242話 陰謀の裏側
レイン達は抵抗するのを諦めて、おとなしく連れて行かれた。
逃亡防止のために、一人一人別の馬車に乗せられる。
さらに力を封印するための魔力錠がつけられた。
それだけではなくて、リーンとミナの手で小型の結界も展開された。
対象の体力を奪い続けるという、非人道的なものだ。
本来ならば、そのようなものの使用は許されないが……
相手が最強種ということもあり、使用が許可された。
レイン達はどうすることもできず、そのまま王都へ移送されていく。
「くくく……」
アリオスは我慢できないという様子で笑みを浮かべた。
まだ人目がある。
どうにか愉悦の表情をこらえようとしているが、それでも、全てを抑え込むことはできない。
「あー、スッキリしたぁ」
リーンは気持ちよさそうな顔をしていた。
長年の鬱憤が晴れた、というような感じだ。
「リーン、もう少し言葉を選んだ方がいいですよ。勇者パーティーにふさわしい言動をとらないといけません」
「わかってるんだけどさー、でも、ちょっとくらい、いいじゃん? あいつらには散々コケにされたし」
以前、レインとアリオスのパーティーが激突した時……
リーンはタニアに痛い目に遭わされている。
その時の恨みをようやく晴らすことができた。
喜ばない方が無理というものだった。
ミナも引っかかっていたものはあるらしく、それ以上、リーンをたしなめようとはしない。
ミナの場合はリーンと違い、勇者パーティーを侮辱した愚か者に天罰を下すことができたという想いが強い。
「……ふん」
アッガスは特になんの感情も抱いていないように見えた。
無表情のままで……
腕を組み、適当な木によりかかりながら、成り行きを見守っていた。
仲間の様子を一通り確認した後、アリオスはテントに移動した。
一人になったところで、再び笑みをこぼす。
「あは……あはははははっ、あーーーはっはっは!!!」
笑いが止まらない。
なんて愉快なのだろう。
なんて痛快な気分なのだろう。
なんて素敵なのだろう。
アリオスはレインの顔を思い返した。
仲間が捕らえられて、為す術がなくなり、追い詰められた時の顔……
それを思い返すだけで、満たされたような気分になる。
「ああ、そうだ。あの顔が見たかった、ようやく見ることができた……くくくっ、今日はなんて素晴らしい日だろう」
アリオスはそっと頬を撫でた。
今でもレインに殴られた時の痛みを覚えている。
勇者という選ばれし存在が、ビーストテイマーごときに負けた……
その屈辱が魂に刻み込まれている。
幾分、鬱憤を晴らすことができた。
ただ、これで終わりではない。
これからレイン達は裁きにかけられる。
色々と手を回して、全てを奪い尽くしてやろう。
そして最後はこの手で……
「失礼します」
暗い妄想を働かせていると、声がした。
モニカだ。
いつの間に入ってきたのだろう?
アリオスは疑問に思うが……
深く考えることはなかった。
今はレインにやり返すことができた達成感で満ち溢れていて、小さなことはどうでもいいと考えていた。
「ごきげんみたいですね」
「まあね。ようやく、あの愚か者に罰を与えることができた。これで終わりというわけではなくて、むしろ始まりなのだけど……一歩を踏み出すことができた。とてもうれしいさ」
「それはなによりです」
「礼を言うよ、モニカ。君のアイディアでレインを追い込むことができた。なにか礼をしたいな。なにをしてほしい?」
「いえ。アリオスさまのためなら、これくらいのことはなんでもありません」
「謙虚だな、君は。まあ、それが君の美徳でもあるか」
アリオスは笑いながら、とある眼鏡を取り出した。
指先で転がして……
何気なく身につけてみせる。
すると、その姿がレインのものに変化した。
「君がくれた魔道具もすばらしい。コイツのおかげで、レインを貶めることができた」
「転写の眼鏡……特定の人物の姿を模倣することができる、一級品の魔道具ですね。なにか役に立つのではないかと思い、王宮から持ち出していましたが……アリオスさまの役に立てたみたいでなによりです」
「便利な道具だよ。まあ、あらかじめ対象と接触しておかないといけないという制約は面倒だが……それでも、十分に役に立ってくれた」
能力を使うためには、眼鏡を身につけた状態で、10分、対象の傍にいなくてはいけないという制約がある。
しかし、アリオスはレインと模擬戦を行うことでその条件をクリアーしていた。
やや強引な方法ではあったため、怪しまれているかもしれないが……
このような魔道具があるということは、さすがに気づいていないだろう。
レインの姿を転写したアリオスは、その足で遺跡へ。
あらかじめ監視のための魔道具の位置を把握しておいて……
その前でレインになりきり、冒険者達を惨殺する。
そうして罪を被せる。
……それが今回、アリオスが立てた計画だった。
レインは冒険者資格が剥奪されるだけではなくて、罪深い罪人として裁かれるだろう。
普通に考えて死刑。
良くて鉱山などの強制労働。
その未来を想像するだけで、アリオスは笑みがこみあげてきた。
「ところで、なにか用かい?」
思い返したように、アリオスはモニカに尋ねた。
「はい。その眼鏡の処分をしておこうかと」
「コイツを? 少しもったいない気がするが……」
「それはアリオスさまに繋がる証拠品として機能してしまいます。優れた魔道具ではありますが、残したままにしておくと、後々で問題になる可能性が……」
「ふむ……それもそうだな。わかった。コイツの処分は君に任せるよ」
「はい」
アリオスはモニカに眼鏡を渡した。
モニカは眼鏡を受け取ると、小さな声で呪を紡いだ。
その音に反応して、眼鏡が崩れて塵となる。
あらかじめ仕込んでおいた自壊装置を起動させたのだ。
「これで問題ないですね。誰もアリオスさまにたどり着くことはできません。全ては、アリオスさまの思うがままに……」
「ありがとう、モニカ。僕は君という素敵な仲間に巡り合うことができた。この運命に感謝するよ」
「はい。私も、アリオスさまと出会うことができた運命に感謝いたします」
モニカはアリオスに忠誠を捧げるように、腰を折り、深く頭を下げた。
そのせいでアリオスは彼女の表情が見えなかった。
モニカは……笑っていた。
――――――――――
気分よさそうにしていたアリオスは、今後の対応をしなければいけないとテントを後にした。
一人になったモニカはその背中を見送り……
「ふふっ」
満足そうに笑う。
「これで、邪魔な人間を排除することができました。それだけではない。勇者も越えてはならない一線を越えてしまった。このままうまくいこうがいくまいが、致命的な問題となることは明白……ふふっ、順調に進んでいますね。全てはリースさまのために……」
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