230話 実力テスト
第一の試験であるマラソンは、2時間ほど走り続けたところで終了した。
脱落者は30人ちょい。
試験官の様子を見る限り、想定外らしい。
やりすぎた、とか、あの勢いに引っ張られた、とか。
そんな言葉が聞こえてきたけれど、詳細はよくわからない。
まあ、俺達は問題なく合格できたので、細かいことは気にしないでおこう。
2時間も走り続けるのはさすがに疲れたので、少し休憩。
運営側もやりすぎたと思っているらしく、次の試験まで間を空けてくれた。
「ふぅ、さすがに疲れたな」
「おつかれやでー」
「ん……レイン、これ」
ニーナが亜空間収納からタオルと水を取り出して、差し出してくれた。
「ありがと」
「えへへ」
お礼になでなですると、ニーナはうれしそうに三本の尻尾をゆさゆさと揺らした。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……わ、私の勝ちだね!」
「くはっ……ね、猫霊族に体力で勝てるわけないじゃない……っていうか、あそこまで食らいついたんだから、互角でいいと思うわ」
カナデとタニアは、最終的に本気を出したらしく、見事に二人揃ってバテていた。
最後の方はふらふら歩きだ。
それでも、試験官を三周くらい周回遅れにしていたから、それでも問題はなかった。
「……えっぷ……」
「……うごぉ……」
ソラとルナは青い顔をして倒れていて、ぴくりとも動かない。
完全にダウンしている。
2時間もの間、馬車で悪路を走り続けたようなものだからな。
二人にとってはかなりきつかっただろう。
「ソラ、ルナ。だい、じょうぶ……?」
「あーうー……ダメです……」
「天地がぐるぐる回っているのだ……あは、あははは……」
「よしよし」
「ほれ、ウチが癒やしたるで」
ニーナとティナが二人の看病をしていた。
カナデとタニアはやらかした方なので、放っておかれている。
まあ、あの二人はなんだかんだで元気そうだから、特に問題ないだろう。
――――――――――
30分の休憩の後、第二の試験が行われることになった。
遺跡の広場に移動すると、訓練用の木人が設置されていた。
木人というのは、人を模した、木で作られた簡易な人形のことだ。
剣などを打ち込む際の訓練としてよく使用されている。
木人の表面には、魔術的な模様が描かれていた。
ただの木人というわけではなくて、なにかしらの仕掛けが施されていそうだ。
「これは特別な魔法がかけられたものよ」
改めてセルが壇上に立ち、説明をする。
「百聞は一見にしかず。これを見てちょうだい」
セルは隣で待機していた試験官に合図を送る。
すると、試験官は木人に向けて魔法を解き放つ。
火球が木人に直撃した。
しかし、木人が壊れることはない。
代わりに、『54』という数値が表示された。
「ご覧の通り、この木人は受けたダメージを数値化して表示できるの。次の試験はこの木人を使い、500以上の数値を出すこと。物理でも魔法でも構わないわ。ちなみに、500に達しない人は失格よ」
500か。
なんともいえない数値だ。
今の魔法は初級のファイアーボールだ。
それで54となると、なかなか厳しいことになるかもしれないな。
魔法で挑むとなると、上級魔法くらいは使えないと厳しいかもしれない。
「それじゃあ、まずはそこのあなた達から」
端から順にパーティーが呼ばれていき、試験に挑んでいく。
638。
340。
225。
色々な数値が叩き出されていく。
今のところ、合格率は3割というところか?
ただ、パーティー全体で見ると5割くらいに跳ね上がる。
パーティーの中の一人が失格したからといって、全体が落第ということにはならない。
過半数が合格すれば、その試験は乗り越えることができる。
例えば、四人パーティーならば、二人が合格すればいい。
そのような仕組みになっているため、現時点では、たくさんの脱落パーティーがいるわけではない。
「次は……あなた達の番よ」
セルに指名されて、俺達の番がやってきた。
「よーし、がんばるよー!」
30分の休憩ですっかり元気を取り戻したカナデは、笑顔いっぱいで、ぐるぐると腕を回した。
それを見て、セルが慌てる。
「えっと……お手柔らかにしてね?」
「はっはっは、なにを慌てているんですか、セルさん」
焦るセルを見て、仲間の試験官が笑う。
「彼女は猫霊族で、第一の試験でとんでもない結果を叩き出した。しかし、恐れるほどではないでしょう。この木人は特別製ですからね。どんな攻撃を受けても壊れることはないし、手加減なんてする必要はないですよ」
「あなたは、彼女のことをよく知らないからそんなことを言えるのであって……」
「さあ、全力で打ち込むがいい」
セルが補足しようとするが、試験官は聞くことなく、カナデに試験開始を告げた。
「それじゃあ、いくよーっ!」
カナデは木人の前に立ち、ぐるんぐるんと腕を回す。
物理特化のカナデは、特殊な攻撃はできない。
ただただ、全力で殴るだけだ。
「にゃんっ!!!」
ゴガァアアアアアッ!!!!!
轟音が響き渡る。
木人はカナデの一撃に耐えるけれど……
土台は耐えることができなかったらしい。
石の土台が砕けて、木人が遥か彼方に吹き飛んだ。
「……」
試験官が唖然とする中、地面に転がる木人の上に『8980』という数値が表示された。
「やった、合格! にゃん♪」
無邪気に喜ぶカナデの傍らで、試験官が言葉を失っていた。
それを見て、言わんこっちゃない、とばかりにセルがため息をこぼしていた。
「……よ、よし。では、次は君だ」
試験官はなんとか気を取り直した様子で、木人を改めて設置して、ルナに声をかけた。
「む? 我か?」
「そうだ。君ならとんでもないことはできそうにないし……うん、次は君だ」
「むかっ」
カナデより下と見られて、プライドが傷ついたらしい。
ルナがイラッとした表情を見せた。
「ああ、またそんなことを……」
セルが再びため息をこぼして、そっと後ろに下がる。
合わせるように、俺達も後ろに下がる。
「うん? どうしたんだ? なぜ後ろに下がる?」
「いや、巻き込まれたくないので……」
「なんのことを言っている?」
不思議そうにしている試験官の手を取り、無理矢理木人から引き離した。
「くくく……我が本命、真打ちだということを見せつけてやるのだ! 刮目するがいい! 我こそはレインのパーティーで最強にして至高! さらにプリティでかわいい、マスコットアイドル! 我の力を見るがいい!」
「プリティとかわいい、同じことを言っとるやん」
「そこ、ツッコミどころなのか」
後方に退避して、しゃがんで頭を抱えた。
そして……
「アルティメットエンド!!!」
ルナの超級魔法が炸裂した。
光があふれて、大地が揺れる。
破壊の力が吹き荒れて、木人を飲み込み……
そのまま、木人は消滅した。
「なぁっ……!!!?」
どんな攻撃を受けても壊れることはない。
そう言っていた木人が壊れて、試験官は愕然とした。
「む? 数値が表示されないな、壊れてしまったか。このような場合はどうなるのだ?」
「……」
「おーい、どうしたのだ? どうなるのか、教えてくれないか?」
「あ……えと……はい、合格です」
「ふはははっ、どうだ、我の力を見たか、なのだ!!!」
ルナは偉そうに胸を張り……
その隣で、試験官はしばらく茫然自失になるのだった。
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