表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/1151

35話 精霊族の姉妹と契約

「「ありがとうございました」」


 森の支配者を倒したことで、精霊族の姉妹は解放された。

 姉のソラと妹のルナが揃って頭を下げた。


「ルナを助けてくれて、本当に感謝しています」

「ありがとうございます」

「レイン達がいなければ、今頃、ルナはどうなっていたことか……」

「おそらく、我はとんでもない目に遭っていただろう……具体的に言うと……いや、とても口には出せぬな。あんなことやこんなことをされていたに違いない。む? 今、想像したか? くくく、雄の本能が暴走しそうになったか?」

「ルナ。こんな時にふざけるのはやめなさい。レイン達に失礼ですよ」

「我はふざけているつもりはないぞ、姉よ。我は、いつでも本気で、全力投球だ。ふざけないと生きていけない性質なのだ。どこぞの魚類と同じというわけだ」

「ですから、そのような話をやめなさいと言っているのですよ」

「やめられない止まらないのだ」


 いきなり姉妹コントが繰り広げられているんだけど、それは?


 ルナは双子の妹らしく、ソラと瓜二つだ。

 鏡を向かい合わせたように、背も体型も髪型も全て同じだ。


 ここまでそっくりだから、てっきり、性格も似ているのかと思ったんだけど……

 どうも、性格は真逆らしい。

 ソラは真面目な子だけど、妹のルナは破天荒だ。

 その性格は……見ての通りだ。


 似ているようで、全然違う性格をしている姉妹。

 でも、仲は良いらしく、再会した時は涙を流して抱き合っていた。


 無事に助けることができてよかった。

 本当にそう思う。


「ぜひ、お礼をしたいのですが……」

「我とソラの体で支払うか?」

「る、ルナ!」

「ふふん。この程度で照れていては、先が思いやられるぞ? いざという時に男を蹴り飛ばしたりしないか……我は、姉の将来が心配だ」

「余計なお世話です。えっと……ルナの戯言は放っておいて、ソラ達にお礼をさせてください。できることは限られていますが、レイン達の力になりたいのです」

「そう言われてもな……何かあるか?」

「にゃんにも」

「特にないわね」


 カナデとタニアに問いかけると、揃って首を横に振られた。


 俺達の目的は、真実の盾を手に入れることだ。

 すでにそれは達成された。

 だから別に、見返りはいらない。

 二人が気にすることなんてないんだ。


「本当に気にしないでいいから。礼を期待してたわけじゃないからな」

「しかし……」

「どうしても気になるっていうなら、そうだな……俺達と友達になってくれないか?」

「友達……ですか?」

「む? そんなことでよいのか? 今ならば、我らの魅力的で妖艶な体を好きにしてもよいのだぞ?」

「ルナ!」

「おっと、ソラが怖いぞ」

「にゃー……」

「レイン、あんたそういう趣味があるの……?」

「ないからな?」


 なぜか、カナデとタニアにまで睨まれた。

 冤罪だ。


「こう言うのも失礼かもしれないけど、精霊族ってすごく珍しいんだ。200年前に姿を消して、それきりだからな。だから、色々と話してみたいことがあって……よかったら、友達になってほしい」

「……」

「ダメか?」

「いえ……」


 ソラはゆっくりと首を横に振り、微笑する。


「レインは不思議な人ですね。私達ならば、もっと色々なことができるのに……それこそ、遊んで暮らせるだけの財を与えることも可能です。それなのに、友達になってほしいなんて……人間がレインのような者ばかりならば、私達は姿を消すことはなかったでしょう」

「我らでよければ、喜んで友になろう。くくく、我が盟友となるがいい」

「ルナのコレは、照れ隠しのようなものと思ってもらえれば……」

「て、照れ隠しなんかじゃないしっ!」


 一瞬だけ、ルナが素に戻ったような気がした。

 妙な態度は、わざと作っているものなのだろうか?


