42話 盗掘
ちょっとしたハプニングが起きたものの、その後は順調で……
俺達はガンツが所有する鉱山に辿り着いた。
木枠で補強された洞窟の入り口が見える。
地面には、トロッコのレールが敷かれていた。
採掘した鉱石を運ぶためのものだろう。
いつしか盗賊と遭遇した時と同じように、木陰に隠れて鉱山の様子を探る。
「誰もいませんね……」
「採掘が停止しているのだから、誰もいないのが当然ではないか? 我が姉はそんなことも考えられないくらい、頭がポンコツなのか?」
「そう言うルナは、口がポンコツみたいですね……姉に対するその口の利き方、矯正しないといけません」
「ほほう、受けて立つぞ。返り討ちでボッコボコだ!」
「はいそこ。頼むから、おとなしくしててくれ」
「「わかりました」」
返事は良いんだけどな……
ルナの場合、その性格故に、何をやらかすかわからないという不安がある。
まあ、なんだかんだで理知的なところはあるから、滅多なことはしないと思うが……
ふと、頭上で鳥が旋回しているのが見えた。
なんだ? エサを探している……?
それにしては動きがおかしい。
ぐるぐるとこの場を旋回して……それから、どこかに一直線に飛び去る。
まるで、何かを見つけた、というように。
「ねえねえ、レイン。なんで、私達隠れているの?」
カナデに声をかけられて、疑問が散ってしまう。
思考を切り替えて、カナデの質問に答える。
「突然、鉱石が採れなくなった。その原因はなんだと思う?」
「えっと……枯れた?」
「最初に思い浮かぶ原因は、そうなるよな。でも、掘り尽くすにしては、ちょっと腑に落ちないところがある。他の可能性があるとしたら? ガンツが契約を結んでいる冒険者以外に、誰かが出入りしていたとしたら? あらかじめ聞いておいたんだが、特に見張りの類は置いていなかったらしい」
「……盗掘、って言いたいわけ?」
「タニア、正解」
「なるほどね。まあ、可能性はあるけど……根拠は?」
「ない」
「は?」
「いくつかある可能性の一つだ。他にも、冒険者が横流しをしている、魔物の被害に遭っている、自然に枯渇した……色々なパターンが考えられる」
「なら、どうしてこんな真似してるのよ?」
「盗掘者が正解というパターンだった場合、呑気に足を踏み入れるわけにはいかないだろう? どんな目に遭うかわからない。だから、まずはここで観察する。原因は盗掘者なのか? それとも、別の要因なのか? 中に踏み込むのは、それを見極めてからだ」
「用心深いわね」
「みんなの命を預かっていると言っても過言じゃないからな。みんなのためなら、そりゃ、用心深くなるさ」
「……それって、あたし達のことを心配してくれてる、ってこと?」
「もちろん」
「そ、そう……まあ、レインにしては良い心がけじゃない? 褒めてあげる」
「にゃー、タニアはツンデレにゃ」
「「ツンデレですね」」
「あによっ、文句あるの!?」
仲の良い四人だった。
「静かに」
不意に足音が響いた。
それを合図にしたように、みんなはすぐに口を閉じた。
帯剣した男が二人、鉱山の中から出てきた。
盗賊……という風貌ではない。
どちらかというと、冒険者寄りだ。
二人は剣を抜いて、まっすぐこちらに向かってくる。
「ねえ、レイン……もしかして、私達のこと、バレてない?」
「そんなはずないでしょ? ここで様子を見てただけ。鉱山の中まで聞こえるような物音は出してないわよ」
「魔法……でしょうか? しかし、探知系の魔法が使われた形跡どころか、魔力反応もないのですが……」
「どちらにしろ、バレていると判断した方がいいぞ。どうするのだ? ヤルか?」
「迎撃はするが、やりすぎには注意だ。相手の正体を確かめる必要がある」
「了解にゃ!」
――――――――――
「……やりすぎには注意、って言ったよな?」
完全に気絶して伸びている男が二人。
そして、ひたすらに気まずそうにしているカナデとタニア。
「にゃあ……ご、ごめんなさい……」
「あ、あたしは悪くないわよっ? あいつが勝手に飛び込んできて、勝手にあたしの拳にあたったの!」
「あのな」
あっという間の出来事だった。
二人は襲いかかってきた男を一撃で倒した。
それはいいんだけど……
やりすぎだった。
一発KOで、二人の男は完全に目を回している。
当分、目を覚まさないだろう。
「こいつらから情報を聞き出す予定だったのに……」
「にゃあ……」
「うっ……」
「……まあいいか。やってしまったことは仕方ないし、いきなり襲ってきたっていうことは、何かしらやましいことがある、っていう証拠にもなる」
「そ、そうだよね!」
