43話 ビーストテイマーvsビーストテイマー
足音を立てないように、慎重に鉱山の中を移動する。
ガンツの地図を頼りに進み……
ほどなくして開けた場所に出た。
ちょっとしたスポーツができるくらいの大きな広場だ。
ここが採掘場なのだろう。
あちらこちらに採掘用の道具が転がっていて、鉱石を運ぶためのトロッコも見えた。
「にゃー……怪しい人たちがいるよ」
「全部で五人……ソラの言った通りね」
男が三人。
女が二人。
それぞれ、鉱石を採掘していた。
「あの連中が盗掘者なのか?」
「間違いないだろうな」
ガンツと契約を交わしている冒険者は四人パーティーで、全員、男と聞いている。
それと、他に採掘契約を交わしている者はいないとも聞いている。
導き出される答えは、盗掘以外にありえない。
「でもでも、なんで盗掘なんてしてるのかな?」
「儲かるのかしら?」
「微妙なところですね。利益はあると思いますが、事件が露見するリスクが大きいです。リスクとリターンが合いません」
「ソラの言う通りだ。盗掘は罪が大きい。普通は、こんなことはしないんだが……」
「どちらにしろ、我らのやることは一つだ」
「そうだな」
「ヤルぞ」
「違う」
「なら、あたしが燃やす?」
「それも違う」
どうして、ウチのパーティーは過激な思想が多いんだ?
誰かに影響されているのか?
……俺じゃないと思いたい。
「カナデはソラと、タニアはルナと組んで、それぞれ二人を相手にしてくれ。残りの一人、リーダー格の男は俺が相手をする」
「了解にゃ!」
「合図でいくぞ? 準備はいいか?」
みんなが小さく頷いた。
「3……2……1……今っ!」
物陰から一斉に飛び出した。
「なんだっ、お前たちはぐぁ!?」
「一番乗り♪」
カナデがさっそく暴れていた。
盗掘をしていた男の一人に飛び蹴りを放つ。
男がものすごい勢いで転がり、壁に激突した。
「おとなしくしなさいっ!」
「ふざけるなっ、なんなんだお前たちはぐぉ!?」
一方で、タニアが尻尾を武器のように振り回して、盗掘者を打ちのめしていた。
盗掘者は剣を抜いて応戦するものの、そこらの武器でドラゴンの鱗を傷つけられるわけがない。
タニアは尻尾を器用に使い、武器を打ち砕いて、盗掘者を圧倒する。
「我らの出番がないな、つまらぬ」
「そんなことはありません。ほら、盗掘者の仲間が魔法を唱えようとしています。妨害しますよ。ソラはカナデを、ルナはタニアを援護しないといけません」
「ラジャー。ここは一つ、我の力をレインに見せて、後で褒めてもらうことにするぞ!」
ソラとルナは、カナデとタニアを魔法で援護する。
よくわからないが、敵の魔法を打ち消しているみたいだ。
さすが精霊族。
とんでもないことを平然とやってのける。
「なんだ、てめえらはっ!?」
俺と対峙したリーダー格の男が短剣を構えて、吠えた。
「ガンツの依頼を請けた、と言えばわかるか?」
「なんだと……? あのじじいの?」
「盗掘の現行犯だ。お前たちを捕まえてギルドに引き渡す」
「そんなことができると思うのか?」
「できるさ」
「生意気なガキだ!」
男が斬りかかってくるが……遅い。
アリオスに比べると遥かに遅く、技術も拙い。
皮肉なことに、アリオスとの戦いが俺の戦闘技術を底上げしていた。
この程度の男に苦戦する道理はない。
「ふっ!」
刃をかいくぐり、反撃の拳を見舞う。
確かな手応えが拳に伝わり……
男がよろめいて、たまらずに後退した。
だが、異常に打たれ強い。
今の俺の力なら、普通の人間なんて数発で気絶させられるのに……手加減がすぎたか?
