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228話 試験開始

 王都の観光を楽しみ……

 十分に体を休めて、そして、試験当日を迎えた。


 試験会場は王都から歩いて数時間のところにある遺跡だ。

 遥か昔……200年以上も前のものらしい。


 少なくとも200年以上の年月が経過していて、その間、雨風にさらされているのだけど……

 遺跡は一切劣化することはない。

 一説によると、最強種が建築した砦、という話がある。


 現在では遺跡は、有事の際の砦として利用されている。

 過去、魔王との戦争が勃発して、王都近郊が戦場になった時……

 遺跡に立て籠もり、敵を迎撃したとか。


 遺跡の名前は、『大地の楔』。


 そこが、今回の試験会場だ。


「おー、人いっぱいだねー!」


 遺跡の手前の広場……そこが集合場所に指定されていた。

 そこには数々の冒険者が集まっている。


 ざっと見た感じ、100人を越えていた。

 さすがに、150人には届かない。


「これ、みんなBランクの冒険者なのか……ある意味で、壮観な眺めだな」

「にゃん? 仲間もいるから、みんながみんな、っていうわけじゃないんじゃない?」

「あ、それもそうか」


 今回の試験は、パーティー全員で挑むことができる。

 俺と同じように、仲間を連れてくるのが当たり前だろう。


「みんな、あたしたちのライバルになるのかしら?」

「それはないんじゃないか? Aランクになれる人数が限られている、っていう話は聞いていないから……競うというよりも、一定の基準に満たないものは脱落していく、という感じなんだと思う」

「なるほどね。でも、それはそれでめんどくさそうね」


 競い合う方式ではなくて、脱落式となると、一つ一つのパーティーを審査することになる。

 試験の内容によっては、かなり時間がかかるだろう。

 最も、全体をふるいにかけるような内容であれば、一気に脱落するかもしれないが……

 まあ、こればかりはなんともいえないな。


 あれこれと想像しても仕方ない。

 どんな試験が用意されたとしても、万全の状態で挑むまでだ。


「はい、注目」


 パンパンと手が鳴らされた。

 振り返ると……セルの姿が。


「私は、試験官を務めるAランク冒険者のセルよ。よろしく」


 まさか、セルが試験官を務めるなんて……

 先日言っていた縁というのは、これのことか。


 セルだけではなくて、他にも十名弱の冒険者らしき人が見えた。

 皆、試験官なのだろう。


 その中で、セルが代表して挨拶をするなんて……

 思っていたよりも、ギルド内での立場は高いのだろうか?


「ほー、セルって偉いんやなあ」


 同じことを考えていたらしく、ティナが小さな声で言う。

 続けて、ニーナが小首を傾げる。


「でも……アクスが、いない……ね。どうしたの、かな?」

「そういや、そうやな。あの二人、いつも一緒なのに……」

「ケンカ……した、とか?」

「せやなー。あるいは、ついにアクスが振られたとか?」


 かわいそうだから、そういう想像はやめてあげて。


 でも……

 二人の言う通り、確かに謎だ。

 アクスがセルの傍を離れるとは思えない。

 それに同じパーティーならば、立ち位置も同じだと思うのだけど……


「あなた達は、無数の試験に挑み、その全てをクリアーした時、Aランクの称号を得られるわ。試験の内容はその度教えるわ。いくつクリアーすればいいのか? それは秘密。だから、ペース配分を間違えないように気をつけて」


 ゴールがわからないというのは、なかなかに厄介だ。

 セルの言う通り、ペース配分も大事になるけれど……

 それ以上に、強い心を持つことが要求される。

 いつ終わるかわからない耐久レースを強いられるというのは、精神的疲労が激しいからな。

 途中で心が折れてしまう人も出てくるだろう。


「それじゃあ、さっそく一つ目の試験を行いたいのだけど……その前に、特別ゲストを紹介するわ」


 特別ゲスト?

 もしかして、この前、屋台のおっちゃんが言っていた……


「知らない人はいないと思うけど……勇者アリオスよ」

「……やっぱりか」


 セルの挨拶で、奥に設置されているテントからアリオスが姿を見せた。

 嫌な予感が的中だ。

 さらに、アッガス、リーン、ミナが続いて……


「うん?」


 最後に知らない女性が現れた。

 騎士のような格好をしているが、誰だろう?


