298話 開戦
タニアはカナデ達をギルドに呼んで……
そこでレインの指示を受けた。
カナデとタニアとティナとリファは、そのまま魔物の迎撃を。
ニーナはソラとルナを追いかけて、すぐに連れ戻すように言われた。
亜空間を移動できるニーナが一番早いと判断されたのだろう。
先日の覚醒以降……
ニーナは小さいままでも力が上昇していて、単独ならば、かなりの距離を跳ぶことができた。
亜空間から割り込みをかけて、精霊族の里に直行できることも可能だろう。
そしてレインは……
「援軍を連れてくる」
と言い西側から街の外に出て、どこかへ消えた。
どんな援軍だろう?
スタンピードに立ち向かえるだけの人材をすぐに用意することができるなんで、すごいのではないか?
リファはそんなことを考えていたが……
2時間が経過してもレインが戻ることはなかった。
「……逃げた?」
ついついリファはレインのことを疑ってしまう。
ただ、それも仕方ないだろう。
あれだけ自信たっぷりに言っておきながら、まるで戻ってくる様子がないのだ。
これから起きるのはスタンピードという災厄。
魔物の群れに蹂躙される未来しかない。
それに怯えて逃げてしまうのも無理もないことだ。
リファはそんな結論を下すが……
ふと、不思議に思う。
「ねえ、カナデ。あんた、さっきからなんで腹筋とか腕立てとかしてるの?」
「これからたくさん動かないといけないからね。体をほぐしておかないと」
「だからって限度があるでしょ。この落ち着きなさすぎるソワソワ猫」
「最後に猫ってつけておけばなんでもいいと思ってない!?」
「思っとらんでー」
「ティナが答えた!?」
この緊張感のなさはなんなのだろうか?
いつもと変わらない様子を見せるカナデ達の姿に、リファは困惑した。
スタンピードが起きているというのに……
主が逃げ出したというのに……
なぜ笑っていられるのか?
「なんで?」
「にゃん?」
「なんで笑っていられるの?」
ついに我慢できなくなり、リファはストレートに問いかけた。
「スタンピードが目の前に迫っている。キミ達の主も逃げた。それなのに、なんで笑えるの?」
「それは違うよ」
「え?」
レインが逃げたと言われるものの、カナデは怒るわけでもなく、穏やかに諭すように言う。
そんなカナデの態度に、リファはますます疑問で心がいっぱいになる。
「レインは逃げてなんかいないよ」
「でも、帰ってこない」
「んー、色々とやることがあるんじゃないかな? たぶん、無茶してるような気がするし……ちょっとくらいの遅刻は仕方ないよね」
「まあ、レインが戻ってくるまでの間、あたしらががんばればいいことよ」
「ん……がん、ばる」
こんな時なのに。
これだけのことが起きているのに。
誰一人、レインのことを疑っていない。
自分では想像もできないくらい固い絆で結ばれているのだろう、とリファは少しカナデ達のことがうらやましくなった。
リファは家族の仲は良い。
両親と姉にかわいがられている。
隣人の人間達とも良好な関係を築いていた。
笑顔で挨拶を交わして、時々、余った料理などを差し入れする。
そんな関係だ。
ただ、仲間と呼べるような相手はいない。
リファは若干幼いため、また溺愛されているため、誰かと肩を並べて戦ったことがない。
今回、援軍を呼ぶ役目を与えられたのも、最前線から少しでも遠ざけるための措置でもあった。
そんなリファは、肩を並べて誰かと一緒に戦うことに憧れていた。
現場から遠ざけられてしまうと、逆に興味が出てしまうものだ。
「レインは……来る?」
「来るよ」
リファの問いかけに、カナデは迷うことなく頷いてみせた。
他のみんなも頷いた。
見ると、冒険者やギルドの職員達もレインのことを疑っている様子はない。
レインが戻るまでの間、絶対に持ちこたえてやると気合を入れていた。
そこに先ほどまでの悲壮感はない。
レインならばなんとかしてくれる。
そんな信頼があった。
「……変なの」
リファからしてみれば理解できない行動だ。
ここにいる人の心情がわからない。
ただ……
「うん、がんばろう」
不思議とやる気は出てきた。
――――――――――
……30分後。
「来たぞ!」
偵察に出ていた冒険者の一人が、汗をいっぱいに垂らしながらギルドに駆け込んできた。
それと同時に、街に非常事態を告げる鐘が鳴らされる。
騎士達が動揺を収めるために奔走していたためか、ひどい混乱はない。
町民は家の中に入り、神に祈りを捧げる。
戦える者は武器を取る。
その腰は引けているが、決して逃げようとはしない。
家族を、友人を、隣人を……大事な人を守るために戦う決意をして、戦場に移動した。
「今回は私が指揮を取らせてもらう!」
ステラが東門の近くに設置された、高所にある指揮所で大きな声をあげた。
それに合わせて、東門に集結した冒険者、騎士達が各々の武器を手に取る。
前衛に近接武器を扱うもの。
そして後衛に弓をメインに扱うもの、魔法をメインに扱うものが並ぶ。
「門を閉めろ!」
見張りの冒険者達を街の中に収納して、東の門を閉めた。
その上で、幾人かの魔法使いにより結界が展開される。
攻城兵器でも持ち出さなければ突破することは叶わないだろう。
ただし、魔法使いの魔力が保つ間に限られるが。
「敵、第一波……来ますっ!」
門の上に立つ見張りの騎士が悲鳴のような叫び声をあげた。
その直後、ゴォンッ! と門が震えた。
大量の魔物達が津波のように押し寄せてきて、激突したのだ。
その威力に大地が震えたような気がした。
「くっ……門は!?」
「だ、大丈夫です! 魔法のおかげもあり、耐えられています!」
「ならば反撃だ! 遠距離の攻撃手段を持つ者は、門の上から魔物の群れを薙ぎ払うのだっ!」
ステラの合図で、あらかじめ門の上に移動しておいた冒険者、騎士達がそれぞれの武器を構えた。
弓、槍、杖、魔法書……色々な武器を手に、押し寄せてくる魔物の群れを睨みつける。
「うてぇっ!!!」
ステラの合図で一斉に攻撃が始まった。
矢が魔物の頭部を射抜き……
魔法が群を薙ぎ払う。
門に取り付こうとしていた魔物達は、槍などの中距離射程の武器を持つ者に叩き落されていた。
「おー、いい感じだね」
「これ、わりとうまくいくんじゃない?」
ステラと同じ場所で戦況を眺めていたカナデとタニアは、そんな感想をこぼした。
ステラも若干険しい表情がやわらいでいた。
ただ、リファは別だ。
険しい顔をしたまま……
むしろ当初よりも難しい顔を作っている。
「……ダメ」
「にゃん? どういうこと」
「このままだとダメ」
「む? それはどういう意味なのだ?」
ステラが不思議そうな顔をして、リファに発言の意味を問いかけた。
二人は初対面ではあるが、ステラはカナデ達のことを信頼している。
だから、そのカナデ達が連れてきたリファのことも信頼している。
なにかしら問題があれば助言がほしいところだった。
「スタンピードは魔物がたくさんいる」
「うむ、そうだな」
「何時間も戦うことになる。あの戦い方だと、一時間も保たない」
そんなリファの言葉は、予言のように的中することになり……
一時間後。
戦線が崩壊し始めていた。
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