「よろしくな」

「よろしくにゃ!」

「仕方ないから、よろしくしてあげる」


 俺達は、それぞれ握手を交わした。


「ソラとルナは、これからどうするの? これからも、ここの管理を続けるの?」


 タニアの問いかけに、二人は同時に首を横に振る。


「いえ、ソラ達はここを出ようと思います。仕方ないとはいえ、ルナを見捨てようとした仲間達とは、今は一緒にいられそうになくて……少し、距離を置いて心を落ち着けたいです」

「我は、このような森に収まる器ではない。常々、外の世界に出ようと思っていたところだ。ちょうどいいから、ソラと一緒に旅をするぞ」

「なるほど。そういう選択もありかもね。でも、気をつけなさいよ? あの魔物みたいに質の悪い連中がいないとも限らないし」

「そうですね……その辺りは、正直、心配ですね」

「まあ、我らは引きこもりだからな。故に、世間知らず。ふむ、ナビゲーターが欲しいところだな」

「ルナ……いくらなんでも引きこもりという表現は……」

「む? 我は何か間違えたか?」

「……」


 ソラが嫌そうな顔をした。

 そりゃそうだろう。

 最強種なのに引きこもりなんて言われたら、さすがに心外だろう。


 まあ、この場合、そう言っているのも同じく最強種なんだけどな。


「なら、私達と一緒に来ない?」


 突然、カナデがそんなことを言い出した。


「ここで出会ったのも、何かの縁だよ。私達のパーティーに入らない?」

「ちょっとカナデ、勝手にそんなこと決めるんじゃないわよっ」

「にゃー、タニアは反対?」

「……別に反対っていうわけじゃないわ。ただ、あたしたちのリーダーはレインなんだから、勝手に話を進めたらまずいでしょ」

「それもそうだった! レイン、ごめんね」

「いや、俺は別にいいんだけど……」


 さすがに、その提案をソラとルナが呑むことはないだろう。

 俺は人間だ。

 人間がいるパーティーに精霊族が加わるなんて、そんなことは……


「ほう……いいのか? ならば、我と一緒に旅をする権利を与えてやろう!」

「ルナっ、あなたは遠慮という言葉を知らないのですか。あと、その上から目線はなんですか。こちらは誘ってもらっている身というのに……」

「遠慮などという言葉は知らぬな。それに、レイン達が社交辞令で言っているとは思えぬぞ。本気で我らのことを考えて、本気で誘ってくれているに違いない。それくらいのことも、我が姉はわからぬのか?」

「それは……」

「なあ、姉よ。人間は、確かに我らの住処を奪ってきた。が……だからといって、人間全体が同じものとは限らぬ。レイン達ならば、信じることができると思わぬか?」

「……」

「我は、レイン達ならば大歓迎だ。素直にうれしいぞ。喜びのキスをしようか?」

「人が感心したら、またそういうことを口にして……軽々しくそんなことを言わないように。それはともかく……まあ、ソラも、レイン達ならば問題はありません。というか、ぜひ、こちらからお願いしたいところです」

「え? いいのか?」

「はい。ルナが言ったように、レインならば信用できます。他の人間は無理ですが……レインなら、という思いがあります。というか、一緒にいさせてください。レインと一緒にいることをソラは望みます」


 意外な展開になった。

 まさか、精霊族が人間と一緒に行動したいなんて……


「レイン、レイン。私は、二人と一緒にいたいな♪」

「あたしたち三人だけだと、今後、対応できないことも出てくるだろうし……人数が増えるのは良いことじゃない? 別に、あたしが二人と一緒にいたいなんて思ってるわけじゃないからね? 勘違いしないでよ」


 カナデとタニアは、同じ最強種ということなのか、すでに二人に気を許しているらしい。


 確かに、ソラとルナが仲間になれば心強い。

 パーティーにもう少し人数がいれば、と思うこともある。


 少し考えて、結論を出した。


「そう、だな……わかった。二人がいいなら、異論はないよ。というか、大歓迎だ」

「ありがとうございます、レイン」

「ふはははっ、よろしくしてやるぞ! 礼に、我がえろいことをしてやろうか?」

「ルナっ、あなたという子は……!」

「冗談だ。真面目に受け取るでない。慌て過ぎではないか、我が姉よ」

「むぐぐぐ」


 賑やかなパーティーになりそうだ。

 楽しそうにはしゃぐ姉妹を見て、そんなことを思う。


「それじゃあ……これから、よろしくな」

「はい、よろしくおねがいします」

「今日から、我らは盟友だ。よろしく頼む!」


 こうして、二人の精霊族がパーティーに加わった。


「ところで、レイン」

「なんだ、ソラ?」

「私達とも契約をしてくれませんか?」

「え?」

「聞けば、カナデとタニアはレインと契約をしている模様。私達も、レインの力になりたいのです」

「今なら、なんと二割引きだ。大特価サービス中だぞ」

「それ、本気で言っているのか?」

「はい、本気です。たくさんお世話になりましたし……せめて、これくらいは」

「……我のボケがスルーされた。むぅ、レインは意地悪なのだな。場を和ませようと、我が道化になったというのに。まあ、それはともかく……我の気持ちも変わらぬぞ。レインの力になりたいのだ」

