52話 街の暗部
急いで宿に戻り、カナデとタニアと合流した。
そのまま部屋で今後の対策を練る。
「にゃあ……そんなことがあったなんて、許せないにゃ!」
「なによ、そいつ。やりたい放題じゃない!」
話を聞いたカナデとタニアは、自分のことのように憤慨した
ソラとルナのことを大事に思っている証拠だろう。
こんな時になんだけど、二人の反応がうれしい。
俺達の間で、着実に信頼が積み重ねられているような気がした。
「街の人に聞いた話だけど、領主の息子……エドガーの横暴な振る舞いは、以前から続いていたらしい。月に一度くらいの頻度で女の人を連れていき……言葉にできないようなことをしているとか」
今後の対策を話し合うために、宿に戻る前に、まずはエドガーに関する話を街の人々に聞いた。
エドガーに悪印象を持っていること、俺達が街の人々を助けたこともあり、色々な話を聞くことができた。
「言葉にできないようなこと……にゃあ」
カナデが赤くなった。
「あんた、実はむっつり?」
「そ、そそそ、そんなことないよ!? 何も変なことは考えてないにゃ!?」
「怪しいわね」
「はいそこ。話が脱線しているぞ」
「そうね。それにしても、話を聞く限り、とんでもない男みたいね」
「いわゆる、女の敵というヤツですね」
「これも聞いたことだが……拒むことはできず、逆らう者は反逆罪とか適当な罪をでっちあげて捕まえているらしいぞ。どうしようもない愚か者だ。我らも、あのまま捕まっていたら、同じような目に遭っていただろうな」
「エドガーに狙われたことで、街を捨てて逃げた人々もいるという話です」
「ひどいね……」
「そんなヤツが領主の息子なんて……まったく。バカに権力を持たせるとロクでもないことになるっていう、典型的な見本ね」
「……問題は、俺達がターゲットにされたということだ」
エドガーという男……一度顔を合わせたきりだけど、相当、執着深い性格に見えた。
ヤツの要求を断り、護衛を叩きのめして、衆目の中で恥をかかせた。
この先、何もないということはまずありえないだろう。
「っていうか、不思議に思ったんだけど」
タニアが声を上げる。
「領主は何をしてるわけ? 息子が好き勝手してるのに、放置してるの?」
「それが、頭の痛い話なんだけどな……」
「どうも、一人息子を溺愛しているみたいです。息子の罪を咎めるどころか、事件をもみ消しているらしいですね」
「は?」
「街の人々は、兵士達……騎士団に陳情したり、直訴したことがあるみたいです。領主とは王ではなく、国から一部の治世を任されている者にすぎません。その能力、適性がないと判断されれば、解任されるはずなのですが……」
「騎士団による監査が、今までに数回行われたらしいぞ。しかし、いずれも証拠はなし、という結論に至ったらしい。証拠隠滅能力は相当なものらしいな」
「噂によると、領主は息子をかばうだけではなく、息子と一緒になって楽しんでいるとか」
「……」
タニアは唖然として、
「……よし。ちょっくら、今から領主の屋敷を焼き払ってくるわ」
ややあって、真顔でとんでもないことを口にした。
「待て待て待て!」
「あによっ、なんで止めるのよ!?」
「無茶をするな! そんなことをすれば、本当に反逆罪に問われるぞ!?」
「じゃあ、どうするのよ!? このままだと、ソラとルナがバカな領主親子のいいようにされちゃうのよ!」
「そんなことはさせない!」
「っ」
「ソラとルナは必ず守る。もちろん、タニアとカナデも守る」
「……レイン……」
「絶対だ。約束してもいい。みんなには、指一本、触れさせない」
「……そ、そう」
冷静さを取り戻したらしく、タニアが椅子に座る。
「……なによ。ちょっとかっこいいじゃない」
「うん?」
「な、なんでもないしっ」
なぜかタニアが慌てる。
気になるが……
今は、話を先に進めよう。
「いざとなれば、実力行使もいとわない。でも、それは最後の手段だ。まずは、今できることを考えていこう」
「にゃー……でも、何ができるのかな? 二度とふざけたことができないように、おしおきする?」
「そういうことをしたら、反逆罪に問われる、っていう話をしたじゃない。広場の一件も、護衛だけじゃなくて領主の息子にまで手を出していたら、危なかったかもしれないわね」
「となると……うにゃ、私の頭ではわからないよう」
ぐるぐると目を回すカナデ。
考えすぎて、思考回路がショートしたのかもしれない。
「ソラ達に手を出すことは危険、と思い知らせるのはどうでしょうか? と、ソラは提案します」
「と、いうと?」
「領主の息子に、ソラ達の力を見せつけるのです。その上で、ソラ達に手を出さないように交渉をする。証拠隠滅能力に優れていることから、相手もバカではないはず。力を示せば、ソラ達に手を出すことは危険と考えて、退くかもしれません」
「うむ。我も同じようなことを考えていたぞ」
「確かに、それはアリかもしれないな……」
「にゃん? アリっていうわりに、レイン、びみょーな顔してるよ」
やれやれ、というような感じでタニアがため息をこぼす。
「今、レインが考えてること、当ててあげましょうか?」
「え?」
「ソラの言う通りにすれば、俺達の問題は解決するかもしれない。しかし、街の人々は? 変わらずに、領主の横暴な振る舞いに涙することになるだろう……ってとこかしら」
「……」
「当たり?」
「あ、ああ……正解だ」
思考でも読まれたのだろうか?
