200話 VSドラゴン
ティナの考えた作戦は、わりとシンプルなものだった。
ターゲットのドラゴンは人を襲う。
なら、普通の人に化けて誘い出せばいい。
まずは、ソラの魔法でカナデの猫耳と尻尾を消してしまう。
さらに、別の人に見える魔法をかけた。
さらにさらに念のために、ルナの魔法でカナデの力というか、気配を感知できないようにする。
こうして『普通の人』になったカナデは、一人で山を歩いて……
俺達は少し離れたところで、その様子を見ていた。
そして……
見事にティナの作戦がハマり、ドラゴンが現れた、というわけだ。
「タニアを騙るニセモノは、おしおきだよっ!」
カナデはドラゴンの前足を力任せに振り払う。
力に特化した猫霊族でなければ、とてもじゃないけれど真似できない芸当だ。
それから、ジャンプ。
ドラゴンの顔面をおもいきり蹴りつけた。
「グルァッ!?」
強烈な一撃に、ドラゴンは悲鳴をあげた。
いくら頑丈な鱗に覆われていたとしても、猫霊族の力を打ち消すことはできない。
衝撃が内部に伝わり、着実なダメージを与えた。
「いくぞっ!」
近くで様子を見守っていた俺達も突撃した。
「「ドラグーンハウリング!!」」
ソラとルナが同時に魔法を唱えた。
衝撃波が放たれて、ドラゴンを飲み込む。
精霊族の二人による上位魔法だ。
普通なら、この一撃で終わりなのだけど……
「グゥウウウ……舐めるなあああっ!!!」
敵も最強種なので、簡単に終わり、というわけにはいかない。
ダメージを受けた様子を見せながらも、まだまだ倒れてくれない。
威嚇をするように巨大な翼を広げて……
刃物のような牙が並んだ口を開いて、火球を連続で打ち出してきた。
「ふふーんっ、甘いで!」
ティナは棒のようなものを取り出して、それを魔力で覆う。
そして、迫り来る火球の前に立ち……
「かっとべやーーーっ!」
なんと、火球を打ち返した!
さすがに、この展開は予想外だったらしく、ドラゴンは動揺して、打ち返された火球をまともに食らう。
とはいえ、自分の攻撃でやられる、という間抜けな展開はないらしい。
ニ、三歩よろめいたけれど、それだけだ。
「俺も負けてられないな!」
ナルカミからワイヤーを射出して、ドラゴンの首に絡ませた。
それを確認したところで、ワイヤーを絡ませたまま、今度は巻き取る。
ワイヤーが巻き取られて、それに引きずられる形で、体がふわりと浮いた。
そのまま跳躍。
ドラゴンの背に降り立つ。
「くっ、どけえええっ!!!」
「イヤだね」
せっかくのチャンス。
この機会を逃すほど、バカじゃない。
ドラゴンは俺を振り落とそうと暴れまわるけれど……
俺とドラゴンはナルカミのワイヤーで繋がれているため、落ちることはない。
暴れるドラゴンの上で体勢を整えながら、カムイを振り下ろした。
ギィンッ!
鋼鉄のような鱗に阻まれてナイフが届かない。
みんなの力を借りないと、カムイはちょっと高性能な短剣に過ぎないからな。
これでダメージを与えることは難しそうだ。
「なら、これでどうだ!? ファイアーボール・マルチショット!」
翼を狙い、複数の火球を撃ち出した。
炎がドラゴンの翼を焼いた。
ドラゴンは悲鳴を上げて、今まで以上に激しく暴れまわる。
ナルカミのワイヤーが限界に達して、ぷつりと切れた。
振り落とされる前に、慌てて跳んで、避難した。
「貴様ら……もう許さんぞっ!!!」
ドラゴンが血走った目で睨みつけてきた。
どうやら、本気にさせてしまったらしい。
タニアの無実を証明するために、こいつには自白をさせないといけない。
なので、倒すわけにはいかないんだよな。
そのため、自然と手加減することになり……
なかなか難しい戦いを強いられてしまう。
「これで消し飛ぶがいいっ!!!」
ドラゴンが大きく口を開いた。
光の粒子が収束されて……
「って、まずい!?」
慌てて逃げようとするが、
「遅いっ! これでも喰らえっ!!!」
必殺のドラゴンブレスが放たれた。
逃げる間はない。
なら、迎撃するか?
カナデと一緒なら……
と……そこまで考えたところで、小さな影が前に出た。
ニーナだ。
ニーナは凛とした表情で、迫り来るドラゴンブレスと対峙した。
そして……
「んっ!」
ニーナが宙を撫でるような仕草をした。
すると、空間に割れ目ができて、亜空間に繋がる道が完成する。
ドラゴンブレスはその中に吸い込まれて……
そのまま俺達に危害を加えることなく、消滅した。
「き、貴様……今、なにをした!?」
「亜空間に……あなたのブレスを、ぽいって、したの……」
「ば、バカな!? 我の必殺の一撃を、そのようなことで防ぐなんて……!?」
ドラゴンは動揺していた。
俺も動揺していた。
ニーナ……いつの間に、あんな技を身に着けて……?
まさか、先日、落とし物の指輪を探す時に見せた技術の応用か?
敵の攻撃を、問答無用で亜空間に放り込むなんて……
ある意味で最強じゃないか?
「ライトニング・ストライク! テンペスト・ストライク!」
この隙を逃すつもりはないと、ソラが二つの魔法を同時に唱えた。
雷と嵐が同時に吹き荒れて、ドラゴンの巨体を覆う。
「そしてここに、フリーズ・ストライク! なのだっ」
間髪入れず、ルナも魔法を放つ。
双子の姉妹ならではのコンビネーションだ。
魔力で強化されているらしく、巨大な氷の檻がドラゴンを包み込んだ。
ドラゴンは暴れて檻を破壊するが、次から次に氷が湧き出してくる。
逃げることは叶わず、氷の檻に囚われてしまう。
「レインっ」
「ああ!」
カナデがこちらを見て、なにを求めているのか理解した。
俺は、即座に実行に移す。
「ブースト!」
魔法を使い、カナデの身体能力を引き上げた。
「にゃんっ!」
カナデは空高くジャンプ。
くるくると回転しながら落下して……
「これで……終わりいいいいいっ!!!」
落下速度と回転速度を乗せた一撃を、ドラゴンの額に叩き込んだ。
「……」
ドラゴンは悲鳴をあげることもできない様子で、ぐらりとよろめいて……
そのまま倒れた。
額から血を流しているが、ちゃんと生きている。
ただ気絶しているだけみたいで、手足をピクピクと動かしていた。
「私達の勝ち! びくとりー!!!」
カナデがにっこりと笑い、勝利のポーズを決めるのだった。
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