5話 薬草採取
俺たちに絡んできた男は、日頃から粗暴な振る舞いを繰り返しており、ギルドでも持て余していたらしい。
図らずとも、そんな男に灸をすえる形となり、俺は無罪放免でお咎め無し。
むしろ、よくやってくれたと、受付嬢から感謝された。
それでいいのか? と思わないでもないが……
問題を掘り返す必要もないので、そのままにしておいた。
その後、薬草採取の依頼を受けて、俺達はギルドを後にした。
「ねーねー、なんで薬草採取なの? ドラゴン退治とか伝説の剣を手に入れるとか、そういう依頼は?」
「いきなりそんな依頼を受けられるわけないだろう。俺は、まだFランクなんだ」
「にゃん?」
「つまりだな……新米が無茶をしないように、最初は一番下のFランクから始まるんだ。最初は、危険のない簡単な依頼しか受けることができない。地道に依頼をこなし、数を重ねることでランクが上がり、リスクは大きいがリターンも大きい依頼を受けることができるようになる」
「冒険者ってめんどくさいんだねー」
「仕方ないさ。こんなシステムでもないと、無茶をするヤツが出てくるからな」
「レインなら、もっともっと上の依頼も、簡単にこなせると思うんだけどなー」
「確かに、今はカナデと契約した力があるが……俺は、冒険者としてはド素人だからな。思わぬところで足をすくわれるかもしれない。そうならないように、ちゃんと依頼をこなして、経験を積んでいかないと。油断大敵、ってヤツだ」
「おー、なるほど! レインはがんばりやさんなんだねっ。私もがんばるよっ」
「ああ、一緒にがんばろう」
「おーっ♪」
――――――――――
街の外に出て、平原に移動する。
今日は、ここで薬草採取だ。
「ところで……」
「にゃん?」
「カナデは、俺についてきてよかったのか? 契約を結んでおいてなんだけど、何かすることがあったりするんじゃないのか?」
「何もないよ?」
「そうなのか? なら、どうしてあんなところに?」
「旅をしてたんだよ♪ 私達って個体数が少ないから、山の奥地でひっそりと暮らしていたんだけど、そんな生活つまらないなー、って。それで、旅に出たの! そこで、レインと出会ったんだよ♪」
「この広い世界を旅して、偶然、俺と出会ったのか……」
「運命みたいだね♪」
「そうかもな」
カナデと出会ってから、俺の中で何かが変わったような気がする。
出会ったばかりだけど、この明るい笑顔に救われたような気がする。
本当に運命なのかもしれないな。
「それじゃあ、がんばって薬草を採取しよーっ!」
「待て待て。いきなり駆け出そうとしない」
「にゃんっ」
首根っこを掴まえて、駆け出そうとするカナデを制止させる。
「うー……なぁに?」
「闇雲に探しても見つからないだろう?」
「でもでも、薬草採取なんて、かたっぱしから見て回るくらいしか方法がないような?」
「ここは俺に任せてくれ。ビーストテイマーならではの方法があるんだ」
周辺を見回す。
こういう平原なら、ちょっと探すだけで……よし、見つけた。
「うさぎ?」
「そう。まずは、コイツと仮契約する」
見つけたうさぎの元に歩み寄り、手の平をかざす。
仮契約というのは、簡易版の契約だ。
短時間しか使役することができないが、その分、簡単に契約することができる。
「よし、契約完了」
「それでそれで、どうするの?」
テイムに興味があるような感じで、カナデは目をキラキラさせながらこちらを見ていた。
「まずは、仲間を集めさせる」
仲間を集めるようにうさぎに命令した。
ほどなくして、三十羽くらいのうさぎが集まる。
「おーっ、もふもふ天国だぁ♪」
「で、こいつら全員と仮契約する」
「へ?」
仮契約とはいえ、一羽一羽していたら面倒なので、まとめて契約。
……完了!
「よし。お前たち、この辺に生えている薬草を探して、俺のところに持ってくるんだ。言っておくが、エサと勘違いして食べないようにな?」
「「「キュイッ!」」」
うさぎが一斉に鳴いて、バラバラに散った。
「とまあ、こんな感じで、小動物を複数テイムすることで、簡単に薬草を集めることができるわけだ」
「……」
なぜか知らないが、カナデが唖然としてた。
「どうしたんだ?」
「ど、どういうこと……?」
「なにが?」
「小動物とはいえ、複数の動物を……三十羽のうさぎをテイムするなんて、聞いたことがないんだけど……」
「え? そうなのか?」
「普通のビーストテイマーには、とてもじゃないけどできないよ……? 仮契約のことは詳しく知らないけど……普通は、一人につき一体までだからね? 私を使役してるから、レインはもうテイムできないはずなのに……ど、どういうこと???」
よっぽど信じられないことだったらしく、カナデの頭の上に、いくつもの疑問符が浮かんでいた。
そんなに驚くことをしただろうか?
これくらい、ビーストテイマーなら当然だよな?
「おっ、来た来た」
話をしているうちに、薬草を咥えたうさぎたちが戻ってきた。
俺の足元に薬草を置いていく。
「まだいけそうだな……よし、もう一度頼む」
「「「キュイッ!」」」
再びうさぎたちが散る。
「すごい……こんな細かい命令にちゃんと従ってるよ……薬草を見つけて、採取して、傷つけないようにして戻る……そんな複雑な命令、小動物には無理なのに……え? え? ど、どういうこと???」
「そんなに驚くことか?」
「驚くことだよぉ! レインは、自分がとんでもないことをしてる、っていう自覚を持ったほうがいいよっ」
「そんなことを言われてもな……」
ビーストテイマーにとって、これが動物をテイムするということだ。
当たり前のことなので、今更、疑問に思うことはない。
……だよな?
他のビーストテイマーは、『あの人』しか知らないから、普通の基準を問われると、ちょっと言葉に詰まってしまうが……
いや、俺が特別なんてことはないだろう。
これが普通のはずだ。
「カナデが猫霊族といっても、知らないことはあるだろ? 俺がこういうテイムをすることも、案外、普通のことかもしれないぞ」
「そんなことあるわけないニャアあああぁっ!!!」
「うわっ」
「レインはおかしいんだよっ? こんな風にテイムすることは、絶対に無理なんだから!」
「無理と言われても……ビーストテイマーにとっては、これが当たり前のことなんだけどな」
「うぅ……そこなんだよね。レインはウソつくような人じゃないし、私を騙すなんてことするわけないし……かといって、薬とかで能力を強化してるわけでもなさそうだし……まさか、レインの才能がこんなにすごいなんて。ううん、才能なんて言葉で片付けられるのかな……?」
大げさだなあ、と思うものの……
そう口にしたら、また何か言われてしまうかもしれない。
なので、カナデが落ち着くまで黙っておくことにした。
19時頃にもう一度更新します。




