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238話 ゴール

「……」

「……」


 気まずい空気が流れていた。


 ネズミに案内してもらい、遺跡の最深部を目指していたのだけど……

 途中で広い部屋に出た。

 そこにアクスの姿があった。


 「よう」とものすごくシンプルな挨拶を交わして以降、なにも言葉を交わしていない。


 セルは以前のことを表に出すことはなくて、普通に話をしてくれていたが……

 アクスは不器用なところがあるからな。

 今も色々と思うところがあって、気まずいのだろう。


 でもそれは俺も同じで、なんて声をかければいいかわからない。

 とはいえ、ずっとこのまま、っていうわけにはいかないよな。


「えっと……アクスは、こんなところでなにをしているんだ?」

「うん? あー……試験官だよ。レインのような受験生の力を見定める役っていうか、障害っていうか……まあ、そんな感じだ」

「なるほど」


 ようするに、ゲートキーパーというヤツか。

 定番だけど、アクスを倒さないと奥へ進めないという展開なのだろう。


「あー……別に、俺を倒さなくても先に進むことはできるぞ」


 俺の思考を読んだように、アクスがそんなことを言う。


「ここで行われる試験は二択だ。俺と戦い最短コースを進むか……それとも、俺を避けて遠回りの道を進むか。どちらに一つ、っていうわけだ」

「なるほど」

「最短コースなら、ここからゴール地点まで1分。遠回りコースなら1時間っていうところだな。時間に余裕があるなら……って、おい? なんで武器を構えているんだ?」

「最短コースを進むには、アクスを倒さないとダメなんだろう?」

「迷いすらしない、っていうわけか。まいったな」


 先日の事件を思い出す。

 こんな風に俺とアクスは対峙していたんだよな……


 あの時の選択を後悔したことはない。

 だから、今でも同じ選択をすることができる。


 俺はカムイを抜いた。

 しかし……アクスは刀を抜こうとしない。


「アクス?」

「あー……なんていうか」


 アクスは決まりが悪そうに言う。


「……別の方法でやらないか?」

「え?」

「俺の役目は、受験生の力を確かめることだ。本来なら普通に戦うんだが……まあ、レインならそんな必要もないだろ? それに、なんつうか……試験だとしても、またおまえとやりあうようなことはしたくないんだよ」

「それは……」

「言っておくが、俺はあの時の選択を後悔していない。今でも、ああすることが正しかったと思っている。だが……そいつはレインも同じだろ?」

「そうだな。後悔はしていないよ」

「なら、互いに正しかった……っていうことで話をまとめようぜ。いい加減、レインとケンカするのはイヤというか……まあ、落ち着かないんだよ。一時とはいえパーティーを組んだ仲だし……ああもうっ!」


 わしわしとアクスが自分の頭をかいた。


「とにかく、だ! 俺はお前とまた刃を交えたくない。以上だ!」

「はは……」


 なんていうか、アクスらしい。

 不器用で、でも、まっすぐで……

 なにも変わっていないところがうれしく思えた。


「俺も賛成だ。アクスとまた戦いたくないな」

「そう言ってくれるとうれしいぜ」

「まあ、戦っても結果は見えているしな」

「おいこら! そいつはどういう意味だ!?」

「だって、前回は俺の勝ちだったじゃないか。あれからそんなに時間は経っていないし、今やっても同じ結果になるだけだろう?」

「言ってくれるな、この野郎。っていうか、あの時はレインに負けたわけじゃねえ。お前の仲間に負けたんだよ。最強種を相手にまともに戦えるか。レイン一人なら、俺が圧勝してたはずだぜ」

「それはどうかな?」


 互いに不敵に笑う。


 もちろん、この言葉は本心じゃない。

 なんていうか、言葉遊びをしているような感じで……

 小さな子供が俺の方がすごい、と言い張るようなものだ。


 不器用な男のコミュニケーション、と捉えてくれたらと思う。


「でも、戦わないなんていいのか? アクスは試験官だろう?」

「さっきも言ったが、レインの力はもう知っているからな。試すまでもなく合格だ」

「なら、素直にここを通してくれないか?」

「できるわけないだろ。力を知っているとはいえ、タダで通すことはできない。試験は行わないとダメだ」

「融通が効かないなあ」

「そういう性分なんだ」


 アクスらしいといえばアクスらしいか。

 仕事に関しては真面目だからな。


 仕事以外に関しては……

 そちらはノーコメントとしておく。


「でも、戦う以外となるとどうするんだ? 知恵比べでもするか?」

「レインは俺を殺すつもりか?」


 なぜそんな話になる?

