23話 失敗
今日も元気に冒険者として活動しよう。
というわけで、一つ依頼を請けた。
オークの討伐。
オークはEランクの魔物だ。
実質的な身体能力は、Fランクのゴブリンとそれほど大差がない。
ただ、オークの方が知能は上で、武器を持って戦うという特徴があった。
武器といっても、石を削った剣や木で作った槍など粗末なものだけど……
それでも、ランクが低い冒険者にとっては、武器を持った相手は脅威だ。
相手が素手ではなくて武器を持っているとなると、怪我をする危険性がぐっと増す。
侮ってはいけない相手なのだけど……
「タニア、タニア。どっちがたくさん倒せるか勝負しよう?」
「ふふーん、あたしに勝負を挑むなんて愚かなことをするのね。いいわ、受けてあげる」
二人は余裕たっぷりな会話をしていた。
最強種にしてみれば、オークなんて敵にならない。
それはわかっているのだが……
「二人共、油断は禁物だぞ」
「にゃん?」
「俺達は、まだまだ駆け出しの冒険者なんだ。自分の力を過信したら、思わぬミスを招くかもしれない。オークを相手に過度に警戒をする必要はないが、だからといって、適度に緊張感を保つことも忘れないように」
「にゃんっ、気をつける!」
「でも、オークよ? たかがEランクの魔物なのよ? あたしが、そんな相手に負けるとでも?」
「そうは思ってないさ。でも、怪我はするかもしれないだろ? 気をつけるに越したことはない、って言いたいんだ」
「まったく、心配性なんだから」
「ホントに気をつけてくれよ?」
「はいはーい」
適当な返事が返ってきた。
俺の言葉はタニアに届いていないみたいだ。
何も起こらなければ、それでいいんだけど……
――――――――――
「カナデっ、そっちにいったぞ!」
「任せて、うにゃん!」
オークの住処に突入して、刃を交える。
敵は20匹くらいだろうか?
思っていたよりも多い。
ただ、開戦直後に、タニアが魔力を解放して威圧をしたため、オーク達の戦意は一気に落ちた。
最強種がやってきたことを知り、恐慌状態に陥るオーク達。
慌てふためき、隙だらけの体を晒す。
そこを、俺達は各個撃破していく。
「ふふーんっ、楽勝ね! えいやっ」
タニアが尻尾を鞭のように振るい、一匹のオークを弾き飛ばした。
猛烈な勢いで吹き飛ばされたオークは、何度も地面を転がり、そのまま倒れた。
ほどなくして、その体は魔石に変わる。
「うにゃーっ……にゃにゃにゃ!」
逃げようとするオーク達の前に立ちはだかり、カナデが拳のラッシュを見舞う。
一撃一撃が非常に重く、的確に急所を撃ち抜く精密な一撃だ。
逃げようとしていたオーク達はカナデの拳の前に、全て倒れた。
さすがというべきか。
二人は破竹の勢いでオークの群れを撃破していた。
俺も負けていられないな!
「ふっ! はっ!」
人間の俺ならば、どうにかなると思ったのだろう。
オーク達がこちらに殺到してくるが、慌てることなく、一匹一匹、拳で撃墜する。
複数がまとめて来た時は、
「ファイアーボール!」
出力を調整した魔法で、まとめて吹き飛ばした。
タニアの特訓のおかげで、魔力の扱いにだいぶ慣れた。
「レインー、こっちは終わったよ」
「あたしの方も終わったわ」
「俺も終わりだ」
オークの群れは綺麗さっぱり消えていた。
何事もなく殲滅できたらしい。
「楽勝ねっ」
「にゃん♪」
「二人共、ありがとうな。おかげで、無事に終わらせることができたよ」
「ふふーん、このあたしが仲間に加わったおかげね♪ 感謝してもいいのよ? ついでに崇めてもいいのよ?」
「調子に乗るな」
「だって、事実だしー」
「とりあえず、魔石を回収しよう」
それぞれ分散して、あちこちに散らばっている魔石を回収する。
魔物の群れを相手にすると、魔石の回収が面倒だな。
簡単に回収できるような方法を考えておこうか?
