を見逃すような真似はしない。
館に連れて行かれた人を助けることもできる。
付け加えると、領主達は、他にも色々な悪事に手を染めているらしい。
それらの証拠を押さえて、王都の監査官に引き渡すことで、完膚なきまでに領主達にトドメを刺すことができる。
ただ、あまり時間をかけることはできない。
時間をかければ、領主達が証拠を隠滅してしまうかもしれないからな。
連れて行かれた人の安否も心配だ。
ここからは時間との戦いだ。
すぐに動かないといけない。
そのことはステラも理解しているらしく、すぐに厳しい表情を作る。
「領主達の情報収集能力は侮れないものがある。私達が行動を起こしたことも、すぐに露見してしまうだろう」
「そうなると、ますます急がないといけないな」
「うむ。できることならば、このまま、領主の館に突入したいところなのだが……」
ステラはちらりと倉庫を見た。
倉庫の中に、捕縛した元騎士達を閉じ込めている。
「連中を放置するわけにもいかないからな……逃げられたりしたら洒落にならない。どうしたものか」
「それなら問題ないさ」
「と、言うと?」
「蝶の毒は、そう簡単に抜けるものじゃない。連中、一晩は動けないだろう」
「しかし、万が一ということもある。見張りは必要じゃないか?」
「なら、こいつらに任せよう……来いっ!」
複数の野犬を呼び寄せて、テイム。
倉庫の周囲を見張るように指示を出して、散らばらせた。
「犬達に、倉庫を見張るように指示を出した。これで心配ないだろう」
「……」
「どうしたんだ、ぼーっとして?」
「いや……レインは、本当にビーストテイマーなのか? さきほどの蝶といい、今回の犬といい……私の知っているビーストテイマーとは、大きく異なるような気がするのだが……」
「これくらいで驚いていたら、レインと一緒にいられないよ?」
「そうそう。こういうものだ、って受け入れた方がいいわよ」
横からひょいっと会話に割り込んで、カナデとタニアがそんなことを言う。
「そ、そうなのか? もしかして、レインはもっとすごい力を秘めているのか?」
「にゃふー、その通り!」
「あたし達も知らないような能力を隠してても、おかしくないわね」
「人を珍獣みたいに言わないでくれ」
話が逸れた。
元に戻そう。
「とにかく……これで、元騎士の連中を気にかける必要はない。正式な処分は後にして、今は、やるべきことをやろう」
「うむ、そうだな。これ以上、時間をかけるわけにはいかない。このまま領主の館に突入しよう」
「くくく、腕が鳴るぞ。我の力を見せる時が来たな」
「ソラ達に手を出そうとしたこと、後悔させてやりましょう」
ソラとルナの姉妹は、やる気たっぷりだった。
二人は、直接、領主の息子に狙われたからな……
恨みも怒りも人一倍なのだろう。
「問題は、抵抗されるかもしれないということだ」
「……騎士団を相手に?」
「騎士団を相手にするからこそ、だな」
「なるほど」
ステラの言いたいことを、ある程度理解した。
ただ、カナデ達はよくわかっていないらしく、疑問符を頭の上に浮かべている。
「ねえねえ、どういうこと?」
「騎士団には、監査権限があるんでしょ? それを拒むなんて、やましいことがある、って言ってるようなものじゃない。それなのに抵抗するわけ?」
「つまりだな……」
今まで、領主達が騎士団の監査を受け入れていたのは、裏で繋がっていたからだ。
証拠があったとしても、全て見逃してくれるとわかっていたから、受け入れていた。
しかし、騎士団が正常化された今は違う。
不正、悪行の証拠は決して見逃さない。
領主達は、そのことを正しく理解しているだろう。
監査を受け入れたりしたら、その時点で全てが終わる。
理解しているからこそ、監査を拒み、力づくでも抵抗をするだろう。
「抵抗して……どうなるの? その後は、どうするつもりなのかな?」
「うまく俺達を排除することができれば、後は簡単だ。そこの倉庫の中の騎士達を元の場所に戻して、俺達を反逆者として扱う。全ては今までどおり、っていうわけだ。まあ、詳細は違うかもしれないが……大体の流れは、こんなところになるだろう」
「なるほどね……つまり、この後の戦いの結果が、そのまま勝敗に繋がるということね」
「それ故に、私達は絶対に負けられないのだが……事前の調査によると、領主達は警備の名目で私兵を雇っているらしい」
「数は?」
「わからないが、数十人といったところだろう。確認はできていないが、Bランクの冒険者に匹敵する傭兵を雇っているという噂もある」
