222話 宴
「レイン……シュラウド? シュラウド、と言ったのか?」
「はい、そうですが……?」
王は驚いているらしく、動揺の感情が面に出ていた。
どうして、そんな顔をしているのだろう?
「お父さま?」
「うむ……いや、なんでもない」
サーリャさまの不思議そうな視線を受けて、王は静かな表情を取り戻した。
「では、今宵は娘の恩人のために、料理人達にがんばってもらうことにしよう。サーリャよ。シュラウド達を客間へ。お前も、色々と話したいことがあるだろう?」
「はい。ありがとうございます、お父さま。さあ、レインさん、こちらへ」
「あ、ああ……」
じっと王が見つめてくるのが気になったものの……
今度は、どんな問いかけをしても答えてくれなさそうだ。
今は話をしても仕方ないと思い、一礼して、謁見の間を後にした。
――――――――――
夜。
俺達のために宴が開かれた。
王はささやかなものと言っていたが……
テーブルの上には、見たこともない豪華な料理がずらりと並べられていた。
さらに芳醇な香りがするワインに、季節の果物。
さらにケーキや焼き菓子などのデザートも用意されていて、いたれりつくせりだった。
これでささやかというのだから、本気を出した宴というものはどんなものなのだろうか?
「はぐはぐはぐっ! あむっ! んく……んんんっ……ぱくっ、ぱくぱくぱく!!!」
「あむあむあむっ、はむっ、はむっ、あむぅ……んむっ、ごくんっ! ぱくりっ!!!」
カナデとルナが勢いよく料理を食べていた。
これでもか、というくらい全力で食べていた。
王室の料理にすっかり心を奪われてしまったらしく、その目にはハートマークさえ浮かんでいた。
「にゃあ~♪ どれもこれもおいしくて、幸せだよぉ♪」
「たくさん食いだめしておかないといけないのだ! あと、お持ち帰りできないか聞いてみないといけないのだ!」
「ルナ、浅ましいですよ」
ソラにたしなめられるけれど、ルナの手は止まらない。
むしろ、加速していく。
「こんな料理を食べられる機会なんて、もうないかもしれないのだ。ならば、今のうちにできるかぎり食べないといけないのだ」
「やれやれ……」
呆れた様子を見せながらも、ソラも皿いっぱいに料理を盛っていた。
食べるペースこそゆっくりだけど、その食欲は果てしない。
そんな食いしん坊達を見て、タニアが呆れるような顔をしながら、肉を食べる。
「もうちょっと落ち着いて食べればいいのに……もぐもぐ。あっ、ニーナ。ソースがついているわよ」
「ふぇ? ん……とれた?」
「まだやで。ウチがとるから、じっとしとき」
ティナの小さな体がふわりと浮いて、ニーナの口元についたソースを拭き取る。
今は夜だし、ここは屋内なので、ティナは霊体として活動できるのだけど……
王城を幽霊がうろつくという絵柄はあまりよろしくないので、人形の体を使ってもらうことにした。
「ほい、とれたで」
「ん……ありがと」
「ニーナはかわいいんだから、ソースをつけるとか、カナデみたいな真似をしたらダメよ」
「はわわ……わたし、かわいくなんて……ないよ?」
「もう、この子は変なところで遠慮するんだから」
「ニーナはかわいいでー。ついつい、なでなでしたくなるかわいさや」
「あわわ」
褒められることに慣れていないニーナは、顔を赤くして照れていた。
そんな仕草もかわいいものだから、さらに褒められて……
よくわからない循環が完成していた。
「……」
みんなの様子を眺めながら、俺はゆっくりと料理を食べていた。
ひょんなことから王女さまと知り合いになり、王と顔を合わせることになった。
人生、なにが起きるかわからないものだなあ。
「レインさん」
声をかけられて振り返ると、サーリャさまの姿が。
華やかなドレスを身にまとい、キラキラと輝いているかのようだ。
着るもの一つで、これほど印象が変わるものなのか。
「楽しんでいただけていますか?」
「ええ、十分すぎるくらいに。みんなも、良い息抜きになっているみたいですし……ありがとうございます」
