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38話 武器を作ろう

  アリオスの依頼を完了したことで、だいぶ懐が潤った。

 ある程度余裕ができたので、装備を整えることにした。


 街で一番という武具屋に足を運ぶ。


「……いらっしゃい」


 店の主人の無愛想な声が俺達を迎える。


 店の主人は、頑固な感じがした初老の男だった。

 背は子供のように低く、ずんぐりとした体型をしている。


 地人族だ。

 人間と酷似した種族で、鍛冶を得意としている。

 別名、ドワーフだ。


「すまない。武器と防具を探しているんだが……」

「……お前さんの目は節穴かね? 武具はそこらに並んでいるだろう? 好きなものを選んでくれ」

「あ、ああ。わかった」


 店主にオススメを選んでもらいたかったのだけど、話をすることさえできない。


「……にゃー、頑固そうなおじいさんだね」

「地人族って、偏屈な人ばかりよ」


 カナデとタニアがあれこれ言っていると……

 店主がチラリとこちらを見た。


 もしかして、聞こえている?

 恐ろしい地獄耳だ。

 二人の口を止めて、これ以上は余計なことを言わないように注意した。


「レイン。このような武器はどうですか?」


 ソラが短剣を持ってきた。


「けっこう良さそうだな。切れ味も悪くなさそうだ」

「でしょう?」

「うーん、ただ……」

「ただ?」

「なんて言えばいいのかな? うまく言葉にできないんだけど、どこか違う気がするんだよな」

「違う、ですか?」

「うまく言葉にできなくて悪いな。しっくりと来ないんだ」

「そうですか……残念です」

「俺のために、がんばって探してくれたことはうれしいよ。ありがとう」

「いえ。これくらい、当然のことですから。使い魔としての使命を果たしただけです」

「レイン、レイン」


 今度は、ルナが鞭を持ってきた。


「これなんてどうだ?」

「ルナ? レインは鞭を扱えませんよ?」

「しかし、テイマーといえば鞭ではないか? これで、言うことを聞かない使い魔をビシバシとやるのだ!」

「ふ、不潔ですっ」

「ふふん、何を想像したのだ? たかが鞭で、変な想像をするなんて……ソラはむっつりなのだな。くはははっ」

「ルナっ」

「戦略的撤退なのだ!」


 騒ぎながら追いかけっこ始める姉妹。

 追い出されないといいが……


 ちらりと店主を見るが、こちらに興味を示した様子はない。

 退屈そうな顔をしながら、静かに本を読んでいた。


 どうして、あそこまでやる気がないのだろうか?

 気になるが……

 聞いても答えてくれないだろう。


「追い出されないうちに、早く武具を選んでしまうか」


 武具が並べられた棚を見て回る。


 俺が扱うのは、主に短剣だ。

 ビーストテイマーは腕力がない者が多いので、そういった軽装備が主な武器となる。


 今の俺はカナデと契約しているから、長剣どころか、大剣も装備できるだろうが……

 それらはまともに使用したことがない。

 装備できるからと購入しても、うまく扱うことができず、宝の持ち腐れになる可能性が高い。


 やはり、使い慣れた短剣が一番だろう。

 そう考えて、短剣が並べられている棚の前に移動するが……


「うーん」


 ここの店主は、相当な腕なのだろう。

 どの武器も輝いて見える。


 しかし……ただ輝いているだけに見えるのは、俺の気のせいだろうか?

 見栄えだけがよくて、中身がない。

 そんな印象を受けた。


「おうっ、邪魔するぜ!」


 冒険者らしき、大柄な男が来店した。

 顔や腕に傷跡があり、いかにもという感じの風貌をしている。

 歴戦をくぐりぬけた強者かもしれない。


「あんたが店主かい?」

「……うむ」

「知り合いの冒険者に紹介されて、ここに来たんだ。この店なら、俺にピッタリな武具が見つかる、ってな」

「ほう……知り合いに紹介されたのか」

「長剣は置いてあるか? 金ならいくらでもある、最上級のものをくれ」

「金か……まあいい。ふむ……これなんてどうじゃ」


 店主が大男に一振りの剣を渡した。

 大男は剣を鞘から抜いて、刀身を確かめる。


「ほう……良い輝きだな。よく切れそうな剣だ」

「耐久力も抜群じゃ。乱暴に扱っても、傷一つつくことはないぞ。そいつなら、お前さんも満足できるのではないか?」

「よしっ、気に入ったぜ! こいつをもらおう」

「……まいど」


 大男はごきげんで店を出ていく。

 それを見て、カナデがそっと耳打ちしてきた。


「にゃー……あのおじさん、ひょっとして気の良い人なのかな? 聞いたら、ちゃんと答えてくれるのかな?」

「どうだろうな……それよりも、今のはちょっとおかしい」

「にゃん?」


 店主のところに歩み寄り、声をかける。


「すまない。今、男に売った剣について、聞きたいことがあるんだが……」

「……なんじゃ?」

「失礼なことを言うかもしれないが……もしかしたら、今の剣、大したことのない代物なんじゃないか?」


 突然の発言にみんなの驚く顔が見えた。

 ただ……

 店主は、こちらに興味を持ったように、どこか面白そうな顔をした。


「ほう……儂が客にナマクラを売りつけたと? そう言いたいわけか?」

「いや。ナマクラとまでは言わないが……この店なら、もっと良い剣があったんじゃないか?」

「どうしてそう思う?」

「単なる勘になってしまうんだが……この店に置いてある武器は、とてもよく輝いているが、それだけのような気がするんだよ。観賞用としては申し分ないが、実戦で使うとなると物足りない気がする」

「……小僧、なかなか見る目があるじゃないか。正解だ」

「ということは……?」

「あの男に売ったのは、片手間に作ることができる、単なる量産品じゃ。ほどほどに斬れて頑丈ではあるが……それだけの剣じゃな。それなりのものであると言えるが、魂を込めたものとは違う。業物と言うには程遠い代物じゃ」


 どうして、そんな剣を売ったのだろうか?