「そうそう! それらのことがわかってたから、あたし達は先手を打ったのよっ」
「仕方ないとは言ったが、反省はしような? 敵がどういう連中なのか、その手がかりを掴むことができなくなったんだからな?」
「「……ごめんなさい……」」
説教はここまでにしよう。
ネチネチと言いたくないし、それに、最強種である二人は手加減が苦手だろう。
そんなこと、今まで練習したこともないだろうし……
仕方ないと割り切ることにする。
「あの」
ソラが手を上げた。
「よければ、ソラ達がその男達の記憶を見ましょうか?」
「え? そんなことができるのか?」
「ソラ達精霊族は、魔法のエキスパートですから。普通の人が知らないような魔法を使うことができますよ」
「ふふんっ、我らに任せるがよいぞ!」
さすが、というべきか。
精霊族は、最強種の中で一番魔力が高い。
二位の竜族と比べると、その数倍もあり、ダントツの一位だ。
そんな力を持っているからこそ、『記憶を覗く』なんていう、普通なら考えられない常識外の魔法を使うことができるのだろう。
「では、いきます」
「「メモリーサーチ」」
ソラとルナは、それぞれ男の頭部に手の平をかざして、魔法を唱えた。
淡い光の粒が男達の頭部の周りをふわふわと旋回する。
その光の粒は、ほどなくしてソラとルナの手の平に吸い込まれて……
やがて、光が消えた。
「サーチ、完了です」
「ふむ、レインの睨んだ通りだな」
「というと……」
「この男達が盗掘している場面が見えました。間違いありません」
「こっちの男も盗掘をしているぞ。そのような光景が見えた」
「男達の正体はわかるか?」
「すまぬ、そこまでは……」
「記憶を見ると言っても、男達が見た映像を盗み見るようなものなので……ちょうどいい記憶をピンポイントで探ることもできないので、なかなか難しいのです」
「ただ、男達の仲間が見えたぞ。いずれも、冒険者のようだ」
「なるほど……人数はわかるか?」
「この二人を除いて、残り五人だと思います」
「我も同意見なのだ」
「……うん、わかった。ありがとうな」
「ソラ達は、レインの役に立てましたか?」
「すごい助かったよ」
「なら、我はなでなでを希望するぞ!」
求めるような視線をして、ルナがひょいっと頭をこちらに差し出してきた。
「え?」
「レインのなでなでは、至高の逸品だとか。ほれ、我にもなでなでをするがよい」
「料理のように言われてもな……えっと……ほら、これでいいか?」
求められるままに、ルナの頭を撫でた。
そっと、優しく。
髪をとかすように、ゆっくりと指を動かした。
「ふぁ」
ルナの口から変な声がこぼれた。
頬が染まり、瞳がとろんとなる。
「こ、これがレインのなでなでなのか……さ、最高に気持ちいい……とろけるようだ……これは、たまらぬ……我は、陥落してしまうぞ」
「……」
ソラがちらちらとこちらを見ていた。
正確に言うと、俺の手とルナの頭を見ていた。
「もしかして、ソラもしてほしいのか?」
「えっ!? いえ、それは、その……」
「これくらいでいいなら、いつでもするぞ?」
「いつでも!? じゃ、じゃあ……ソラもお願いします」
「よしよし」
「はふぅ」
ソラの頭も撫でた。
手櫛で髪を整えるように。
ふんわりと、優しく撫でる。
「こ、これは……やばい、ですね……半端ないっす」
口調がおかしくなるくらい、お気に召したらしい。
ソラとルナは、にっこりと満足そうに笑う。
「にゃー……うらやましい」
「あたしは、別に……な、なんとも思ってないし?」
カナデとタニアまで物欲しそうな目をした。
申し訳ないが、これ以上時間をロスするわけにはいかない。
なでなでは後でするということで我慢してもらおう。
「じゃあ……気を取り直して、中に入るぞ」
「らじゃー!」
「ただ、気をつけてくれ」
「ん? なんのこと?」
「俺達のことはもうバレていると思う」
「そういえば、なんでバレたのかしら? そこのところ、謎よね」
「にゃー……もしかして、どこかで見張られていたのかな?」
「カナデ、正解」
「やったー♪」
「ですが、見張りはどこにもいませんでした。魔法を使った形跡もありませんでした」
「なぜ、そんなことがわかるのだ?」
「敵は、上空から俺達を……というか、この鉱山の入口付近を見張っていたんだよ」
不自然な動きで旋回を繰り返した鳥の姿が思い返された。
自然の鳥は、あんな動きはしない。
するとしたら、それは……
「敵の中に、ビーストテイマーがいる」
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