「いえ。少しでも恩を返すことができたのなら、うれしいです」
旅の間の出来事を思い返すように、サーリャさまは胸に手を当てて言う。
「レインさんのおかげで、無事、目的を果たすことができました。改めて、お礼を言わせてください」
「その目的っていうのは、あの騎士達を捕まえることですよね?」
「はい、そうですね」
「……」
「どうかしましたか?」
「いえ……そんなことまでしないといけないなんて、王族というものは大変だな、と」
「ふふっ、いつもしているわけではありませんけどね。ただ、あのまま放置しておくと、深刻な問題になる可能性があったので、事前に危険を摘み取っておくことにしたのです。継承権の低い私には、それくらいしかできることはありませんから」
「やっぱり、思うところが?」
「そうですね……ないと言えばウソになりますね。この身が国のために役に立つのならば……と思いますが、聖人君子というわけでもないので、思うところはありますね。なので、レインさんが王と顔を合わせた時、ああ言ってくれてうれしかったです。半分は、ヒヤヒヤしていましたが」
「あー……すみません。わりと感情で動くタイプなので、つい」
「ふふっ、おもしろい方ですね、レインさんは」
サーリャさまがくすくすと笑う。
その顔には、俺に対する親しみの感情が浮かんでいた。
どうやら、気に入られたらしい。
周囲にいないタイプだろうから、珍しがられているのかもしれない。
「ふむ。我が娘と仲良くやっているようだな」
今度は王が現れた。
慌てて頭を下げようとしたら、手で制止される。
「よい。今宵の宴は、そなた達のために開いたものだ。それなのに気を使わせてしまっては、意味がないだろう」
「父もこう言っていることなので、レインさんも気にしないでください。今だけは、父が王であることを忘れてもいいかと」
「それはなかなかに難しい話ですが……わかりました」
相手がそう望むのなら、必要以上にかしこまることはないだろう。
……大丈夫だよな?
「サーリャはシュラウドを気に入ったのか?」
「はい。お友達になってほしいと思います」
「そんな、恐れ多い……」
「ふむ。サーリャでは足りないというか?」
「えっ!? そ、そういうつもりでは……」
「ははは、冗談だ。そう顔を青くするでない」
この人、自分の立場をわかっているのだろうか……?
冗談として受け止めることなんて、できないんだけどな。
とにかく心臓に悪い。
できることなら、ここから撤退したいのだけど……
王はじっと俺を見ていた。
なにかしら話があるみたいだ。
「サーリャ。すまないが、シュラウドと二人にしてくれないか?」
「レインさんを独り占めするつもりなのですか?」
「すまない、と言っただろう。後できちんと返す。その時に、好きなだけ話をするがいい」
「そういうことなら」
俺を抜きにして、勝手に話が進められている。
まあ、サーリャさまと話をするのは楽しいから反対するつもりはないが。
「さて……少し夜風に当たらぬか?」
王に誘われて、テラスに出た。
心地いい夜風が吹いて、髪を撫でる。
「これで、他の者に話を聞かれることはないだろう」
「内密の話ですか?」
「そうだ」
いったい、どんな話をするのだろうか?
相手が王ということもあり、思わず身構えてしまう。
「さて……まずはいくつか質問をさせてもらいたい。シュラウドよ。そなたは南大陸の出身か?」
「え? はい、そうですが」
「通称、ビーストテイマーの里の生まれか?」
「どうしてそのことを……?」
驚いていると、王は納得顔を見せた。
「やはり、か……その名前に偽りはないということか」
「どういうことですか?」
「結論から言うと、そなたには神の血が流れている。つまり……勇者を名乗る資格があるということだ」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




