表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/1151

37話 勇者の血とこれからの話

「にゃあああ……」


 アリオス達が滞在している宿を後にしたところで、カナデが不機嫌そうな唸り声をこぼした。


「どうしたんだ?」

「やっぱり、あの勇者ムカツクにゃ……しばいてきていい?」

「そういうことなら、あたしも一緒してあげる。再起不能にしておきましょ」

「こらこら。そういう冗談はやめなさい」

「「本気だけど?」」


 声をぴたりと合わせて、真顔で言う。

 恐ろしい二人だった。


「以前にも言っただろう? アリオスは……まあ、イヤなヤツではあるが、それでも勇者なんだ。あいつがいなくなったら、魔王を倒せる者がいなくなる」

「レイン、ソラは質問があります」


 くいくい、と服を引っ張られた。


「うん?」

「なぜ、魔王は勇者にしか倒せないのですか?」

「それは我も気になるぞ」

「そういえば……なんでかな?」

「何か理由があったような気がするんだけど……ダメ。覚えてないわ」


 みんな揃って首を傾げていた。

 誰もが知っているようなことなのだけど……

 まあ、彼女達は最強種だからな。

 人間の事情には疎いのかもしれない。

 特に、人間と交流を断っていた精霊族のソラとルナは、わからないことが多いだろう。


「そうだな……どこから話したものか」


 手頃なベンチに座り、教師になったような気分で話を続ける。


「これは、真偽が曖昧な話なのだけど……初代勇者は、神々と契約を交わしたらしい」

「にゃん? 神様と?」

「伝承によると……はるか昔、人間は魔王に支配されていたらしい。強大な力を持つ魔王、魔族に逆らうことができず、奴隷のように扱われていたとか。そんな現状を打破するために立ち上がったのが、初代勇者だ。初代勇者は魔王達と戦う力を得るために、神々と契約をして、その血を取り込んだらしい。そうして神々の力を得た勇者は劇的な力を手に入れて、魔王を倒して、人間を解放した……と言われている」

「他の人のために戦えるなんて、立派な人なのね」

「今の勇者とは大違いだねー」

「初代勇者は子供を作り、その血を受け継いだ。同時に、力も受け継がれた。それが何代にも亘り……今に続いている。アリオスは、初代勇者の血を受け継いでいるんだよ。選ばれた者だ」

「その割に弱くない? 私達にぼっこぼこにされたよね?」

「なんだ、その話は? 我はすごく興味があるぞ」

「その話、長くなりそうだからまた今度な」


 妙なところで、ルナが話に食いついてきた。

 ソラは何も言わないものの、その目が『興味あります』というように輝いていた。


「あれがアリオスの全力、っていうわけじゃないんだ」

「にゃん? 手を抜いていた、ってこと?」

「ああ、いや。言い方が悪かったな。あの時点では、アリオスは勇者として完成されていないんだ」


 勇者の血筋は特殊な力を得る。

 『限界突破』という力だ。


 人は、どれだけの努力を重ねても魔王を倒す力を得ることはできない。

 そこまで成長することなく、途中で、成長限界に達してしまう。

 戦いの才能に優れている人でも、魔王を倒すほどに成長することはできない。

 せいぜい、四天王を撃破するのが精一杯というところだ。

 人の限界は決められている。


 しかし、勇者は違う。

 神々の血を取り込み、代々受け継がれてきたその体は、成長限界という言葉はない。

 どこまでも成長して、どこまでも力を蓄えていく。

 やがて、魔王を打ち倒せるほどに成長する。


「要するに、勇者というのは、魔王を倒せるほどに成長することができる存在なんだ。普通の人ならば、どこかで限界が訪れて、それ以上は成長しない。しかし、勇者はその制限がなくて、限りなく無限に成長することができる。それこそ、いつか魔王を倒せるほどに……な。だから、魔王を倒すことができるのは勇者のみ、と言われている」

「にゃるほど……そういうことだったんだ」

「あたし達と戦った時の勇者は、まだ目覚めていないような状態だった、っていうことか」

「今のアリオスは、まだ普通の人と変わらないくらいの力しかない。でなければ、俺達が勝てるわけないからな」

「にゃん。納得したよ」


 ソラが挙手する。


「どうしたんだ? わからないところでも?」

「今の話を聞いていて、ふと、思ったことがあるのですが……レインも、成長限界がないのでは?」

「え?」

「カナデとタニアと契約をしていて、さらに、ソラとルナとも契約をしました。それで、新しい力を得ているはずです。どんどん新しい力を取り込むことができるレインは、実質、成長限界がないということになりませんか?」

「あっ、言われてみれば」

「そうね……今のレインって、力と魔力だけなら、あたし達とほぼ同等よね? 多少、低いかもしれないけど……」

「少なくとも、人間が成長できる限界を軽々と越えていると思うぞ。うむ、我が断言してやろう」


 そうなの、だろうか……?

