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41話 お約束のハプニング

「にゃっ、ふにゃあああああぁ!!!?」

「カナデ!?」


 湖の方から悲鳴が聞こえてきた。

 うとうとしていたけれど、一瞬で目が覚める。


 周辺を警戒させている小動物達からは、何の反応もない。

 ということは、湖で何かが起きた?


「ええいっ、考えてる場合じゃない!」


 立ち上がり、全力で駆ける。

 カナデ、タニア。

 ソラとルナ。

 みんな無事でいてくれよ!


 祈りながら走るものの……

 この時の俺は、致命的なことを忘れていた。


 湖までを一気に駆け抜ける。


「みんなっ、大丈夫か!?」

「「「「え?」」」」


 素肌を晒した四人が、きょとんと振り返る。


 ……ああ。

 そういえば、水浴びをしている最中だったっけ。

 今更ながらそんなことを思い出して、フリーズしてしまう。


「「「「……」」」」


 突然、俺が現れたことが理解できないらしく、みんなも硬直していた。

 水が滴る肌を隠そうともしないで、呆然としてる。


 そんな中、カナデの尻尾がひょこひょこと動いていた。

 その先端に、魚がぱくりと食らいついていた。

 どうも、さっきの悲鳴は、尻尾をかじられたことが原因らしい。


 先に我に返ったのは、俺だった。


「……すまないっ!!!」


 目の前は、肌色成分多数。

 慌てて目を逸らして、ついでに反転した。


「その……悲鳴が聞こえたから、何かあったんじゃないかと思って……もっとよく考えるべきだった。本当にすまない」


 早く立ち去らないと。

 変な汗をかきながら、俺は湖を後にして……


「「「「っっっっっーーーー!?!?!?!?!?」」」」


 後ろの方から、四人の声にならない悲鳴が聞こえてきた。

 ホント、すみません……




――――――――――




 ……30分後。


「にゃー……レインのえっち」


 湖から戻ってきたカナデ達は、揃って頬を朱色に染めていた。

 カナデは、落ち着きなさそうに尻尾をゆらゆらさせながら、こちらにジト目を向ける。


「すまない。言い訳になるかもしれないが、悪気はなかったんだ」

「どうかしら? これ幸いに、あたし達の裸を覗こうとしたんじゃないの?」


 タニアも怒っていた。

 刺さるんじゃないかと思うくらい、鋭い視線をぶつけてきた。


「あわわわわわっ……レインに、ソラの、は、はだ……裸を……あわわわわわっ」

「ふむ。しばらくの間、ソラは使い物にならないな。やれやれ、困ったものだ」


 ソラは混乱中。

 逆に、ルナはひたすらに冷静だった。

 その冷静なところが、逆に怖い。


 とんでもないことをしてしまった。

 その気がなかったとはいえ、みんなが水浴びしているところを覗いてしまうなんて……


 ……普通なら、こんな男を信頼することはできないよな。

 今まで、それなりにうまくやってきたと思うが、一気に信頼が崩れてしまったと思う。

 このまま一緒にいることは難しいかもしれない。

 最悪、パーティーの崩壊も……ありえるだろう。


「本当にすまない! どんなことでもするから、許してほしいっ」

「にゃーん……? どんなことでも?」


 カナデの目が妖しく光る。


「本当に、どんなことでもしてくれるの?」

「……俺にできることならば」

「ふーん……二言はない?」


 タニアも話に乗ってきた。


「はわわわわわっ……ソラの裸が……うぅ、こうなれば、もはやソラはレインにもらってもらわないといけません……それ以外に道は……」

「おっと、どんどん妄想が飛躍してきたぞ。どこまで飛んでいくのか、我は興味が出てきたぞ」


 ソラとルナは、相変わらずのスタンスだ。


「なんでもいいなら……」

「あたし達が望むことは……」

「……ごくり」

「「今まで通りにすること!!」」

「……え?」


 よくわからない要求を突きつけられた。

 今まで通りに、と言われても……

 どういう意味が含まれているのだろう?


