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30話 迷いの森

 翌日。

 準備を終えた俺達は、早速、迷いの森の攻略にとりかかった。


「ここが迷いの森か」

「なんか、じめじめーっとしたところだねー。自慢の尻尾がへなぁ、ってなっちゃいそう」

「あたし、こういうところ嫌いなんだけど。攻略がすごくめんどくさそうだし……ねえ、森ごと焼き払っていい?」

「いいわけあるか」

「あいたっ」


 ぽか、っと軽くタニアの頭を小突いた。


「めんどくさいから、っていう理由で森を焼き払うヤツがどこにいる」

「ここにいるわっ!」

「偉そうに言うな。自慢できることじゃないからな」

「それで……どうするの? ここのどこかに、真実の盾を持った魔物がいるんだよね?」

「アリオス達が作成した地図がある。とりあえず、それを手がかりに進んでみよう」

「えー、あの勇者の……?」

「あの連中に頼るみたいで、なんか癪ね」

「迷いの森は、天然の要塞って言われるくらい厄介な場所らしいからな。出処がどうあれ、地図があるのなら使わない手はない。まあ、この地図も正確なものじゃないけどな。それでも、ないよりはマシだろう」


 ナタリーさんに聞いた話によると……


 迷いの森は遥か昔から存在していて、その敷地面積は街三つ分に及ぶとか。

 内部は迷路のように複雑に入り組んでいて、正確なマッピングができた人は皆無。

 森自体が成長しているらしく、日々、広がり続けているという。

 なので、内部の構造も時間と共に変化して、マッピングをしても無駄に終わることが多いらしい。


 天然の迷路は何よりも厄介だ。

 人がクリアーできるように設計されているわけじゃないからな。

 手がかりがあるのならば、一つでも多く欲しい。


「行くぞ」

「おーっ!」

「おー……」


 対称的な掛け声をあげる二人と一緒に、迷いの森を進んだ。




――――――――――




 迷いの森の探索を始めて、30分ほど経っただろうか?