「あら? まだ生き残りがいたみたい」
草むらに隠れて見えなかったが、一匹、オークが倒れているのが見えた。
死んだら体は消えて魔石になるから、まだ生きている証拠だ。
「サクッと、トドメを刺してあげる」
「タニア、気をつけろ。追い詰められた魔物は何をするかわかないからな」
「大丈夫大丈夫、所詮、オークよ? あたしの敵じゃないわ。こんなの、すぐに……ひゃ!?」
突然、オークが起き上がり、近づいてくるタニアにしがみついた。
「なっ、なによコイツ!? このっ……!」
タニアはオークを引き剥がそうとするが、うまくいかない。
突然のことでタニアが慌ててうまく動けないのと、相手が死に物狂いで火事場の馬鹿力を発揮しているからだろう。
オークはタニアの体にしがみつきながら、石でできた短剣を振りかざして……
「タニアっ!!!」
オークが短剣を振り下ろして……
その軌道上に、俺は腕を割り込ませた。
短剣が腕に突き刺さり、激痛が走る。
が……タニアは無事だ。
「レイン!?」
「にゃあっ、このっ!!!」
慌てて駆けつけたカナデがタニアからオークを引き剥がして、そのまま空に蹴り飛ばした。
今度こそオークは死んで、魔石に変わる。
「レインっ、大丈夫にゃ!?」
「いててて……なんとか」
「で、でもこんなに血が出て……」
タニアが顔を青くして慌てていた。
「大丈夫だよ」
「でも!」
「忘れたのか? 俺は、治癒魔法も使えるんだぞ。初級だけど、タニアの魔力があるなら……」
「あ……」
「ヒール」
怪我をした腕に手の平をかざして、魔力を集中。
魔法を唱えた。
初級の回復魔法だけど、タニアの魔力があるおかげで、傷口はすぐにふさがった。
すごいな、これは。
上級のエクスヒール並の効果があるんじゃないか?
「ほら、元通りだ」
「レイン、痛くない? 苦しくない?」
「心配してくれてありがとうな、カナデ。でも、俺は大丈夫だから」
「にゃー……よかったぁ」
「……」
カナデが安堵する一方で、タニアは暗い顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「……その……」
わずかに言いよどむ。
「……ご、ごめんなさい……」
「え?」
「レイン、言ってたでしょう? 油断するな、って……それなのに、あたし……おもいきり油断してた。所詮、オーク……って」
「まあ……それは仕方ないと思う」
タニアは最強種だ。
オークなんて相手をいちいち警戒していたらキリがない。
そんな言葉をかけるものの、タニアは泣きそうな顔をしたままだ。
「あたしのせいで……レインに怪我をさせちゃった……治癒魔法でなんとかなったけど、でも、もしかしたら、取り返しのつかないことになってたかも……あたしのせいだ……あたしの失敗だ……本当に、ごめんなさい……」
タニアが深く頭を下げた。
それに対して俺は……
「え……?」
そっと、タニアの頭を撫でた。
「ありがとな、心配してくれて」
「え? いや、その……な、なに? 怒らないの……?」
「次から気をつけてくれればいいよ。それに……タニアは、もう反省しているだろう? それなのに怒るなんてことをしても、意味ないさ」
「でも……あたしのせいで、レインが……」
「いいよ。タニアが傷つくよりマシだ」
「っ!!!」
ハッと、タニアは目を大きくした。
揺れる瞳をこちらに向けて……
それから、再び泣きそうな顔をする。
「ばか……自分のことよりも、あたしのことを気にするなんて……ばかじゃないの……」
「そうだな。バカなのかもしれないな。でも、そういう性分なんだ」
「どうして、そこまで……」
「タニアは仲間だ。まだ知り合って間もないけどさ……でも、不思議と、大事な仲間だ、って思えるんだ。なんて言えばいいのかな? 一緒にいるだけで、タニアの優しさが伝わってくるというか、俺達を認めてくれていることがわかるというか……だから、俺もそれに応えたいって思っただけで……話がまとまらないな。とにかく、仲間を助けるのは当たり前のことだろう? 気にするな」
「……レイン……」
「また同じようなことが起きたとしても、俺は迷わずにタニアを助けるよ」
「……ばか……でも、ありがとう……」
タニアは泣いているような笑っているような、複雑な顔をしながら、もう一度小さな声で、『ばか』とつぶやくのだった。
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