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56話 堕ちた騎士達

 突然の襲撃に、騎士達が動揺しているのがわかる。

 暗闇の中、敵と味方の区別がつかず、まともに動けないらしい。


 そんな中、俺は、明かりの魔法を使おうとする騎士を、的確にナルカミの毒針で倒していく。

 こちらは、ずっと片目を閉じていて、あらかじめ暗闇に目を慣らしておいた。

 だから、相手の動きはよく見える。


「ええいっ、早く明かりを点けろ! 何をしているっ」

「だ、ダメです! どこからか狙撃されている模様で……ぐあっ!?」


 そんなに大きな声を出したら、狙ってくれと言っているようなものだ。

 リクエストに応えて、毒針で狙撃してやる。

 即効性の麻痺毒だ。

 すぐに騎士は動けなくなり、そのまま床に転がる。


「ちっ、役立たず共め!」


 一人、大きな声で命令を出している騎士がいた。

 その甲冑と剣は、他の騎士よりも上物に見える。

 あいつが、ステラが言っていた、騎士団の腐敗の象徴……ホライズン騎士団支部の団長だろう。


 次弾を装填。

 狙いを定めて、毒針を射出する。


「ふんっ!」


 騎士団長は剣で宙を薙ぐようにして、毒針を叩き落とした。

 なんて反射神経だ。

 おそらく、わずかに漏れる俺の殺気を感じ取り、迎撃したのだろう。

 団長の名前は伊達じゃないらしい。

 あいつは、手こずるかもしれないな。


「明かりはもういい! 一度、外に出るぞっ」


 騎士達が引き返そうとするが……

 それよりも先に、扉が閉められる。

 外にいるステラの仲間がやってくれたのだろう。


「な、なんだ!? 急に扉が……」

「くっ、開かない……団長、閉じ込められた模様です!」

「なんだ、これは……まるで、我らが現れることを察していたような……ちっ、そういうことか」

「団長……?」

「これは罠だ! 大方、くだらない正義を掲げる連中が、俺達をハメようとしたのだろう」


 団長は、頭の回転も悪くないらしい。

 すでに動揺から立ち直り、誰が首謀者なのか推理できるほどに、心を立て直している。


「ど、どうしましょう? このようなことになるなんて……」

「慌てるな! 私達の方が数は上だ。冷静になれば、連中に捕まるなんてことはありえない。逆に、連中を返り討ちにするぞ。領主達への良い土産になる」

「はっ!」


 騎士達の動揺が消えた。

 なかなかやるな。

 瞬時に状況を判断して、部下を鼓舞して、最も適した命令を下す。

 簡単にできることじゃない。

 思っていた以上に、団長は手強い相手なのかもしれない。


 が、ここまでは読んでいた。

 すぐに体勢を立て直されることも、こちらにステラが協力していることを見抜かれることも、全部、想定内だ。


 同じく鉄骨の上に登っているタニア、ステラにそれぞれ声をかける。


「タニア、ステラ、頼む」

「任せておきなさい!」

「うむ、やるぞ!」


 タニアは出力を絞った火球を。

 ステラは短剣を。

 それぞれ倉庫の窓に放ち、ガラスを割る。


 騎士達が再び動揺するが、構うことなく、全ての窓を壊してもらう。

 そうして、『道』ができた。


「来いっ!!!」


 あらかじめ仮契約をして、周囲で待機させておいた『ソレ』を、タニアとステラが作った道から倉庫内に呼び寄せた。


「な、なんだ……?」

「アレは……蝶……?」


 月明かりを受けて、緑色に輝く蝶の群れが倉庫内に押し寄せた。

 その数、数百。

 困惑する騎士達の上を、円を描くように飛び回る。


 傍から見れば、幻想的な光景かもしれない。

 しかし……実際は、とんでもない毒だ。


「ぐ……」

「お、おい、どうした? なぜ剣を手放す?」

「手放そうとしたわけでは……ち、力が入らなくて……」

「なんだ、こ、これは……」

「くっ……俺も、力が……」


 一人の騎士が倒れて……

