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54話 戦闘準備

 領主と裏で繋がっている団員がいるせいで、騎士団が正常に動いていない。

 そういうことならば、解決方法は簡単だ。

 不正に手を染めている団員を、全員排除してしまえばいい。


「簡単に言うが、そのようなことをどうやって?」


 ステラが信じられないというような顔をした。

 疑問は最もだ。

 一つ一つ、順を追って説明する。


「まずは、領主と裏で繋がっている団員と、そうでない団員を選別する」

「どうするの? 一人一人調べるの?」

「そんなことをしていたら、どれだけ時間があっても足りないさ。わりと大雑把な方法になるけど……俺の考えている通りなら、ある程度はすくい上げることができる」

「にゃん?」

「ステラ。この人なら大丈夫、って信頼できる団員はいるか?」

「そう、だな……数人ならば」

「なら、その人達に手伝ってもらって、こういう話を騎士団の内部に流してくれないか?」


 頭の中で練り上げた策を、そのままステラに伝えた。


 話を聞いているうちに、ステラの目が驚いたように丸くなり……次いで、感心したような顔を作る。

 どうやら、俺の考えていることを理解してくれたらしい。


「なるほど、そういう手が……」

「これならば、全員とは言わないまでも、領主と裏で繋がっている者のほとんどをすくい上げることができると思う。どうだ?」

「うむ、悪くない……というか、現状、最善の手に思えるぞ」

「何か補足はあるか?」

「そうだな……うまくすくい上げることができたとしても、相手は騎士団の大半……数十人が相手となるぞ。それについては、どうするつもりなのだ?」

「罠を用意する」


 俺の能力と、それを利用した『罠』の内容をステラに説明した。


「そ、そのようなことができるのか……?」

「ああ、問題ない。実践するわけにはいかないから、信じてくれとしか言えないが……」

「……いや、信じよう。レインはウソをつくような男ではないだろう。しかし、そのようなことができるなんて……レインはとんでもないのだな」

「そうなのか? これくらい、普通だと思うが……」

「にゃー……また、レインの普通だと思いこんでる病が出たよ」


 なんだ、その病気は。

 俺がおかしいみたいじゃないか。


「何か指摘するところは? 穴はあるか?」

「いや、特にないな。問題ないと思う」

「そう言ってもらえると、安心できるよ」

「このようなことを瞬時に考えられるなんて……レインはすごいのだな」

「えっとえっと……レインだからね! むふーっ」


 なぜか、カナデが誇らしそうにしていた。

 俺が褒められてうれしいのだろうか?

 そういう風に思ってくれることは、悪くないのだけど……


 ただ、カナデは俺の作戦をほとんど理解していないっぽい。

 後で、タニア達に話をする時に補習をしないといけない。


「決行はいつにする?」

「今夜にしよう」

「今夜なのか? 早すぎないだろうか?」

「いや、早ければ早いほどいい。こういうことは、相手に考える時間を与えたらダメだ。裏の意図が読まれてしまう可能性が高くなる。相手に時間を与えず、混乱している隙に、グイグイと押し進めた方がいい」

「なるほどな。うむ、その通りだ。細かいところまで考えているのだな」

「レインだからねっ! むふーっ」


 なぜかカナデが以下略。


「では、さっそく行動に移ることにしよう」

「俺達は準備をしないといけないから、一度、宿に戻るよ。夜に合流しよう」

「うむ。私達も準備をして、待っているぞ」




――――――――――




 ステラと別れた後、宿に戻り、事のあらましをみんなに説明した。

 夜に備えて、準備をしてもらう。


 その後……

 俺は一人、ガンツの店を訪れていた。


「おおっ、レインではないか。どうしたのじゃ?」


 店の扉を開けると、設置されていた鈴が鳴る。

 その音に反応して、店の奥からガンツが出てきた。

 作業中だったらしく、額に汗がにじんでいる。


「すまない。邪魔をしたか?」

「なに、かまわぬよ。ちょうど、休憩をしようと思っていたところじゃからな」

「なら、ちょうどよかった。頼んでおいた武具の進捗具合について聞きたいのだけど……」


 今夜は、大規模な戦闘に発展するかもしれない。

 とある罠を用意しておくが、確実に成功するとはいえないし……

 いざという時に備えることは必要だ。

 そのために、ガンツの武具を頼りにしたのだけど……


「まだできていないぞ? 言ったじゃろう、一週間ほどかかると」

「そうだよな……」

「まあ、小手の方はできているのじゃがな」

「えっ、そうなのか?」

「うむ。あとは最後の調整をするのみじゃ。短剣の方は、もう数日はかかるな」

「小手の方が先に完成したのか? あれこれと注文したから、てっきり、最後になると思っていたんだが……」

「確かに、面倒といえば面倒なのじゃが……このようなおもしろい武具を作る機会は、滅多にないからのう。逆に創作意欲が刺激されて、一気に作り上げてしまったわい。はっはっは!」