Bランクの冒険者は、一人で数十人分の力を持つと言われている。
それに匹敵する傭兵……か。
もしも本当だとしたら、厄介だな。
「さきほどの蝶を使うことはできないか?」
「難しいな……強行突入することになると、まずは、門の手前で抵抗されるだろう? 蝶の鱗粉は風に流されやすいから、屋外だと効果が薄いんだ。それに乱戦になると、味方も巻き込む恐れがある」
「そうなのか……むぅ」
不正に手を染めた元騎士達を簡単に捕縛することができたのは、うまい具合に罠にハメることができたからだ。
しかし、今度はそうはいかない。
相手の陣地に乗り込まないといけないから、罠を設置することはできない。
単純な数と数、力と力のぶつかり合いになる。
ただ、その点についてはあまり心配していない。
いざとなれば、街中の獣をテイムして襲いかからせればいいし……
そんなことをしなくても、こちらにはみんながいる。
相手の戦力は未知数ではあるが……
よほどの計算外でもない限り、カナデ一人でお釣りがくるだろう。
そのことはカナデも理解しているらしく、シュッシュッと拳を振ったりして、やる気たっぷりだ。
「相手がどれだけいようと、私が全部蹴散らしちゃうよー!」
「頼りにしてもいいのだろうか……?」
「任せて!」
「……ありがとう」
ステラは複雑な思いを抱えているのかもしれない。
自分達の力で街を正すことができず、他の者の力を借りるしかない。
葛藤があるのかもしれない。
それでも、ステラは俺達の協力を拒むことはなく、むしろ、歓迎してくれた。
プライドよりも、街を正すことを優先した。
きっと、ステラは良い騎士団長になるだろう。
そんな未来が見えたような気がした。
「改めて、ありがとう。レイン達が力を貸してくれて、本当に助かる」
「気にしないでくれ。俺達も、無関係っていうわけじゃないからな」
「その上で……誠に申し訳ないのだが、もう一つ、相談したいことがある」
「それは?」
「領主の館には、連れ去られた街の人がいると聞いている。もしも、人質に取られたりしたら……」
「人質か……」
領主達が、街の人を盾にするなどという暴挙を犯すだろうか?
さらなるリスクを抱えるようなものだ。
そんな愚行を選択するだろうか?
「……ありえるな」
追い詰められた人間は、何をしでかすかわからない。
どんな時でも理知的に行動できるような人間は少ない。
可能性が1%でもある限り、警戒する必要はあるだろう。
「なら、館に突入するグループと囚われた人を救出するグループに分かれよう」
「うむ。それが妥当だな」
「俺は救出する方に回る。あと……ソラとルナ、一緒に来てくれないか?」
「わかりました」
「うむ、我に任せておくがいい」
二人を指名すると、残り二人から不満の声が上がる。
「えー、私は? ねえねえ、レイン。私は連れて行ってくれないの?」
「あたしも一緒に行った方がいいんじゃない? べ、別に、レインが心配だから、なんてことはないからねっ」
「ソラとルナは、色々な魔法を使えるからな。潜入に向いていると思うんだ。カナデは……なんでも物理で解決しそうで、潜入には向いてないと思う。タニアは……色々と燃やされても困るし」
「にゃんか、ひどい認識!?」
「あたし、どういう風に思われてるわけ!?」
二人は、日頃の自分の言動を思い返してほしい。
「にゃー……でもでも、仕方ないか」
「勘違いしないでほしいんだけど、ステラの援護も大事な役割なんだ。適当な人に任せることはできない。カナデとタニアだからこそ、信頼して任せることができるんだ。色々と思うところはあるかもしれないが、そこを曲げて、頼まれてくれないか?」
「ま、まあ……そこまで言うのなら仕方ないわね。任されてあげる」
「にゃー、私におまかせだよ!」
……これから、街の領主と戦うことになる。
前代未聞の作戦だ。
失敗すれば、反逆者として投獄されるだろう。
下手したら、そのまま処分されるかもしれない。
それでも、不思議と不安や怖れはなかった。
「にゃ? どうしたの、レイン?」
みんなを見ていたら、カナデが視線に気づいて、不思議そうにこちらを見た。
「いや、なんでもないよ」
「にゃん?」
今の俺は一人じゃない。
カナデが、タニアが、ソラが、ルナが……仲間がいる。
だから、なんでもできるような気がした。
どんな困難も乗り越えられるような気がした。
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