45話 依頼完了
盗掘者達には、とある共通点があった。
皆、ガンツの店で武具を購入していたのだ。
しかも、ガンツに気に入られたわけではなくて、ナマクラを掴まされていた。
そのことを他の冒険者に指摘されて、真実を知った盗掘者達は報復を考えた。
ただ単純に、ガンツを殴るだけでは気が済まない。
自分達がバカにされたように、ガンツのプライドをへし折らないと気が済まない。
そう考えた盗掘者達は、ミスリルを横から奪い取り、ガンツに武具を作れないようにした。
職人の誇り、魂を奪う。
それが、盗掘者達の考えた報復だった。
盗掘者達をギルドに引き渡した後、そんな供述をして……
そして今日、ガンツにありのままを伝える。
「そうか……そういうことじゃったか……」
ガンツは落ち込んでいるみたいだった。
それも仕方ない。
高いプライドが原因になって、自分の首を締めていたのだ。
以前、話した時のような元気はなく、実年齢よりも一回りくらい老けて見えた。
「儂は自惚れていたのかもしれんな……儂の作る武具こそが至高と信じて疑わず、凡人には使うことはできぬと見下して……どんな客であろうと、一心に武具を作ることこそが、職人のすることじゃ。それなのに、客を愚かと断定して手を抜くことをしていたとは……一番の愚か者は儂自身か」
「そうかもしれないな」
「ちょっ」
「レインっ?」
カナデとタニアが慌てるが、別に傷口に塩を塗り込むような真似をするつもりはない。
「ガンツは、自分が間違っていたって認めるんだよな?」
「ああ……そうじゃな。儂は間違っておった」
「なら、改めればいい」
「なに?」
「次からは、一つ一つ、全力で武具を作ればいいんじゃないか? 取り返しのつかない過ち、っていうわけじゃないんだ。間違いは正せばいい。そうだろう?」
「……ずいぶんと簡単に言うんじゃな」
「ガンツは自分の間違いをきちんと認められる男だ。少なくとも、俺はそう思っているよ」
「……ふはははっ!」
ガンツが豪快に笑い、元気を取り戻した。
以前と同じように、瞳に強い意思を宿している。
熱い職人の魂が感じられる。
「儂の半分も生きていない小僧にそんなことを言われるとはな」
「不愉快か?」
「いいや、愉快じゃ。これ以上ないくらいに楽しいぞ」
「おっちゃん、元気になったね」
「めでたしめでたし、ってところかしら?」
「レインのおかげで、完全に目が覚めたぞ! 改めて礼を言う」
「寝ぼけたまま武具を作ってもらうわけにはいかないからな」
「ふんっ、言いおるわい」
ガンツがにやりと笑う。
俺もにやりと笑う。
「よしっ! 過ぎたことをいつまでも気にしてても仕方ない。大事なのはこれからじゃ! これからは、一つ一つ、魂を込めて武具を作るぞ!」
「その意気で、俺の武具も一つよろしく頼む」
「おう、任せておくがいい!」
ガンツはドンと胸を叩いてみせる。
以前の何倍も頼もしく見える。
「約束通り、最高の武具を作ってやるぞ! 材料も戻ってきたことだしな。レイン、お前はどんな武具を求める?」
「短剣を作ってくれないか? あと、小手を作って欲しい」
「む? 短剣はわかるが、小手じゃと? 防具が欲しいのならば、胸当てでもフルプレートでも、なんでも用意してやるぞ」
「防具は自分でなんとかするよ。それよりも、特別な小手がほしいんだ。ちょっと、俺のアイディアを詰め込んでほしいんだけど……」
以前から考えていた『アイディア』をガンツに伝える。
子供がいたずらを企んだような、そんな笑顔を浮かべる。
「ふむふむ、おもしろそうじゃな」
「だろう?」
「しかし、時間がかかるぞ?」
「構わないよ。最近は依頼ばかりこなしていたから、そろそろ休みをとろうと思っていたし」
「休み!」
「あたし、おいしいものを食べたいわ!」
カナデとタニアが一番最初に反応した。
「この街に観光名所はないのですか? ソラは、観光を楽しみたいです」
「我は楽しいことがあればなんでもいいぞ! あと、甘い物を希望する!」
ソラとルナも笑顔だった。
うーん……ここまで喜ばれるなんて。
五人パーティーになったから、今まで以上に路銀を稼がないといけないと思い、がんばってきたのだけど……
みんな、疲れていたのかもしれないな。
これは反省しなければいけない。
「どれくらいかかる?」
「そうじゃな……一週間といったところじゃな」
「わかった。なら、一週間後にまた来るよ」
「うむ。期待して待っておるがいい」
ガンツと挨拶をして、店を後にした。
――――――――――
「「「「「かんぱーいっ!!!」」」」」
行きつけになりつつある食堂に足を運び、ドリンクで乾杯をする。
頼んでいるものは、さわやかな後味がする果実酒だ。
ほどよい甘さが疲れた体に心地いい。
「ぷはーっ、この一杯のために生きてると言っても過言じゃないわね!」
「タニア、おっさんくさいにゃ」
「んく……んく……んく……はふぅ。うまいな! もう一杯、頼んでもいいか?」
「もちろん。遠慮しないで、好きなだけ注文してくれ」
「言ったな? 後で撤回することは許されぬぞ?」
獲物を見つけたような感じで、ルナの目がきらりと光る。
「じゃあ、この果実酒を瓶ごと、三つ追加で。それから、エールもくれ」
「ずいぶん頼むんだな……」
「ダメか?」
「いや、構わないよ。ソラはいいのか?」
「えっと……なら、ルナと同じ注文を」
ソラもとんでもない量の酒を頼んでいた。
よほど気に入ったのだろうか?