 あれこれと厄介なオーダーをしたはずなのに、そうすることで、やる気が増すなんて……

 どうやら、ガンツは根っからの武具職人らしい。

 改めて、ガンツの職人としての誇りとプライドを見たような気がした。


「小手の調整にはどれくらいかかる?」

「む? 1~2時間もあれば終わるが……どうしてじゃ?」

「必要になるかもしれないんだ。ちょっと、色々とあって」

「ふむ。お主、何か面倒事に足を突っ込んでいるのか?」

「そんな感じだ」

「うむ、わかった。ならば、すぐに仕上げようではないか」

「助かるよ」

「ただ、短剣の方は無理じゃぞ? どんなに急いでも、二日はかかる。最強種を使役するビーストテイマーが使うものじゃからな。それにふさわしい、一級品にしなければいかん。そこは理解してくれぬか?」

「わかっているよ。短剣の方は諦める。ただ、代わりになるようなものをくれないか?」

「おお、いいぞ。そこらにあるもの、好きに持っていくといい。そうそう、金はいらんぞ」

「いいのか?」

「レインには恩があるからの。それに、今、店に並んでいるものは、昔、適当に作ったものばかりじゃからな。とても売り物として扱うことはできん。好きに持っていくといい」

「助かるよ」

「では、儂は小手の仕上げに取りかかるとしよう。少し待っておれ」


 そう言い残して、ガンツが店の奥に消えた。

 ややあって、カーンカーンと金属を叩く音が聞こえてくる。


 さて。

 ガンツの好意に甘えて、短剣を選ぶことにしよう。


 短剣が並べられている棚の前に移動して、一つ一つ、手に取り具合を確かめる。

 ガンツは売り物にならないと言っていたが、とんでもない。

 どれも一級品と呼べるくらいに、よくできていた。

 これで満足できないなんて……

 この先、ガンツはとんでもない武具職人に成長するかもしれない。


「……」


 ひとまず、一番しっくりきた短剣をもらうことにした。

 ベルトを用意して、腰の後ろに収納する。


 それから、待つことしばらく……


「待たせたな」


 一対の小手を手にして、ガンツが現れた。


「これが……」


 一目見てわかる。

 職人の魂がこめられた、一級品の武具だ。


「レインのために作り上げた、専用の武具じゃ。そうじゃな……名付けて、『ナルカミ』というところかのう」

「……ナルカミ……」

「どれ、使い方を教えてやろう」


 小手を装着する。

 指、手首、腕……それらの動きを阻害することがない。

 それでいて、ぴったりとフィットするような感覚がある。


 改めて、すばらしい小手を作ってもらったのだと理解した。

 こんなものを用意してもらえるなんて……

 我ながら単純だけど、子供のようにワクワクしてしまう。


「いいか? まず、レインが求めた機能は……」


 それから30分ほど、ガンツのレクチャーを受けた。

 その後、礼を言って店を後にした。


 さあ、これで準備は万端だ。




――――――――――




 そして……夜が訪れた。

 みんなを連れて、ステラと合流する。

 場所は、街の外れ……今は誰も使われていない倉庫の前だ。

 物陰に潜むようにして、顔を合わせる。


「待たせたな」

「カナデと……そちらの三人は?」

「仲間だよ」

「あたしは、タニアよ。よろしくね」

「ソラです。よろしくお願いします」

「ふはははっ、我がルナだ。よろしくしてやらないこともないぞ」

「私はステラ・エンプレイスだ。よろしく頼む」


 ステラは丁寧に頭を下げた。

 一見すると、タニア達は普通の女の子にしか見えないのだけど……

 そんな相手にも、きちんと頭を下げることができる。

 ステラの人柄が現れているような気がした。


「ステラ達は……六人か」


 ステラの他に、五人の騎士がいた。


「すまない……確実に信頼できる者となると、これが限界だった」

「いや、責めるつもりはない。むしろ、それだけいれば良い方だ。ぶっちゃけてしまうと、最初は、ステラ一人だけなのかもしれない、なんてことを思っていたからな」

「そう言ってもらえると助かる」

「レイン、レイン」


 ちょんちょん、とカナデが服を引っ張る。


「足音が聞こえてきたよ」


 俺は何も聞こえない。

 でも、猫霊族のカナデが言うのならば、間違いないだろう。

 どうやら、獲物が罠にかかったようだ。


「……」


 ザッザッザッという足音が聞こえてきた。

 ほどなくして、夜の暗闇の中から、多数の騎士達が現れた。

 正確な数はわからないが、数十人はいるだろう。


 騎士達は俺達に気づくことなく、二手に別れた。

 一部が周囲を警戒するように見張りについて、残りが倉庫の内部に突入する。


 傍から見れば、騎士達は何かしらの作戦行動を行っているように見えるだろう。

 でも、それが違うことを俺達は知っている。

 連中を見事に釣り上げることに成功したことを知っている。


「さあ、大掃除の時間だ」

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