「諦めて投降しろ。おとなしくするのなら、ここで終わりにする」
「くそがっ……こんなガキに舐められてたまるか! あのじじいに一泡吹かせるまで、捕まるわけにはいかねえんだよっ」
「うん? それはどういう意味だ?」
「素直に教えるわけないだろうが」
男が立ち上がり、不敵に笑う。
「へへ……てめえらのような邪魔者が現れることは想定してたからな。備えはバッチリなんだよ」
「なんだと?」
「来いっ!」
地響きと共に、巨大な影が現れる。
やがて、ソレ、は俺の前に姿を見せた。
「ベヒーモスだと!?」
Bランクにカテゴリーされる魔物だ。
猛牛を何倍にも大きくして、全身に筋肉の鎧をまとわせたような化物だ。
側頭部に生える鋭利な角と、背中まで続くたてがみ。
手足は大木のように太い。
その力はすさまじく、小さな城門程度なら、軽々とぶち抜いてしまうとか。
「なんでこんなところに……」
「はははっ、驚いたか!? こいつは、俺のペットなんだよ」
「ペットだと? まさかお前が……」
「俺はビーストテイマーなんだよ。さっきまでは鳥に周囲を見張らせてたが……おまえらが現れたから、念のために契約をコイツに切り替えたんだよ。それで正解だったみたいだな」
「二重契約はできないんだろう? 鳥と契約していた間、ベヒーモスはどうしたんだ? まさか、放置しておいたのか?」
「コイツは、幼体の頃に俺が見つけてな。以来、ずっと俺が育ててきた。言わば、親代わりさ。契約してなくても、ある程度は、俺の言うことは聞くようになってるんだよ。まっ、契約した方がより精密なコントロールができるから、いざって時は頼りにさせてもらっているけどな」
人に飼いならされたベヒーモスなんて、それはもう、兵器と同様だ。
そんなものを相手にすることになるなんて……
色々な意味で想定外だ。
こんな厄介な展開は予想していない。
ただ、ある意味で納得だ。
男の尋常ではない耐久力は、ベヒーモスと契約したことで得た力なのだろう。
俺がカナデやタニアの力を得ているように、男はベヒーモスの頑丈な耐久力を手に入れた……というところか。
「いけ!」
「くっ」
男の合図でベヒーモスが突貫してきた。
対攻城兵器並の威力だ。
真正面から受け止めるなんて選択肢はない。
全力で横に跳んで回避するが……
「グルァアアアアアッ!!!」
ベヒーモスが体重を右に寄せて、旋回。
逃がさないというように食らいついてくる。
「こっ……のぉ!!!」
壁の手前ギリギリまで駆けて、跳躍。
突貫してくる砲弾のような巨体を、際どいところで避けて……
ベヒーモスは俺という目標を見失い、勢いはそのままに、壁に突っ込んだ。
ズゥンッ! と坑道全体が揺れる。
まるで地震が起きたみたいだ。
一匹の魔物がこんなことを引き起こしているなんて……考えるだけで恐ろしい。
「グゥウウウ……」
ベヒーモスが壁にめり込んだ頭を引き抜いた。
その目は怒りで血走っている。
さすが、Bランクの魔物というべきか。
ダメージは大してないらしい。
「こんなところで暴れまわるなっ、おとなしくしてろ!」
逃げていても、いずれ追いつかれてしまいそうだ。
ならば、攻めに打って出る!
ベヒーモスの横を駆け抜けて……
側頭部、首、脇腹。
同時に、急所を狙い拳打を放つ。
猫霊族の力を借りた、抉り取るような一撃だ。
さすがに、これならば……
「グァアアアアアッ!!!」
「マジか」
手応えはある。
が、大きなダメージを与えるまでは至らず、怒りを買っただけだった。
ベヒーモスが怒りに吠えて、大木のような前足を振り抜く。
避けられない!?
ベヒーモスの巨腕が俺を捉える。
ゴォッ!!! という衝撃と共に、俺の体は一直線に吹き飛んだ。
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