 カナデが、くいくいと俺の服を引っ張る。


「ねえねえ、レイン」

「うん?」

「ここ、さっきも通らなかった?」

「え、マジか?」

「なんとなく見覚えがある、っていうくらいだから、絶対とは言えないんだけど……」

「カナデの言うことは正しいわ。ほら、ここ」


 タニアが道端の草を指さした。

 一部が黒焦げになっている。


「途中で何度か魔物と戦ったでしょう? これは、その戦いの跡よ」


 よく覚えていた。

 細かい雑魚が大量に現れて、苛立ったタニアがいきなり火球を撃ち出したのだ。

 慌てて火を消したからよかったものの、下手したら火事になっていたところだ。


「あたしたち、同じところをぐるぐる回っているんじゃない?」

「どうも、そうみたいだな」

「この地図、役に立たないねー」


 アリオスが迷いの森の攻略に挑んだのは、数日前と聞いている。

 それなのに、もう地図が役に立たなくなるなんて……

 思っていた以上に、厄介な場所なのかもしれないな。


「方針を切り替えよう。俺が周囲の地形を調べる。この前みたいに野鳥と同化をするから、その間、警戒を頼む」

「らじゃー!」

「任せてちょうだい」

「よし。なら、早速……」


 手頃な野鳥を見つけて、意識を同化させる。

 野鳥の体をコントロールした俺は、そのまま空に羽ばたいた。


 上空から迷いの森を見て回る。

 生い茂る木々の葉に隠れて、なかなか道を見つけることができない。

 それでも注意深く、根気強く探索をすることで、最深部に繋がるルートを発見した。


 カナデとタニアのところに戻り、同化を解除する。


「ただいま」

「おかえり~♪ どうだった? 道、見つかった?」

「ああ、バッチリだ」

「なら、さっさと行きましょう。ここ、虫が多くて、やっぱ嫌いよ」

「よっぽどきついようなら、タニアは街で待っていても構わないぞ?」

「えっ? い、いや、それは……」

「冗談だ。タニアがいた方が心強いから、できれば一緒にいてほしい。俺の傍にいてくれないか?」

「……」


 なぜかタニアが赤くなる。


「どうしたんだ?」

「知らないわよっ、バカ!」

「いて!?」

「レインって、天然のタラシだよねー」


 呑気にカナデが解説をしていた。




――――――――――




「おかしいな……」


 最深部に向けて歩き始めるが……

 一向に周囲の景色が変わらない。

 まるで、同じ場所をぐるぐると回っているみたいだ。


「レイン、これを見て」

「これは……」


 タニアが指さした先には、焦げた跡がある草が生えていた。


「さっきの場所に戻ってきたのか? いや、しかし……」

「レイン、正しい道を見つけたんだよね?」

「……ああ」

「途中で道を間違えちゃった?」

「いや、それはありえない」


 勇者パーティーにいた頃は、何度も何度も斥候や探索をやらされていた。

 道を間違えれば罵声を浴びせられて、ひどい時は拳が飛んできた。

 今思うと、とんでもない扱いを受けていたな……


 って、それはいい。


 そんな扱いを受けてきたから、初歩的なミスは犯さないように、細心の注意を払うようになった。

 勇者パーティーを抜けたから気が緩んだ、なんていうこともないはずだ。

 俺の行動に仲間の運命がかかっていると言っても過言ではない。

 情報を取り扱うということは、それだけ大事なことなのだ。


 それなのに、道を間違えた?

 ありえない。

 自信を持って断言できる。


「にゃー? でもでも、元の場所に戻ってきちゃったし、やっぱり道を間違えたんじゃないかなー?」

「あたしは、道を間違えてないと思うわ」


 思わぬところから援護が出た。


「どうして?」

「左右に多少曲がることはあっても、基本的に、あたしたちはまっすぐ歩いてきたでしょう? それなのに元の場所に戻るなんておかしいわ。それに、迷うことはあっても、こんな都合よく元の場所に戻らないわよ」

「あっ、言われてみれば」


 そうなのだ。

 最深部に続く道は、基本的に直線だ。

 180度、方向転換をするなんてことはないから、元の場所に戻るなんていうことはありえない。


「なら、どういうことなんだろ? まっすぐ歩いてたのに、いつの間にか元の場所に戻って……うにゃーん? わからないよぉ……」

「あたしに任せてくれる?」


 タニアが一歩前に出た。

 目を閉じて集中する。

 そして、一言、力ある言葉を紡ぐ。


「マテリアルサーチ」


 タニアの指先に青白い光が点る。

 蛍のように瞬いて、周囲をふわりと舞う。

 光の粒子はしばらく宙を漂い……やがて、一際大きな木の幹に吸い込まれるようにして消えた。


「見つけた」

「どういうことなんだ?」

「あたしたち、幻覚魔法の罠にハマっていたのよ」

「にゃ? 幻覚まほー?」

「あらかじめ広範囲に魔力場を形成しておいて、対象の脳に侵入。視覚を司る部位に魔力を照射することで……」

「うにゃあああ……」


 タニアがつらつらと専門用語を並べると、それについていくことができず、カナデがぐるぐると目を回した。

 知恵熱を出したらしい。


「えっと……つまり、この場をぐるぐると歩き回ることしかできない……そんな魔法をかけられていたのよ。いえ、魔法というよりは結界かしら? どう歩いても正しい道にたどり着けないような、そんな結界が張られているわ」

「おー、にゃるほど!」

「カナデ。この木をへし折って」

「にゃんで? 八つ当たり?」

「違うわよっ。あたしをどんな目で見ているのよ」

「こんな目」

「えいやっ」

「にゃーーーっ!!!?」


 タニアが手をちょきの形にして、カナデの目を突いた。


「なにするの!? なにするの!?」

「なんか、イラッときたから」

「うぅ……レイン、タニアが怖いにゃ」

「ケンカはしないように」

「ケンカじゃないわよ。とにかく、この木が結界を形成しているの。取り除けば先に進めるようになるわ」

「それならそうと言ってほしいよー」


 カナデが大木の前に立つ。

 ぐるぐると腕を回して、力強い一撃を……


『……立ち去りなさい』


 叩き込もうとしたところで、どこからともなく声が響いた。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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― 新着の感想 ―
[一言] >「あたし、こういうところ嫌いなんだけど。攻略がすごくめんどくさそうだし……ねえ、森ごと焼き払っていい?」 お前なー!環境破壊やらかす気かコラー!!
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