263話 気まぐれの……
「勇者……いえ。反逆者アリオスを拘束しなさい」
サーリャさまの命令で二人の騎士が動いた。
すでにアリオスはナルカミのワイヤーで拘束されているが……
さすが王都の騎士というべきか、それでも油断することはなく、慎重に接近する。
「バカな……この僕が反逆者? ありえない、僕は勇者なんだ……勇者なのに!」
「アリオスさま……確かに、あなたは勇者でした。そう呼ばれるにふさわしい力を持っていました」
「なら、どうしてこんなことに……!?」
「あなたは力だけで心がありません」
サーリャさまは静かに言う。
その瞳は、どこか揺れていて……
アリオスを哀れんでいるみたいだった。
「やめろっ……僕をそんな目で見るな! 僕は勇者だっ、勇者なんだぞっ!!!?」
アリオスがわめくが、もはやサーリャさまは言葉を返さない。
ただ、淡々と騎士に捕縛命令を出すだけだ。
「アリオス……」
「くっ、レインまで僕をそんな目で見るか……!!!」
アリオスがギリギリと奥歯を噛んだ。
「お前が……お前のせいで、お前なんかがいるから僕は……!!!」
「サーリャさまの命令です。アリオスさま、あなたを拘束させてもらいます」
「どうか、おとなしくしてください」
礼を持ち、騎士はアリオスを拘束しようとするが……
「黙れぇえええええっ!!!」
アリオスは大きく叫ぶと、体に絡みついたワイヤーを強引にほどいた。
そんなことをすれば肉が裂けてしまう。
事実、アリオスは血を流すが……
それでも止まらない。
「この僕を拘束するだと!? 勇者であるこの僕を!? そんなふざけたこと、認められるわけがないだろう!!! 地獄で反省しろっ!!!」
「ぐあっ!?」
「ぎゃあああ!!!」
ある程度のダメージが蓄積されているはずなのに……
アリオスは剣を閃かせて、一瞬で二人の騎士を倒した。
「くそっ!」
手負いの虎ほど手が負えないというが……
まさにその通りだ。
今のアリオスは追いつめられた虎のようなもので、獣のように暴れている。
こんなことになる前に決着をつけなければいけなかったのに……
俺のミスだ。
もっと徹底的に叩いておくべきだった。
「サーリャさまは下がって! ここは俺がっ」
「レインさんっ!?」
騎士達はサーリャさまを背中にかばいながら後退した。
それを確認してから、アリオスに突貫する。
「おとなしくしてろっ!!!」
「レインっ、レインレインレイン、貴様ぁあああああっ!!!!!」
カムイとアリオスの剣が激突して……ギリギリと拮抗した。
俺の力は猫霊族並なのだけど……
今のアリオスは、それに匹敵する力があるというのか!
目は血走り、今までに見たことのない形相になっている。
まるで幽鬼のようだ。
追い詰められたことで、体のリミッターが外れているのだろう。
とんでもないバカ力で、次第に押されてしまう。
「まずっ……!?」
「こうなったら貴様だけでもっ!!!」
ギィンッ!!!
競り負けてしまい、カムイが弾かれてしまう。
アリオスの凶刃が迫る。
「くっ!!!」
一撃目はナルカミで防いだ。
小手を貫通して、腕が切り裂かれるものの、致命傷ではない。
しかし、それは一時しのぎにすぎない。
アリオスはすぐに刃を戻して、二撃目を放つ。
今度は避けられない!
思わず目を閉じてしまう。
ガッ!!!
瞬間、轟音が響いた。
雷が落ちたような音……そして、衝撃。
「なんだ……?」
目を開けると、ボロボロになったアリオスが見えた。
アリオスの足元が焦げている。
まさか、本当に落雷が……?
「う……ぁ……」
今度こそ限界が訪れたらしく、アリオスは地面に倒れた。
ピクピクと震えているところを見ると、気絶しただけらしい。
「レインさん!」
サーリャさまが慌ててこちらに駆けてきた。
「今のはいったい……?」
「いえ、その……俺もよくわからなくて……」
空を見上げると、青空が見えた。
太陽が輝いている。
落雷……なんてことはない。
だとしたら、魔法?
でも、ソラとルナはここにはいない。
それに、今のが魔法だとすると、見覚えがあった。
「……イリス?」
――――――――――
「ふぅ……」
遠く離れたところに女の子の姿があった。
手頃な岩をイス代わりにして座り、のんびりと空を眺めている。
「レインさまは、詰めが甘いところは変わっていないのですね。まったく……様子を見ているだけのつもりなのに、ついつい手を出してしまいました」
超遠距離の魔法の狙撃。
とんでもないことを成し遂げたのだけど、当の本人は涼しい顔をしている。
これくらいできて当たり前、という様子だ。
それもそのはずだ。
彼女は、最強の中の最強と言われている天族なのだから。
「さて……レインさまはとても勘が鋭い方ですから、この距離でも見つかってしまうかもしれませんね。そうなる前にお暇することにしましょう」
女の子……イリスが地面に降りた。
パンパンとお尻についた土埃を払い落として……
それから、背中越しに語りかける。
「それで……何か御用ですか?」
イリスの背後……いつの間にか、モニカの姿があった。
「もしかして、わたくしの行動を咎めに?」
「いいえ。イリスさんのことは気にしないようにと、リースさまにご命令されていますので。どのようなことをしても、私が咎めることはありません。ただ……今回は、お礼を言っておきたいと思いまして」
「お礼……ですの?」
イリスが訝しげな顔になる。
それも当然だ。
今回、レインを貶めるために、モニカはアリオスに協力をしてきた。
それなのに、最後の最後でレインを殺す機会を奪い、邪魔をした。
モニカからしてみれば、おもしろくないことではないのか?
イリスはそんな予想をするが……
外れていたらしく、モニカは笑みを浮かべていた。
「あそこでレインさんが殺されていたら、アリオスさまもその場で殺されていたでしょう。それは、こちらとしても困りますので。まあ……レインさんを殺せるというのも魅力的なことですが……リースさまからは、アリオスさまを優先するように言われているので」
「レインさまではなくて、あの勇者を……? しかし、あの勇者はもう終わりですわ。わたくしの一件でも色々とやらかしていましたが……今回は、さらにその上をいく愚行。サーリャという人間の姫が言うように、もう終わりでしょう」
「それこそが私の……リースさまの望みなので」
「なるほど……なるほど。ふふっ、あなた方が考えていること、少し理解できましたわ。でも、そうなると面倒なことになりそうですわね。わたくし、あの勇者は嫌いなので」
「あら、恩があるのでは?」
「解放してもらった恩は、もう十分に果たしましたわ。よって、笑顔を向ける理由はありませんので」
「冷たい方なのですね」
「あなたに言われたくありませんわ」
イリスが振り向くと……
すでにモニカは消えていた。
なにかをされた様子はない。
監視されている様子もない。
ただ単に、今の行動は気にしなくていい、と伝えに来たのだろう。
自由にしていいのは嘘偽りのない言葉だったらしいと、イリスは現状を分析した。
「さて……勇者は堕ちて、レインさまは光を掴む。これからどうなるのかわかりませんが、なかなかに厄介で……そして、おもしろそうなことになりそうですわ」
イリスは小さく笑い……
そして、蜃気楼のようにその姿が消えた。
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