 法外な金を受け取っているわけではないから、詐欺目的ではないと思うが……


 俺の疑問に答えるように、店主は子供がいたずらをした時のように、にやりと笑う。


「なーに、年寄りのちょっとした意地悪じゃ」

「意地悪?」

「最近は、金にものを言わせて、自分のレベルに合わない武器を手にする客ばかりでな。さっきの客も、二言目に金はある、ときた。そんな連中の相手をしているうちに、バカらしくなってきたのじゃ。儂は武具職人じゃ。儂の作品は、皆、儂の子供のようなもの。それ相応の使い手に扱ってもらい、幸せになってほしいと思うのはワガママじゃろうか?」

「その気持ち、わかるわ! おっちゃんの言うことは正しい、間違ってないってあたしが保証してあげる!」


 意外なところで、タニアが店主に賛同した。

 プライドが高い者同士、通じるものがあったのだろうか?


「ほほう、嬢ちゃん。話がわかるな」

「あなたこそ、人間にしては良い根性をしてるわねっ」

「うん? その言い方……ああ。よく見れば、嬢ちゃんは竜族か」

「あら、驚かないの?」

「この歳じゃ。最強種に出会うのは初めてじゃない」

「ふーん、度胸があるのね。いいわ。ますます気に入ったわ」


 妙な親交が生まれつつあった。


「っと……話が逸れたな」


 店主がタニアから俺に視線を戻した。


「まあ、そんなわけで、ナマクラに騙されるような連中にはナマクラを売りつけている、というわけじゃ」

「意地の悪いことをするんだな」

「怒るかね?」

「いいや。本人は満足してたみたいだからな。俺がケチをつける問題でもないだろう」

「ふん。お前さんも、なかなか意地が悪いように思えるが?」

「レインはとても親切ですよ?」

「しかし、夜は意地悪かもしれぬな」

「よ、夜……!?」

「ふふん、我が姉は何を想像したのだ? 本当にむっつりだな」

「この展開はもういいですからっ」


 またも話が逸れた。


「ところで……お前さんは、どうやって、ここに置いてあるものがナマクラじゃと気づいたんじゃ? 儂が言うのもなんじゃが、簡単には見分けられないぞ?」

「勘……ってことになるな」

「なんとも曖昧な答えじゃのう」

「本当に勘だからな。強いていうなら、俺がビーストテイマーということが関係しているのかもしれない」

「ほう。お前さんは、ビーストテイマーじゃったのか。人気のない職についているなんて、珍しいのう」

「俺は気に入っているんだけどな。それはともかく……テイムする時は、相手をよく観察する必要があるんだ。慣れた相手なら問題ないが、初見の相手となると、俺の言葉、魔力が届くように、しっかりと観察する必要がある。そういう訓練もした。だから、物を見る目も自然と養われたのかもしれないな」

「ふむ……がはははっ、おもしろいっ!」


 店主は豪快に笑い、膝をぽんと叩いた。


「気に入ったぞ。お主は、久々の上客じゃ! どんな武具を探している? 剣か? 槍か? 斧か?」

「と、いうと……?」

「ナマクラと見抜き、試験を通過した者は、本物の武器を売ることにしてる。本物……儂が直々に作ってやろう」

「そういうことか。なら、短剣を頼む」

「ああ、任せておけ……と、言いたいところなのじゃが」

「にゃん?」

「どうしたのよ? まさか、やっぱりやーめた、なんて言わないでしょうね?」

「タニア、結論を出すのはまだ早いと思いますよ」


 なにやら困った顔をして、店主が言い淀む。

 何か問題があるのかもしれない。


 俺と同じ考えに至ったらしく、ルナが小首を傾げる。


「どうしたのだ、店主よ? 何か問題があるのか?」

「うむ、それはじゃな……」

「話してみないか? 我らならば、何か力になれるかもしれぬぞ」

「ふむ……そうじゃな。いずれ、街の皆も知ることになるじゃろう……実は、武器を作りたくても、材料がないのじゃ」


 心底困ったように、店主は大きなため息をこぼした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >地人族だ。 >人間と酷似した種族で、鍛冶を得意としている。 >別名、ドワーフだ。 地人族も、実は最強種…? なわけないですよね^^;
[一言] >ニーナ・ティナ・サーリャ様・リファ・シフォン・フィーニア・サクラ・ライハ・ナタリーさん・ステラ >「「”””キャアアアアアアアアアア━━━━ \(//♡∇♡//)×10/ ━━━”””」…
[気になる点] ル「レイン、レイン」今度は、ルナが鞭を持ってきた。 ル「これなんてどうだ?」 ソ「ルナ? レインは鞭を扱えませんよ?」 ル「しかし、テイマーといえば鞭ではないか? これで、言うこ…
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