275話 お騒がせものの買い物
「おっちゃん。この野菜、すごくうまそうやな。おっちゃんのところで栽培してるん?」
「おう、そうだぜ! うちの畑は土がいいからな。それに肥料もたっぷりとまいているから、うまい野菜ができあがる、っていうわけさ」
「おー、さすがやな、おっちゃん。野菜たちも、おっちゃんに育ててもらってうれしい、って言ってるで」
「がはは、そんなことも……あるけどな!」
「さすがやなー、きっと心が広いんやろうなー。そんなおっちゃんのことだから、ちょっとくらいまけてくれるやろなー」
「まったく、ティナちゃんにはかなわねえな……よし! 1割引きだ!」
「もう一声!」
「むむむ……なら2割だ!」
「買ったぁ!」
なにやらよくわからない攻防の末に、ティナが2割引きで野菜を買っていた。
ティナは今は人形の体なので、野菜を持てるはずもなくて、俺が代わりに持つ。
「レイン、レイン。荷物なら我が持つぞ?」
買い物に同行しているルナが、そんなことを言う。
「んー……やめておいた方がいいぞ? これ、けっこう重いし」
「ちと運動不足だからな。それくらい、ちょうどいいのだ」
「あっ」
ルナがやや強引に俺から荷物を受け取り……
「ふぎゅっ!?」
その場でひっくり返り、荷物に押しつぶされた。
慌てて荷物を持ち上げて、ルナを起こす。
「大丈夫か?」
「うぅ……とんでもない重さだったのだ。潰れるかと思ったのだ」
「レインはカナデと契約してて、力があるからなー。そんなレインが重いって言うくらいやから、相当なもんやで?」
「引きこもり精霊族はおとなしくしているのだ……」
今日はルナとティナと一緒に買い物に出ている。
この組み合わせに特に意味はなくて、単なる当番だ。
本当は俺とティナだけなのだけど……
なにかと手伝いをしたい年頃なのか、ルナもついてきた。
「それにしても、さっきは見事だったなあ」
「ん? なにがや、レインの旦那」
「値切る交渉だよ。強引に頼むだけじゃなくて、きっちりと相手を褒める。俺だとそんな風にはできないから、思わず感心したよ」
「ティナは歴戦の主婦みたいなのだ」
「ありがとなー。でも、主婦って言われると、なんか微妙な気分になるで。相手もいないしな。ははは……はぁあああ」
相手がいないことを気にしているのか、ティナが盛大なため息をこぼした。
「そんなに気にしなくていいんじゃないか? ティナは街の人気者じゃないか」
値切ることができたのは、ティナの巧みな話術によるものが大きいけれど……
でも、それだけじゃなくて、ティナが街のみんなに愛されているというところも大きい。
最初は幽霊と怖がられていたけれど、最近はそんなこともない。
ティナの明るい性格に、自然と街のみんなも笑顔になり、当たり前のように親しくなっていった。
「我はティナの人気がうらやましいぞ?」
「ん? そういうルナも人気者やんか」
「むぅーん、我も人気があることは自覚しているが……どうも、孫みたいに扱われているのだ。失礼なのだ。こんなにも妖艶でせくしぃなレディだというのに! そうは思わないか、レイン!?」
「あ、あはは……そうだな。うん」
コメントに困る。
「さてと……おしゃべりもいいけど、本来の目的である買い物もしっかりとしないとな。あとはなにが残っていたっけ?」
「あとは細々とした日用品やな。これらは大したことないし、ウチらだけで問題ないから、レインの旦那は先に帰っててええよ」
「え? そんなわけにはいかないだろ。ちゃんと最後まで付き合うよ」
「いやいや。レインはいいのだ。我らに任せておくがいい。というか、後の買い物は我のもので、その……ついてこられると困るのだ」
ルナがほんのりと頬を染めながら、ふいっと目を逸らす。
俺、なにかしてしまったのだろうか……?
「でもな……やっぱり、二人に任せて先に帰るっていうのはちょっと」
「あー……それじゃあ、レインの旦那は店の外で待っててくれん? そこが最大限の譲歩ということで」
「なんで店の中についていくことができないんだ?」
「……つ、なのだ」
「うん? なんだって?」
「我が買おうとしているものはぱんつなのだ! だから、レインについてこられると困るのだ!」
「ごめんなさい」
顔を赤くして言うルナに、俺は深々と頭を下げるのだった。
――――――――――
色々なことがありながらも、なんとか買い物は終了。
後は家に帰るだけなのだけど……
「あぁっ!?」
帰路の途中、突然、ルナが大きな声をあげた。
「しまったのだ、買い忘れたのだ……」
「どうしたんや、ルナ?」
「それは……アレなのだ! アレ! 我がついてくる時、ティナには言っただろう!?」
「あぁ!」
なにやら納得顔でティナが頷いた。
でも、俺にはなんのことだかさっぱりわからない。
「というわけで、ちょっと買いに戻るのだ!」
「あっ、おい! ルナ!?」
止める間もなく、ルナは来た道を駆けていった。
「ティナ、ルナを追いかけよう」
「あー……それはやめておこか」
「どうしてだ? 一人にさせるのは……」
「えっと……そうそう、ルナが買いたいものはぱんつなんや。予備のぱんつを買い忘れたんや。ぱんつの問題やから、一人にさせた方がええで」
「わかった……わかったから、ぱんつと連呼しないでくれ」
俺の方が恥ずかしくなる。
「……おまたせなのだ!」
待つこと少し。
息を切らして、ルナが駆けてきた。
「早かったな。もっとゆっくり選んでもいいのに」
「レイン達を待たせているのに、のんびりするなんてできないのだ」
「そうなのか? でも、えっと……そういうものはきちんと選んだ方がいいんじゃないか? その、大事なものだし……」
「大事? どういうことなのだ?」
ルナの視線がティナに向いた。
さっと、ティナが目を逸らした。
私はやましいことがあります、というような態度に、ルナがジト目になる。
「ティナよ……いったい、レインになにを言ったのだ? なんか、ものすごい勘違いをされている気がするのだ」
「え、えっと……ルナが買い忘れたのはぱんつや……って」
「ち、ちちち、違うのだ! ぱんつはすでに買ったのだ! そんなものを買いに戻ったわけじゃないのだ!」
だから、公の場でぱんつと言わないで欲しい……
「むぅ。我が買ったのはコレなのだ。はい、レイン」
「俺に?」
ルナが手の平サイズの袋を渡してきた。
これが本来の買い物の目的だったらしい。
とはいえ……なんだろう、これは?
「えっと……開けてもいいか?」
「うむ」
許可をとり、袋を開ける。
すると、中から新品の財布が出てきた。
「これは……?」
「財布なのだ。見てわからないか?」
「いや、それはわかるんだけど……え? これ、俺がもらってもいいのか?」
「うむ。レインへのプレゼントなのだ」
「うちらで一緒に金を出したんや」
「でも……なんで? 誕生日でもないのに……」
「日頃の感謝の気持ちなのだ。いつもレインには世話になっているからな。たまには、こうして感謝の気持ちを形にしてみたいのだ」
「というわけやから、遠慮なく受け取ってな」
「……ありがとな。大事に使わせてもらうよ」
ただの買い物だと思っていたのに、まさか、こんなサプライズが隠されていたなんて。
今日は良いことがありそうな気がした。
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