そんなことを思ってしまうくらい、タニアは俺が考えていたことを見事に言い当てた。
「にゃー、レインらしい意見だね」
「レインは、とんでもないお人好しなのですね。自分達のことではなくて、他の人々の心配までするなんて」
「それは……でも、仕方ないだろう? こんなことを知ったら、放っておけない」
「やれやれ。我らの主はめんどくさいな」
でも……と続けて、ルナがニヤリと笑う。
「我は、そういう考えは嫌いではないぞ」
「ソラ達も、レインのそういうところに救われましたからね。街の人々を助けたいというのならば、賛成します」
「……いいのか? 危険な橋を渡ることになるかもしれないんだぞ?」
「あたし達のこと、守ってくれるんでしょ?」
「それは、もちろん」
「なら、その言葉を信じるわ。レインを信じるわ。あたしの答えは、以上!」
「私も、レインと同じ気持ちだよ。おいしいごはんをもらったり、色々なことを教えてもらったり……街の人にはお世話になっているもん。困ってるなら助けてあげたいな」
みんなが賛成してくれたことがうれしい。
街の人々のことを考えてくれたことがうれしい。
なんというか……大げさかもしれないが、ちょっとだけ、泣いてしまいそうな気分だった。
それくらいに、みんなの言葉で俺の心は震えていた。
「よし! なら基本的な方針は、この問題を根本から解決するという方向でいいな?」
「「「「異議なし!」」」」
みんなが一斉に頷いた。
「ふざけたことをしてる領主とその息子に、一泡吹かせてやろう」
「腕が鳴るにゃ!」
「でも、具体的にはどうするのですか? 何か策が?」
「そうだな……」
考える。
俺達の安全を確立する方法。
街の人々の平和を守る方法。
横暴な領主を止める方法。
それらを全て満たす条件は?
「……過去に何度か、騎士団の監査が入ったんだよな?」
街の人々から聞いた話を思い返した。
「そうですね、そのように聞いています」
「ただ、証拠は見つからず、罰することはできないという結果に終わっているぞ?」
つまり、証拠が見つかれば、領主達は罰せられるということだ。
「証拠が見つからない、か……その辺りの話を、もう少し詳しく聞きたいな」
「何か思いついたのですか?」
「連中は、証拠を隠滅することで監査を逃れている。その方法を探ることができれば……」
「つまり……証拠隠滅能力を奪い、監査を受けさせる。そうすることで、領主達の悪事を暴露する、っていうこと?」
「タニア、正解」
「にゃあ! それなら、街の人達も助けることができるねっ」
「でも、言うほど簡単じゃないわよ? かなり派手に動いてるのに証拠が残らないなんて、普通、ありえないもの。一体、どんな方法を使っているのかしら?」
「そこなんだよな、問題は」
領主達が、どのような方法で証拠を隠滅しているのか?
それを明らかにした後、改めて、監査を受けさせる。
そうすれば、全ての悪事が明らかになり、領主達は処分されるだろう。
しかし、どのように証拠を隠滅しているのかがわからない。
あれこれと考えてみるものの、どれも想像でしかない。
明確な答えが見つからない。
「……ダメだ。考えるだけじゃ答えが見つからない」
「にゃー……どうしようか?」
「この問題に詳しい人に話を聞きに行こう」
「にゃん? 詳しい人って誰?」
「騎士団だ」
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