「今回は特別に、勇者……様達も審査に加わってもらうことになったわ。審査の基準が厳しくなるということはないけれど、気を引き締めてちょうだい」

「やあ。今、紹介に預かったアリオスだ。勇者といった方がわかりやすいかもしれないな。今回はちょっとした縁があって、仲間達と一緒にここの試験官を務めることになった。皆の健闘を期待しているよ。よろしく頼む」


 アリオスはさわやかな笑みを浮かべて挨拶をして……

 その姿を見た他の冒険者達は、おおおぉ、と声を震わせた。


 誰もが憧れる勇者に激励してもらえるなんて。

 勇者に試験官を務めてもらえるなんて。

 なんて幸運なのだろう。

 この試験、落ちるわけにはいかない。

 活躍して、勇者に良いところを見せなければ。


 ……そんな感じで、皆、奮い立っていた。


「にゃうー……偉そうでむかつく。というか、なんでアイツ、自然な顔してあんなところにいるの? 怒られたんじゃないの?」

「そのはずだけど……」


 サーリャさまとの話の中で……イリスの一件でアリオスは王城へ呼び出されて、その問題行動を咎められたと聞いている。

 罰を受けたとも聞いている。


 ただ、どんな罰なのか聞いていないし、勇者の資格が剥奪されたということも聞いていない。

 勇者という立場故に、王でも咎めることはできなかった、ということなのか?

 それとも、罰を与えたことでアリオスが改心した?


「そんなわけないよ」


 カナデがまっさきに否定した。

 他のみんなも同意する。


「試験官を務めることが罰なのかもしれないな」

「にゃん? どういうこと?」

「軽度の犯罪者は、社会奉仕……ボランティア活動などを命令されることがあるんだ。そんな感じで、アリオスも色々な仕事を命令されているのかもしれない。よく見ると、知らない人が一人、加わっているし……監視役という感じかな?」

「それはそれで、イヤだね……」

「あたし、すっごいやる気なくしたんだけど……」

「帰ってもいいですか?」

「というか、魔法で吹き飛ばしていいか? なのだ」


 みんな、やる気をなくしていた。

 まあ、仕方ない。

 アリオスに激励されても逆効果だ。

 やる気なんて出てくるわけがない。


「あ、そーゆーことか」


 考えるような仕草をとり……ややあって、ティナが納得顔で手の平をぽんと打つ。


「どうしたんだ?」

「いやな。アクスがいない理由を考えてみたんやけど……あの勇者が出てくるなら、納得かなー、って」

「うん?」

「アクスって、良くも悪くも真っ正直なヤツやろ? 以前、あんなことがあったから、同じ舞台に立ちたくないんやろ。その点、セルは大人やからな。色々と思うところはあるかもしれんけど、我慢してる、っちゅーところやな」

「なるほど」


 的確な説明だった。

 たぶん、ティナの言うように、アリオスを嫌うアクスは一緒に舞台に立ちたくなくて、一時的に席を外しているのだろう。


 気持ちはわかる。

 あんなことがあった後だし……

 一緒にいたら、アクスのことだから、殴ってしまうかもしれない。


「ふふんっ」


 ふと、アリオスがこちらを見た。

 挑発的な笑みを浮かべている。


「ねえねえ、レイン。アイツ、きっとまたなにか企んでいるよ?」

「今のうちに潰しておく?」


 ついつい、賛成と言いそうになってしまう。


「ダメですよ。そんなことをしたら、ソラ達が悪者になってしまいます」

「我らは勇者の悪行を知っているが、ここにいる者達は何も知らないだろうな。まだヤツの悪行よりも勇者の名声の方が上、というわけなのだ」

「勇者に手を出せば、どうなるか。下手しなくても、ソラ達は失格ですね」

「それだけで済めばいいが。最悪、ここにいる全員を相手にすることになるぞ」

「や、やだなあ。本気で言ってるわけじゃないよ」

「冗談よ、冗談」


 たぶん、カナデとタニアの二人は本気だったと思う。


「なにかしてくる、っていう可能性は拭えないが……だからといって、ここで試験を降りるわけにもいかない。十分に気をつけていこう」

「うん、わかったよ!」

「がんばりましょう」


 アリオスがなにか企んでいる可能性は高い。

 こんなところで遭遇するなんて、あまりにできすぎているからな。


 それでも、ここで逃げるわけにはいかないし……

 小細工をしかけてきたとしても、真正面から打ち破るのみだ。


「それじゃあ、試験を開始するわ」


 挨拶を終えたアリオスは奥へ移動して……

 代わりに、再びセルが前に立つ。


 いよいよだ。

 どのような試験が待っているのか?

 緊張と、わずかに楽しみを覚えた。

 意外だけど、けっこう余裕があった。


 やっぱり、みんなが一緒にいるからかな?

 これが一人で受けるタイプの試験だとしたら、不安でいっぱいだったかもしれない。


 うん、大丈夫だ。

 みんなと一緒なら、どんなことでも乗り越えられる。

 今回の試験も、きっちり合格してみせよう。


「最初の試験は……マラソンよ」

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― 新着の感想 ―
[一言]アクスは姿を消して監視かな?
[一言] 試験官、アクスだと思った。
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