 俺自身、限界を越えているなんていう実感はない。


「ねえねえ、ふと思ったんだけどさ」


 名案を閃いたというように、カナデが顔をキラキラさせながら言う。


「レインが、もっともっと最強種と契約して、どんどん力をつけていったら、そのうち、魔王を倒せるくらいになるんじゃないのかな?」

「えっ」

「そうなれば、あんな勇者を頼りにすることなんてないよ。レインが魔王を倒しちゃえばいいと思うな」

「そんな荒唐無稽な話を……」

「うむ、悪くない案だ」

「ルナ?」


 ありえないと笑い飛ばすはずなのに、なぜか、ルナが賛同してしまう。

 ルナだけじゃない。

 タニアとソラも、悪くないのでは? というような顔をしていて、カナデの案を却下しようとしない。


「レインはイヤ? 魔王なんかと戦いたくない?」

「それは……」


 魔王と戦う。

 この世界に平和をもたらすために戦う。


 以前、アリオスのパーティーにいた頃は、そのことを目的にがんばってきた。

 俺達の手で平和を勝ち取るんだ、と日々戦い続けてきた。


 でも、パーティーを追放されて……

 やるべきことを見失い、目的も消えた。


 今は、ただ流されるままに日々を過ごしている。

 カナデやタニア。

 ソラとルナ。

 大事な仲間と出会うことができたけれど……

 その先にある『目的』は見つけられないままだ。


 俺は、何をしたい?

 俺は、何ができる?

 俺は……


「ねえねえ、レイン。私達で魔王を倒しちゃおう? あんな勇者に任せる必要、ないよ。私達で……ふにゃん!?」

「落ち着きなさい。このせっかち猫」

「せっかち猫!?」


 タニアがカナデの頭をゴンとやった。


「悪くないって思うけど、いきなり実行できるほど簡単な内容じゃないでしょ。レインが困ってるじゃない」

「レイン、困ってる?」

「まあ……突然だからな」

「うにゃ……ごめんなさい。レインのこと、考えてなかった……」


 しょんぼりとするカナデの頭を、気にしないでというように撫でる。

 ほっこりとした顔になった。


「正直なところ……」


 短い時間ながらも考えをまとめて……

 俺の中にある気持ちを言葉にする。


「カナデの言うようなことが本当にできるのなら……俺に、魔王が倒せるっていうのなら……挑戦してみたい、っていう気持ちはある」


 脳裏に思い浮かぶのは、かつて滅んだ故郷の光景だ。

 村のみんなが倒れて、家が燃えて、全てが消えて……

 魔王がいる限り、同じようなことが各地で繰り返される。

 それを止めることができるのならば、止めたいと思う。


「ただ……なんて言えばいいんだろうな。あまりに突然のことだから、覚悟ができていない」

「男ならば、男らしく決断した方がよいぞ。と、我は進言する」

「即断できるような、心が強い人間ならいいんだけどな……俺は、そこまで強くないよ。みんなに支えられて、今までうまくやってこられただけだ」

「むう、そうは思えないぞ」

「本当に魔王を倒す決意をするとなると、色々な覚悟が必要だ。たくさんの人の命を背負わなければいけない。そんなことができるかどうか……正直、俺はわからない」

「それは……うむ。そうだな。そういう話になるか」

「少し考えさせてくれないか? 俺は何をしたいのか、どうするべきなのか。一度、自分と向き合い、じっくりと考えてみるよ」

「じっくり考えてください。ソラ達は、いつまでも待ちますよ。そして、どのような決断をしたとしても、レインの考えを尊重します」

「私は、レインとずっと一緒にいるよ♪」

「ま、まあ、どうしてもって言うならあたしも一緒にいてあげる」

「ありがとう、みんな」


 これから、どうするべきなのか?

 歩いていく道を選ぶ時が近づいているのかもしれない。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[一言] 勇者という本来代替えが効かない存在に、代替えになれる存在が出てきた 出てくるタイミングが良すぎるし、アリオスの体たらくに失望した神が代わりにレインを用意した もしくはレインの育った村が勇者が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