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212話 タニアとデート

「レイン、こっちよ」


 少し先を歩いて、タニアが早くおいでというように手を振る。


 先日のカナデと同じように、タニアの買い物に付き合っているのだけど……

 やはりというか、今日も他のみんなはいない。

 タイミングが悪く、みんなの都合が合うことはなくて……

 まるで示し合わせたみたいだ。


 まあ、考えすぎだろう。

 そんなことをしてなんの意味があるのかわからないからな。


「ところで、今日は何を買うんだ?」

「アクセよ」

「アクセ……ああ、アクセサリーか」


 一瞬、なんのことかわからなかった。

 男っていうこともあるが、アクセサリーを手にする機会なんてなかったからな。

 あまりにも触れる機会がないものだから、存在そのものを忘れそうになっていた。


 そんなことを考えながらタニアの後を追いかけて……

 ほどなくして露店が立ち並ぶ一角にやってきた。


「色々あるわね」


 指輪、腕輪、ネックレス、イヤリング……その他諸々。

 色々な装飾品が売られている。


 装飾品だけではなくて、日用雑貨も置かれていた。

 それと書物に小物に……たくさんの商品が並んでいる。

 市場みたいだ。


「おっ、この本は」


 気になる本を見つけて手に取る。

 小さい頃に読んでいたおとぎ話だ。


「懐かしいなあ……これ、何度も読んだな。値段は……おっ、手頃だ。いいな、これ」

「ちょっと、レイン……」


 気がつけばタニアがジト目で俺を見ていた。


 そりゃそうだ。

 買い物に付き合う立場なのに、タニアを放っておいたら機嫌も悪くなる。


「ご、ごめんっ。つい……」

「もうっ。レディを放っておくなんて、男としては失格よ」

「反省しているよ……」


 本を戻して、タニアを見る。


「えっと……タニアはどんなアクセサリーを買うんだ?」

「まだ具体的には決めていないのよね。実際に見て……あと、レインの意見がほしいの」

「俺の? でも、アクセサリーとかぜんぜん詳しくないぞ」

「詳しいとか、そういうのはどうでもいいの。そ、その……レインの意見が聞きたいのよ。あたしに似合うか似合わないか、レインの感覚で意見して」

「それでいいなら手伝うよ」

「べ、別にレインの好みが気になるとか、そういうわけじゃないんだからねっ!? ただ、周りにちゃんとした男はレインしかいないから……それで、レインの意見が聞きたいだけなのよ! た、他意はないんだからっ」

「ああ、わかっているよ」

「……素直に納得されると、それはそれでモヤモヤするわね。この鈍感テイマー」


 よくわからない称号が、また一つ増えた。


「とにかく! レインの意見を聞かせてちょうだい。どんなアクセサリーがいいと思う?」

「うーん、そうだな……」


 タニアのアクセサリーを選ばないといけないなんて責任重大だ。

 変なものを選んだら、タニアが傷ついてしまうかもしれないし……

 気に入ってもらえるようなものを選びたい。


 がんばって選ぼう!




――――――――――




「うーん」


 レインは真剣な顔でアクセサリーを選んでいた。

 戦いの時みたいに真面目な顔をしていて、そこまで本気にならなくていいのに、とついつい声をかけてしまいそうになる。


 でも、まあ……


「……これはこれでうれしいわよね」


 好きな人があたしのために、真剣にアクセサリーを選んでくれる。

 素敵なシチュエーションだ。

 恋する乙女としては、胸がドキドキしてしまう。


 ……先日、カナデがレインとデートした時も、あの子はこんな気持ちだったのかしら?

 落ち着かなくて、何度も何度もレインの顔を見て……

 恥ずかしくなって目を逸らして、でも、すぐに視線を元に戻してしまう。


 そんなよくわからない行動を繰り返してしまう。

 説明なんてできない。

 それが『恋』っていうものだと思うから。


 って……あたし、ものすごい恥ずかしいことを考えているわね……

 こんなことを考えていることがレインに知られたら、あたし、死んじゃうかも。


「タニア」

「ひゃあああああっ!!!?」


 不意に声をかけられて、おもいきり声がひっくり返ってしまう。


「どうしたんだ?」

「な、なんでもないわよ!? ええ、なんでもないわっ」

「どう見てもなんでもあるように見えるんだが……えっと……大丈夫か?」

「大丈夫! ぜんぜん平気よ! それよりも、どうかしたの?」


 強引に話を逸らした。

 この話を続けたくないと察してくれたらしく、レインは話を元に戻す。


「タニアに似合いそうなものを選んでみたんだけど……これなんてどうだ?」


 レインが差し出したのは、ルビーのイヤリングだった。

 紅い宝石が輝いていて、透き通るような透明感があった。


「綺麗……」

「気に入ってくれたみたいだな。よかった」

「でも、これ高そうね……? 値段は……えっ、こんなに安いの!?」


 ルビーのイヤリングは、銀貨30枚だった。

 金貨1枚くらいはするかと思っていたけど、そんなことはなかった。


「どうする?」

「そうね、うーん……よしっ、これに決めたわ!」

「了解」

「え? え?」


 レインは柔らかい表情を見せると、露店の店主にお金を渡してイヤリングを購入した。

 今日は、あたしも財布を持ってきている。

 お金もそれなりにある。

 なのに、どうして……?


 あたしの疑問を察したらしく、レインはちょっと照れたように言う。


「こういう時は男がプレゼントするものだろう?」

「……レイン……」

「まあ、えっと……たまには格好つけさせてくれ。日頃のお礼と感謝、ということでさ」

「ありがとう」


 あたしはにっこりと笑い、イヤリングを受け取る。

 そして、さっそく身につけてみた。


「えっと……どう、かしら?」

「似合っているよ。すごく綺麗だ」


 とてもシンプルな褒め言葉だけど……

 でも、それがレインらしいと思えて、とてもうれしかった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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