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29話 形だけの和解

「「「「……すみませんでした……」」」」


 平原の大乱闘が終わり……

 俺達に負けたアリオス一行は、地面に膝をついて、深々と頭を下げた。


「もっと誠意を込めるにゃ!」

「そんなんで謝ってるつもり? 笑えるんだけど」


 訂正。

 強制的に謝罪させられていた。


「「「「……すみませんでした……」」」」


 再び頭を下げるアリオスたち。

 カナデとタニアは、そんな四人をつまらなそうに見て……次いで、こちらを見る。


「っていう感じだけど……どうしよっか? 許してあげる?」

「あたしは、まだまだやりたりない感じなんだけどね……」

「「ひっ!?」」


 リーンとミナがビクリと震えた。

 恐怖に顔が歪んでいる。


 ……いったい、タニアは何をしたんだろうか?

 気になるけど、怖くて聞けない。


「俺はアリオスを倒した時点でスッキリしたし、二人に謝罪させることが目的だったからな。二人はどうだ?」

「私はレインが怒ってないなら、もういいよ」

「ちょっと物足りないところはあるけど……ま、ウチのご主人様がそう言うのなら、これで終わりにしてあげる」

「……というわけだ。俺達はアリオス達の謝罪を受け入れる。これで、全てを水に流そう」

「くっ」


 アリオスの顔が屈辱に歪む。

 が、今ここで暴れても、また俺達が叩きのめすだけなので意味がない。

 そのことは理解してるらしく、アリオスはぐっと我慢していた。


 アリオス達は膝についた土を手で払い、立ち上がる。

 色々なモヤモヤを我慢するように深呼吸をして……改めて口を開く。


「それで……迷いの森についての件なのだけど……」

「あぁ、そういえばそんな話をしていたな」


 色々あったせいで、すっかり忘れていた。


「もちろん、協力してくれるな? 世界の命運がかかっているといっても過言ではない。協力しないなんて選択肢はないと思うが……」

「にゃんか、偉そうだね……」

「もう一発、いっとく?」

「はいそこ、落ち着け」


 カナデとタニアが臨戦態勢に入り、慌てて止める。


「もうアリオス達と関わるつもりはなかったが……この件については、別だ。世界の命運という話も、あながちウソじゃない。アリオス達の旅が滞れば、その分、魔王の脅威が増して、色々な人に被害が出てしまう。さすがに、それは望むところじゃない」

「なんだ、話がわかるじゃないか」

「協力するよ」

「賢明な判断だ。まったく、最初からそう言っていれば、ここまで話がこじれなかったものを……」

「この勇者、負けたっていうのに偉そうだにゃ」

「負け犬の遠吠えと思えば気にならない……なんてこともないわね。やっぱりうっとうしいわ。潰す?」

「だから、すぐそういう発想に持っていくな」

「ぐっ」


 カナデとタニアは不満そうな顔をして……

 アリオスは、再び怒りをにじませていた。


 この三人が一緒にいると、いつもこんな風になるのかもしれない。

 それは勘弁してほしいな……


「協力することに異論はないが……一つ、提案がある」

「なんだい?」

「真実の盾の回収は、俺達に任せてくれないか?」

「……どういう意味だ?」

「俺達が迷いの森を攻略する」

「ほう」


 アリオスは、面白いものを見つけたような顔になった。


「アリオスの話を聞いたところから判断するに、迷いの森は少人数の方が攻略しやすそうだ。多人数で行くと、はぐれたり迷う者が出てきたりするだろう」

「それで、レイン達の方が適していると?」

「そういうことだ。それと……」


 ちらりと、カナデとタニアを見る。

 アリオスも俺の視線を追う。


「二人はアリオスを嫌っているからな。一緒に行動するなんて言ったら、どんな反応をするか」

「ぐっ……ストレートに言うんだな」

「事実だろう?」

「……まあいい。獣に嫌われることなんて、どうでもいいことだからな」

「アリオス。二人を獣と一緒にするな」

「……ちっ」


 舌打ちをしながらも、アリオスはそれ以上は何も言わなかった。


「それで……答えは?」

「……」


 しばしの迷いの末に、アリオスは小さく頷いた。


「いいだろう。迷いの森の攻略はキミたちに任せるよ」

「決まりだな」

「ただし、真実の盾を持ち逃げしようとするなよ? そんなことをしても意味はない。あれは、勇者である僕にしか扱うことができないものだ」

「そんなこと考えてないさ。アリオスの方こそ、報酬をきちんと用意しておいてくれ」

「ふん、わかっているさ。勇者である僕が報酬を踏み倒すようなことはしない。ああ、そうだ。報酬の話をきちんとしていなかったな。支払いは、成功時のみ。報酬は金貨20枚でいいか?」

「ああ、文句ない」

「あと、なるべく早く攻略してくれよ?」

「わかっている。今日中に準備をして、明日から攻略にとりかかるよ」

「ならいい」


 話は終わりというように、アリオスは俺に背を向けた。


「アッガス、リーン、ミナ。行くぞ!」


 仲間達に声をかけて、アリオス達は街の方に歩いていった。


「ねえ、レイン」


 振り返ると、カナデとタニアが何か言いたそうな顔をしていた。

 なんとなく、聞かなくてもその内容を理解できた。


「本当に、あの勇者の力になるの?」

「あたし、気が進まないんだけど……」

「ありがとな」


 二人の頭を撫でた


「にゃ、にゃに?」

「ちょっ……な、なんでいきなり頭を撫でるのよ!」

「二人は、俺のために怒ってくれているんだろう? 俺のために心配してくれているんだろう? そのことがうれしくて……だから、ありがとう」

「にゃあ……レイン♪」

「そ、そんなことないし……あたしは、レインのことなんてどうでもいいし……」

「二人の気持ちはうれしいんだけど……でも、悪い。今回は、アリオスを手伝わせてくれ」

「どうしてよ?」

「さっき言った通りだ。アリオスは勇者だから、アイツの旅が滞ると、その分、どこかで被害を受ける人が増える。それは望むところじゃない。アイツの力になるなんてイヤだけど……でも、俺が動くことでなんとかできるなら、助かる人がいるのなら、アリオスの力になってもいいかな……って」

「もうっ、ホントにレインはお人好しなんだから!」

「でもでも、レインらしいよ♪」

「悪いな、面倒なことに付き合わせて」

「ううん、気にしないで。私はレインに使役される立場なんだから、どんどん命令してくれていいよ」

「お人好しなご主人様の面倒を見るのもあたしの役目なのよね」


 カナデとタニアが笑い……

 俺も笑顔になる。


 本当にこの二人と出会うことができてよかった。

 心の底から、そう思う。




――――――――――




「くそっ、くそっ、くそっ! ちくしょうっ、くそがあああああぁっ!!!!!」


 夜。

 街の外で、アリオスは一人でゴブリンを狩っていた。


 アリオスの一太刀で、ゴブリンはすでに絶命している。

 しかし、アリオスは剣を止めない。

 死体に向けて、何度も何度も剣を突き刺す。


 それでも、彼の気が晴れることはない。

 苛立ちが募るばかりで、暗い感情が心の中に蓄積されていく。


「この僕がっ、勇者である僕が、あんなカスに負けるなんて……ありえないっ、こんなことは認めてはならない!」


 ドスッ。

 ドスッ。

 ドスッ。


 アリオスは暗い顔をして、繰り返しゴブリンの死体に剣を突き刺した。


「このまま引き下がれるものか……いずれ、必ず……くっ、くくく……」


 アリオスが笑う。

 その瞳には、狂気の色がにじみでていた。


「レイン・シュラウド……覚えていろよ」

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