 知恵比べをしたら、知恵熱で頭がショートしてしまうとでも言いたいのか?


「コイツで決着をつけようぜ」


 アクスは適当な段差の前に移動して、肘をつけた。


「腕相撲か」

「これなら力を計ることができるし……まあ、男同士の試合としては、いい感じじゃないか?」

「わかりやすいな」


 ついつい笑ってしまう。

 それから……アクスの前に移動して、同じく肘をつけて、手を掴む。


「……悪かったな」

「アクスが謝ることじゃないだろう? 間違ったことはしていないって、言ってたじゃないか」

「その気持ちに変わりはない。ないが……それでも、仲間が選んだ道を素直に応援してやれないっていうのは、色々と思うところがあるんだよ」

「そっか」


 アクスの気持ちが伝わってくるみたいで……

 胸に抱えていた色々なわだかまりが解けていくのを感じた。


「ありがとう」

「うん?」

「……仲間にそう言ってもらえると、うれしいよ」

「レイン、お前……」


 仲間という言葉に反応して、アクスが目を大きくした。

 それから、小さく笑う。


「俺を仲間にカウントしていいのか?」

「いいんじゃないか?」

「疑問系かよ」

「なら、いいさ」


 あんな風に別れることになったけれど……

 でも、再び同じ道を歩む機会があるかもしれない。

 それがゼロじゃないと、今、示された。


 だから、俺はアクスのことを仲間と呼ぶ。

 たぶん、みんなも納得してくれると思う。


「ったく……ホント、レインはまっすぐなヤツだな。見ていると眩しくなるくらいだ」

「そうか?」

「自覚なしときたか。ま、その方がレインらしいか」

「そこはかとなくバカにされている気がするな……」

「拗ねるな拗ねるな。一応、褒めてるんだぜ」

「一応、って言葉は余計じゃないか?」


 今まですれ違っていた分、たくさんの言葉が出てくる。

 楽しく、心地いい。


 もうしばらくこうしていたいが……

 さすがに、そういうわけにはいかない。

 試験の時間もあるし、そろそろ先に進まないといけない。

 交友を温めるのは後でもいい。


「じゃあ……」

「始めるか!」


 その言葉を合図に、俺とアクスは腕に力をこめた。




――――――――――




「にゃー……落ち着かない」


 カナデがそわそわと、広間を行ったり来たりしていた。

 タニアは適当なところに座り、じっとしている。

 ソラとルナは、なにやらケンカをしたらしく、追いかけっこをしていた。

 そんな二人を見て、ニーナがあわあわと慌てて、ティナが微笑ましいものを見るような顔をしていた。


「みんな、落ち着いてるね……レインのこと心配じゃないの?」

「もちろん心配よ」


 タニアが答えた。


「でも、同時に信頼もしているの。レインなら、きっと時間内にここにたどり着いてくれる。ちゃんと合格してくれる。だから、大丈夫よ」

「にゃー……タニアは強いんだね。私、そんな風に思えないよ……」

「レインのこと、信頼してないの?」

「しているよ? しているんだけど……でもでも、心配っていう気持ちも消えてくれなくて……うにゃーん」

「まあ、カナデはそれでいいんじゃない?」

「そうなの?」

「どっちが正しいってことはないんだから……それぞれのやり方というか、想い方でレインのことを考えればいいと思うわ」

「タニアは大人だね」

「カナデが子供なのよ」


 そんな話をしているうちに、他の冒険者パーティーが姿を見せ始めた。

 あちこちの通路から顔を見せて、次々と合格者が決まっていく。


 そして、最後に顔を見せたのは……


「にゃー、レイン!!!」

「みんな!」


 ゴールしたことに気づくことなく、レインは仲間との再会を喜んだ。

 それはカナデたちも同じで……


「やれやれ」


 再会を笑顔で喜ぶレイン達を見て、セルは小さな笑みをこぼすのだった。

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