34話 シャドウナイト戦
「……見つけた」
ある程度進んだところで、停止。
リスと同化して探索したところ、シャドウナイトを発見した。
身の丈は3メートルほどだろうか?
漆黒の鎧を着た暗黒の騎士、という例えが一番近い。
ただし、頭部に顔はなく、深い闇の中に、血のように赤く光る瞳が二対、不気味に輝いている。
両手にバカみたいにでかい大剣。
これがヤツの得物だろう。
シャドウナイトは魔法に対する完全耐性を持つ代わりに、魔法を使うことができない。
戦うなら、遠距離かもしれないな。
「ソラの妹は……いたっ」
シャドウナイトがいる場所は、一部を伐採したように、開けた広場になっている。
シャドウナイトは広場の中央に。
その奥……錆びた鎖によって、手足を木々に繋がれた精霊族の女の子が見えた。
ソラの妹に間違いないだろう。
必要な情報は得た。
カナデとタニアのところに戻り、同化を解除する。
「ふぅ」
「おかえりなさい♪」
「どうだった? ソラの妹は? シャドウナイトは?」
「ここから300メートルほど進んだところに、ちょっとした広場がある。ソラの妹もシャドウナイトもそこにいた」
得た情報を三人で共有した。
「鎖で縛りつけるなんて、許せないにゃ!」
「女の子の扱いがなってないようね……おしおきしてあげないと」
「俺とカナデがシャドウナイトに突っ込む。その間に、タニアはソラの妹を救出してくれ」
「なによ、あたしに獲物はくれないの?」
「タニアの火球やブレスは魔力で生成されるから、シャドウナイト相手には不利だろう?」
「あたしの武器はそれだけじゃないんだけど」
「わかっているよ。タニアのことは信頼しているし、その力も認めている。だからこそ、一番大事な人質の救出を頼みたい。俺達は物理に特化してるから、咄嗟の応用が効きにくいんだ。その点、タニアなら安心して人質を任せられる」
「ふーん……ま、まあ、そこまで言うのなら任されてあげるわ。仕方ないわねー」
「タニア、レインに頼りにされてうれしそうにゃ」
「うっさいわね、余計なことを言わないのっ」
――――――――――
シャドウナイトの感知範囲ギリギリまで近づいて、それぞれ、適切な場所に配置についた。
隣のカナデに、小さな声で問いかける。
「準備はいいか?」
「いつでもオッケーだよ♪」
「カウントでいくぞ? 3……2……1……」
心の中でゼロとつぶやいて、俺とカナデは全力で駆け出した。
「一番乗り!!!」
「なっ……ギャアアアッ!!!?」
猫霊族の力を得ているとはいえ、それでも、身体能力はカナデの方が圧倒的に上だ。
先に敵に肉薄したカナデは、駆け抜けた勢いをそのまま拳に乗せて、シャドウナイトの腹部を打ち抜いた。
シャドウナイトが巨大な体をくの字に折る。
「もう一撃いくぞ!!!」
「ぐあっ!!!?」
地面を蹴り、斜め上に跳躍。
そのままシャドウナイトの顔面を膝で撃つ。
「ぐうううっ、貴様ら、何者だ!?」
「敵だよ!」
余計なことを喋るシャドウナイトに、もう一撃を加えた。
「正義の味方かな!」
カナデもくるくると回り、独楽のように回転。
回転しながら蹴撃を繰り出して、漆黒の騎士を何度も打つ。
「ぐっ……もしや、貴様が勇者か!?」
「あんなヤツと……」
「一緒にしないで!」
俺とカナデは息をぴったりと合わせて、同時にシャドウナイトを殴りつけた。
巨体が吹き飛ぶ。
鎧がひび割れて、隙間から黒い霧のようなものが溢れ出した。
「おのれっ、おのれおのれおのれえええええぇっ! あの精霊族、俺の言うことを聞かず、このような連中を差し向けるなんて! 殺してやるっ、あいつの妹を殺してやる!」
「このあたしがいるのに、そんなことさせるわけないでしょ」
「ぐあっ!?」
爆発。
シャドウナイトが炎に包まれた。
その奥に見えるのは……無事にソラの妹を救出したタニアだ。
片手でソラの妹をかばいながら、火球を放っている。
「くそっ、まだネズミがいたか!」
「あたしはドラゴンよっ!」
さらに、タニアはブレスを浴びせる。
しかし、ブレスの圧に押されよろめくものの、シャドウナイトにダメージが通った様子はない。
「このような児戯で、この俺をどうにかできると思ったか!?」
「レインの言う通り、効きにくいわね……なんか、ムカついてきたかも。こんなヤツにあたしが格下に見られるなんて、我慢できないんですけど」
「おい、タニア!?」
「……わかってるわよ。あたしは、この子の保護を優先するわ。二人は、こんなヤツ、とっとと倒しちゃってちょうだい」