泥酔してしまわないか心配になる。
そんな俺の心配を察したらしく、カナデが言う。
「にゃー。精霊族って、お酒が好きなんだよねー」
「そうなのか?」
「聞いた話だけど、お酒を水のように飲むんだって。それなのに、ほとんど酔わないらしいよ」
「精霊族の半分はお酒でできているからな!」
ルナが冗談なのか本気なのかわからないことを言う。
……冗談だよな?
「そういうことなら心配することないか。好きなだけ頼んでくれ」
「あの……本当に好きなだけ頼んでもいいのですか?」
ソラの目に遠慮の色が見える。
子供が大人の顔色を窺っているみたいだ。
そんな顔をしてほしくないから、俺は……
「遠慮しないでいいぞ」
「あ……」
ぽんぽん、とソラの頭を撫でた。
「これ、二人の歓迎会でもあるからな」
「ソラ達の……」
「歓迎会……?」
きょとんとする二人に、カナデがにっこりと笑う。
「新しい仲間が増えた時は、みんなで一緒にご飯を食べるんだよー。そうすれば、みんな仲良し♪」
「単純な考えよね」
「タニアの時も、みんなでご飯を食べたんだよ。こんなこと言ってるけど、タニア、うれしそうにしてたし」
「ち、違うわよっ。別にうれしそうなんて……違うんだからねっ!?」
「おかげで、私達はみんな仲良しなんだ♪」
「まあ、そういうことだ。ちょっと遅れたけど、二人の歓迎会だから……遠慮なんてしないでくれ。むしろ、図々しくなってほしい」
「……変な注文ですね。ですが、悪くありません」
「ふはは! 我は、図々しくなることなら自信があるぞ。図々しい選手権一位になれる!」
「なんですか、その変な大会は……あと、ルナは遠慮を覚えた方がいいですよ」
「たった今、レインに遠慮するなと言われたばかりだ! だから、その提案は却下するぞ」
「ルナの言う通り、本当に遠慮しなくていいからな。俺達は仲間なんだから、そういうのはなしでいこう」
「レイン……わかりました。そうします」
「さすがレインだ! 話がわかるな。ついでに、レインの分も頼んでやるぞ」
「では、ソラはカナデとタニアの分を」
「俺は、あまり強くないんだけどな……まあ、たまにはいいか」
「レイン、一緒に飲もう♪ 私が注いであげるね」
「あ、こら! それ、あたしがやろうと思ってたのに」
「ソラも注ぎましょうか?」
「我は注ぐだけではなくて、もっと色々なサービスもしてやるぞ?」
「別に、俺は自分で……」
「「「「それはダメ」」」」
なぜか意見が一致する四人。
どうしてこうなる?
「人間って、お酒を一緒に飲むと仲良くなれるんだよね? にゃー、私、レインともっと仲良くなりたいな♪」
「あたしは、別に……レインのことなんてどうでもいいんだけど? まあ、それでも仲間だし? 交流はしておかないと、っていうやつ?」
「ソラも、レインと一緒に飲むことを希望します。どう言葉にすればいいか、よくわかりませんが……レインと一緒にいることを望んでいるのです」
「我も皆と同じだぞ! ここで一人、のんびりしていたら、大きなリードをつけられてしまいそうだからな。我もがんばらないといけないのだ」
「いったい、何の話をしているんだ?」
「「「「この男、鈍い……」」」」
「と、言われてもな……まあいいか。とりあえず、今日は飲もう。楽しい時間にしようか」
……冒険者達の宴は、夜遅くまで続く。
飲んで、食べて……
ただそれだけのことなのに、絆が深くなっていくような気がした。
それはきっと、同じ時間を笑顔で過ごしているからだろう。
これからも、みんなと一緒に。
そんなことを思いながら、楽しい時間は流れていった。
そして……
翌日。
見事に二日酔いになるというオチがついてくるのだった。
反省。
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