「あんなところを見られちゃったのは、すっごく恥ずかしいよ? にゃー、思い出したら、また顔が赤くなってきちゃう」

「本当ならブレスの一発や二発、浴びせてやりたいところなんだけど……でも、レインが純粋にあたし達の心配をしてくれたことは、わかっているから……文句を言いたくても言えないのよね」

「で、レインのことだから、みんなにひどいことをしたとかどんな顔をすればいいかわからないとか、そんなことを考えてるんだよね?」

「そんな風に自分を責めても、こっちとしては微妙な気分になるわけよ。その……あれは事故みたいなもので、レインが悪いなんて思ってないから」

「今回のことで、レインと溝ができる方が、私達はイヤなの。だから、いつも通りにしてほしいな」


 思ってもいなかった判決に、思わず目を丸くしてしまう。

 二人の言葉はうれしいが……


「いや、でもな……過程はどうあれ、結果的にみんなの……まあ、覗きをしたようなものだから……」

「ソラは……気にしていませんよ」

「ものすごい動揺していたように見えたぞ」

「ルナはちょっと黙っていてください」

「ラジャー」

「こほん」


 話を仕切り直すように、ソラが軽く咳払いをした。

 改めて、こちらの目を見て話をする。


「レインに悪意がないことは、ソラは理解しています。あんなことがあって、そ、その……も、ものすごく、は、ははは、恥ずかしいですが……ですが、カナデの言う通り、これがきっかけでレインとの距離が遠ざかることは望んでいません」

「我もソラと同意見だ! そこまで自分を責めるでない。事故と考えよ。あるいは、ラッキー、と思えばいい」

「ルナは黙りましょうね」

「ラジャー」

「さきほど、私達で話し合った末の結論です。なので、レインは今まで通りに……妙な負い目を感じるようなことはなく、普通にしてくれませんか?」

「えっと……それでいいのか? みんなは、普通に怒る権利があると思うんだけど……どうして、そんなに簡単に許してくれるんだ?」

「簡単に、っていうわけじゃないんだけどね。これでも、すごく恥ずかしいしモヤモヤするし……乙女心は複雑なんだよ? でもね」


 カナデがにっこりと笑う。

 ちょっと照れくさそうにしながら、


「レインなら……いいかなー、なんて」


 そんなことを口にした。


「あたしは、まあ……ほら。あたしは竜族じゃない? だから、人間に裸を見られても気にしないっていうか、虫に見られるみたいなものっていうか……でもでも、他の人間だったら消し炭にしてるけどね」


 ダメなのかダメじゃないのか、どっちなんだ……?


「ソラは、その、えっと……も、黙秘権を行使します」

「それほどイヤな気分ではなかった、と我が姉は言っているぞ。ちなみに、我も同じだ」

「ルナっ」

「すわっ、逃げろ」

「じゃあ、そういうことで……この話はおしまい!」

「そうそう。レインも水浴びする? 汗もかいてるでしょう? スッキリして、気持ちいいわよ」

「それで、今度は我らが覗きに行くのだな? わかるぞ」

「そんなことしませんからね!?」


 気がついたら、いつもの空気に戻っていた。

 なんていうか……笑ってしまう。

 みんなの裸を見てしまった時は、パーティー崩壊も覚悟したのだけど……

 杞憂でしかなかった。

 そんなことありえない、というようにカナデを始め、みんなが笑っている。


 いやまあ、だからといって、俺がしたミスが帳消しになるわけじゃないし……

 もっともっと反省しないといけないのだけど。


「……わかったよ。ちょっと難しいかもしれないが、なるべく意識しないようにして、今までどおり、普通にするよ」

「にゃー。がんばってね、レイン?」

「これは罰なんだから、きちんと実行しないとダメよ?」

「謝罪はすでに受け取ったので、謝るのも終わりです」

「一人、思い返すくらいは構わぬぞ? ふふふ」

「それはダメですからね!? ルナの戯言を真に受けないでくださいね!?」

「ま、まあ、レインも男だし? どうしてもっていう時は、まあ、ちょっとくらいなら……って、他意はないんだからね!?」

「にゃー……レインならいいよ?」


 パーティーが崩壊するなんて、どうしてそんなことを考えたのだろう?

 アリオスの一件があるから、ちょっと臆病になっていたのかもしれない。

 みんなが俺を信じてくれるように、俺も、みんなを信じないといけないな。


 そんな反省をしつつ……改めて、みんなに出会うことができた運命に感謝をした。

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[一言]殺伐とした異世界モノが多い中…癒されるっ!!
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[一言] >「あわわわわわっ……レインに、ソラの、は、はだ……裸を……あわわわわわっ」 >「ふむ。しばらくの間、ソラは使い物にならないな。やれやれ、困ったものだ」 なに、見られて困るものでもあるまい…
2022/04/19 23:50 退会済み
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