タニアがソラの妹を両手で抱きしめた。
すると、タニアの背から竜の翼が生えて……そのまま飛び上がる。
「バカめっ、逃がすわけないだろう!」
安全圏に逃げたタニア達を、シャドウナイトは跳躍することで追いかけようとするが、
「俺達を……」
「忘れないでよね!」
「ぐあっ!?」
再び、カナデと一緒にコンビネーションを叩き込んだ。
カナデが空高く飛び上がり、跳躍しようとしていたシャドウナイトを踵で撃墜。
地面に叩き落とされたところで、俺が追撃を加えて……
最後に、空から降ってきたカナデが、隕石のごとく痛烈な一撃を放つ。
「この……虫けら共がああああああああああぁっ!!!!!」
全身をボロボロにしながらも、シャドウナイトは立ち上がり、両手の大剣を振り回した。
まるで、小さな嵐だ。
触れる者を全て切り裂く刃の嵐が、俺とカナデを襲う。
「こいつ、しぶといにゃ!」
「さすがに、Cランクとなるとしぶといな。相当なものだ。これが、魔王軍の魔物の力か」
「どうしよう、レイン? このままだと……よっ、ほっと! 長引いちゃうよっ」
攻撃を避けながら策を練る。
タニアやアリオスに使ったような作戦は通用しないだろう。
これだけの力を持つ魔物だ。
単純な毒は通用しないと思ったほうがいい。
力で押すしかない。
が、猫霊族であるカナデの攻撃にも耐えていた。
無論、このまま攻撃を繰り返せば、いつかは倒れるだろうが……
その間、手痛い反撃を食らうかもしれない。
できることならば、一気に終わらせたい。
「カナデ! 俺がアイツの動きを止めるから、全力の一撃を叩き込んでやれ!」
「でも、こいつ頑丈だから、耐えられちゃうかもよ?」
「そこは考えがある。任せろ!」
「うん、わかった!」
どうするの? なんていう言葉は返ってこない。
カナデの俺に対する信頼を感じられた。
応えてみせないとな!
「いけっ!」
遠隔で普通の蜂の群れと仮契約をした。
シャドウナイトの頭部に群がるように飛行させて、ヤツの視界を奪う。
「なんだ、この虫どもは!? ええい、くそっ、邪魔だぁ!!!」
シャドウナイトはでたらめに剣を振り回して、蜂の群れを追い払おうとした。
しかし、自身が巨大すぎるせいで、小さな蜂に攻撃が当たることはない。
暴れ回るシャドウナイトの背後に回り込み、全力の一撃を膝裏に叩き込む!
「ぐっ!!!?」
人型をしているため、急所は人間と変わらないらしい。
読み通りだ。
シャドウナイトがバランスを崩して、地面に膝をついた。
「カナデ、今だ!」
「にゃんっ!!!」
カナデが地面を蹴る。
同時に、俺はとある魔法を唱えた。
「ブースト!」
使役する獣の力を一時的に上昇させる魔法だ。
以前の俺は、魔力が足りず、使用することはできなかった。
しかし、タニアの魔力を得た今ならば……!
「うにゃあああああっ、にゃんっ!!!!!」
俺の魔法で力が増幅されたカナデが、全力でシャドウナイトの胸を打ち貫いた。
ゴガァッ!!! と轟音が響いて、シャドウナイトの胸に巨大な穴が空く。
「ば……かな……」
胸に空いた穴から、シャドウナイトの全身に亀裂が広がり……
剣と鎧が粉々に砕けた。
黒い霧があふれるが、すぐに、大気に溶けるように霧散した。
「うわっ、うわっ。今のなになに? すごい力が湧いてきたんだけど……」
「テイマー独自の魔法の一つ、ってところだ。カナデの力を数倍に増幅したんだよ」
「にゃ? ……あぁ、そういえば、そんなものが使えるテイマーがいるって、聞いたことあったよ。でも、あれってすごい限られた人しか使えないはずなんだけど……」
「ま、予想外のことをするのがレインなわけだし、今更じゃない?」
話を聞いていたらしく、空から降りてきたタニアが、どこか呆れたような感じで言った。
「あたしは、もうこれくらいじゃ驚かないことにしたわ」
「にゃー……私も、そろそろ慣れないといけないのかなあ」
「そういう納得のされ方は、ちょっと納得いかないんだが」
俺は、人間びっくり箱じゃない。
「「だって、レインが規格外なんだもの」」
「そんなことはない」
「「自覚して」」
こういう時は、二人は息ぴったりなんだよな。
「まあいいや。なにはともあれ……おつかれさま、カナデ」
「にゃふぅ……勝利のブイっ!」
カナデはにっこりと笑い、ブイサインを決めた。
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