 連鎖するように、次々と騎士達が地面に転がる。

 倒れた騎士は意識が混濁している様子で、言葉にならない声をこぼしながら、体を震わせていた。


「す、すごい……」


 鉄骨の上から様子を見ていたステラが、驚くように言った。


「事前の打ち合わせでは、まとめて数十人を倒すと言っていたが……まさか、本当に成し遂げてしまうなんて。レインは、一体、どのような魔法を使ったのだ?」

「魔法なんかじゃない。毒だよ」

「毒?」

「この蝶は、鱗粉に麻痺毒が含まれている。一匹や二匹では、人を昏倒させることはできないが……」


 地面に倒れる騎士達を見ながら、言葉を続ける。


「密閉された空間で、大量の蝶の鱗粉を浴びれば……こうなる、というわけだ」


 同じ麻痺毒を持つアールビーを使役するという手もあるが……

 蜂の場合は針を刺さないといけないので、甲冑を着ている騎士相手には不向きだ。

 その点、蝶の鱗粉は呼吸と一緒に体内に取り込まれる。


「鱗粉は空気より重いからな。蝶の上……鉄骨の上に登れば、俺達は巻き込まれることはない」

「本当にすごいな……私の出番がまるでないじゃないか」

「……そうでもなさそうだ」


 大半の騎士達が倒れる中、団長はしつこく意識を保っていた。

 蝶の鱗粉が毒だということに気づいたのだろう。

 片手を口元に当てて、なるべく鱗粉を口に含まないようにしている。

 この状況で、それだけの判断ができるなんて……敵ながら、流石というべきだ。


「なんか、元気なのが一人いるわね。やっつけちゃう?」

「そうだな。放っておくわけには……」

「……すまない。ここは、私にやらせてくれないか? ここまでレインに頼っておきながら、虫の良い話かもしれないが……最後は、同じ騎士である私がやるべきことだと思うのだ」

「わかった、任せるよ」

「感謝するぞ」


 大半の騎士達が倒れたところで、蝶を倉庫の外に出した。

 それを確認したところで、ステラが鉄骨から降りる。

 続いて、俺とタニアも地面に降りた。


「貴様……エンプレイスか。やはり、これは貴様の仕業なのだな?」


 団長がステラを睨み、剣を突きつける。

 対するステラは冷静に、静かに応える。


「だとしたら、どうする?」

「このようなふざけた真似をしたこと、後悔させてくれる! ステラ・エンプレイス! 貴様は、反逆罪で処刑だ!」

「騎士の心に反逆しているのは、あなたの方だっ!!!」


 ステラも剣を抜いた。


 二人が交差して……

 ゴッ! という鈍い音が響いた。

 見ると、ステラの剣の腹が団長の脇腹を深く叩いていた。

 おそらく、骨が砕けているだろう。

 団長は苦悶の声を漏らして、それでもなお、追いすがるようにステラに手を伸ばして……


「ぐ……ぁ」


 そこが限界だったらしく、他の騎士達と同じように地面に倒れた。

 気力で堪えていただけで、蝶の毒が回っているのだろう。

 思うように動けない様子でもがいている。


 ステラは、倒れた団長に剣を突きつけて、鋭く言い放つ。


「騎士団ホライズン支部長、ジレー・ストレガー。あなたが領主からの裏金を受け取り、監査を見逃していたという証拠は、私の部下がおさえている!」

「そんな、バカなことが……」

「私達が何もしていないと思っていたか? 黙ってあなた達の不正を見逃していたと思うか? 全てはこの時のため……仲間と共に、証拠を集めていたのだ」

「ぐっ……」

「他者を顧みることなく、己の欲を優先させる者など、もはや騎士ではない! ただいまを以て、あなたを解任する!」


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― 新着の感想 ―
[一言]ステラさ〜ん!!ストレガー支部長と戦うのは良いけど…蝶の鱗粉の毒は吸い込まないでね〜!!
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