「その気持ちはうれしいんだけど……俺が使役できるのは動物と昆虫だけで、さすがに精霊は管轄外なんだが」


 昔、精霊を使役する『エレメンタルテイマー』という職があったらしいが……

 200年前に精霊が姿を消したことで、エレメンタルテイマーも自然消滅した。


 ただ、俺の故郷には使い手がいた。

 親子代々、密かに受け継がれてきたらしい。

 村の仲間のよしみで、教えてもらったことはあるが、習得には至らなかった。


 そんな説明をするが……

 それがどうしたというように、カナデがあっさりと言う。


「なら、レインが失われた技法を取り戻しちゃえばいいんだよ♪」

「いやいやいや、無茶を言うな。昔、軽く習った程度なんだぞ? できるわけがないだろう」

「でも、レインならできる気がするな。ね、タニア?」

「そうね。なんだかんだで、レインならうまくやれるんじゃない?」

「無茶振りもいいところだ……」

「とりあえず、試してみれば? 何もしないうちから諦めるなんて、かっこわるいことしないでよ」


 そう言われたら断ることはできない。


「じゃあ……やるだけやってみるか。ソラ、ルナ。こっちへ」

「はい」

「うむ」


 二人が並んで立つ。

 親指を噛み、流れる血で魔法陣を描く。


 それから、目を閉じて集中した。


 テイムする方法は、基本的な部分はどの種族も同じだ。

 魔力を練り上げて、対象の魂に語りかけて、心と心で対話をする。

 それで、相手が応えてくれれば交渉成立……テイム成功となる。


 ただ、種族ごとに練り上げる魔力の構造が違う。

 形の違うパズルに挑戦するようなものだ。

 練り上げる魔力の形を間違えると、こちらの言葉が魂に届くことはなく、契約失敗となる。


 精霊族を使役するためには、どのような構造の魔力を練ればいい?

 どれだけの魔力を注ぎ込んだらいい?


 今まで得た経験と技術と勘を全て注ぎ込んで、俺なりの答えを導き出した。


「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」

「……ソラ……」

「……ルナ……」


 魔法陣が光の粒子となり、ソラとルナの体に吸い込まれた。

 契約……成立だ。


「ふぅ、なんとかうまくいったみたいだな」

「やったね、レイン♪ さすがだよ!」

「ま、あたしは心配してなかったけどね。レインならできる、って信じてたわ」

「奇跡的にうまくいっただけだよ。もう一度やれと言われたら、たぶん、できないな」

「そうかな? レインなら、なんだかんだいって、何度でも成功させるような気がするんだけど」

「同感ね。他のテイムも成功させるんじゃない? 例えば……魚類とか」

「まあ、それも習得はしていないが、習ったことはあるな」

「「あるんかい!」」


 二人してツッコミを入れられた。


 それはともかく……


「ふぅ……さすがに、疲れたな」


 精霊族と契約するなんて無茶をしたせいか、疲労がすさまじい。

 大量の魔力を消費したらしく、ひどい倦怠感に襲われる。

 タニアと契約をして魔力が底上げされていなかったら、危なかったかもしれない。

 気を抜いたら、その場に座り込んでしまいそうだった。

 すると、左右にソラとルナが移動して、俺を支えてくれる。


「これからは、レインがソラの主ですね」

「我らに、あんなことやこんなことをし放題だぞ」

「ルナっ」

「おやおや、我が姉は顔が赤いな? いったい、どのような想像をしたのだ? くふふふ、えろいな」

「怒りますよ?」

「ただの冗談ではないか。本気になるな。まあ、なにはともあれ」


 ソラとルナはこちらを見て、にっこりと笑う。


「これから、よろしくおねがいします。ご主人様♪」

「これから、よろしく頼むぞ。ご主人様♪」

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
次は人魚族を使役するフラグですか?(笑)
[良い点] ここまで、大変面白く読ませていただいてます。今日初めて見始めたのですが一気に読んでしまって目が痛い痛いww キャラも魅力的!いやここからどうなるのか楽しみです。ですが、気になる単語がありま…
[良い点] ここから、ソラとルナの様々なストーリーが始まった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