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199話 罠

 翌朝。

 たっぷりと休んだことで、昨日の疲れは消えていた。

 みんなの顔色もよく、疲労が残っている様子はない。


「それじゃあ、さっそくドラゴンを探してみるか。ソラ、ルナ。頼んだ」

「わかりました」

「我らに任せるといいのだ!」


 二人が魔法を唱えて……

 光の波が周囲に広がっていく。


 まずは、魔法でドラゴンを探してもらうことにした。

 以前、領主の館で使った、周囲の魔力反応を探るという魔法だ。

 ドラゴンがいるのならば、高出力の魔力反応があるはずなのだけど……


「むう」


 ルナが難しい顔になった。

 続いて、ソラが首を小さく横に振る。


「ダメですね。反応がありません」

「どうやら、この周囲にドラゴンはいないみたいだな」

「探知範囲はどれくらいなんだ?」

「ソラを中心に、半径300メートルというところでしょうか」


 けっこう広い。

 ただ、それ以上に山は広い。

 全域をカバーするとなると、何度も何度も魔法を使わないといけないな。


「もう一度試してみるか? 我は構わないぞ。魔力なら、まだまだたっぷりとあるからな」

「お腹を出して、ぐーすかぐーすか寝ていましたからね。あんな風に寝れば、魔力もたっぷりと補充されるでしょう」

「そそそ、そんにゃことしていないのだ!?」

「あっ、私の口癖がとられた!?」


 元気な仲間である。


「次は俺がやるよ」


 二人だけを働かせるわけにはいかない。

 それに、探索となれば俺の方が向いているだろう。


 木の枝に止まる鳥を誘い、仮契約を交わした。

 仲間を呼んでもらい、それらとも仮契約を。

 そうして、十数羽の鳥を使役して……

 ドラゴンを見つけたら知らせるように、という命令を出して、四方八方に飛ばせた。


 鳥ならば上空から探索することができる。

 小さい目標を見つけるのは難しいかもしれないが、今回は、相手はドラゴンだ。

 体が大きいから、上空からの探索でも問題はない。

 おまけに、それなりの速度で空を飛ぶことができるから、広範囲をカバーできる。


 これならば、ドラゴンを見つけることができるだろう。

 そう思っていたのだけど……


「……にゃー。なにも反応がないね」

「ないなー」


 30分後。

 カナデとティナが、待つのに飽きたという感じでつぶやいた。


「……失敗?」


 ニーナが小首を傾げながら、そう言った。

 なかなか容赦がない。


 しかし……おかしいな?

 あれだけの数の鳥がいれば、十分もあればこの山をカバーすることができるはずだ。

 鳥の飛翔速度は速いし、この山はそれほど広くないし……


 それなのに発見の報告がないのは、どういうことだ?

 あの巨体だ。

 木々の間に隠れる、なんてことは無理だろう。


 巨大な洞窟に隠れているという可能性もあるが……

 その場合でも、周囲になにかしらの痕跡が残る。

 例えば、木々がなぎ倒されていたりとか、地面に足跡がついていたりとか。

 それすらも見つからないということは……


「……あっ」


 とある可能性を失念していたことに気がついて、思わず声をあげた。


「にゃん? どうしたの?」

「よくよく考えたら、思い違いをしてたのかもしれないな」

「思い違い?」

「相手はドラゴンだろ? タニアと同じ竜族だろ?」

「うん、そうだね」

「なら、タニアと同じように、人型になれてもおかしくないわけだ」

「……あっ」


 俺の言いたいことを理解したらしく、カナデが声をあげた。


 つまり……

 俺達はドラゴンを探していたのだけど、相手がいつまでもその姿でいるとは限らないわけだ。

 人の姿をとっていてもおかしくない。

 その場合、鳥を使役して空から探すという方法は無駄になる。

 ゼロとは言わないが、見つける可能性は限りなく低くなるだろう。


 まいった。

 初見でドラゴン形態を見ていたせいで、その印象が強く、いつもその姿でいるものだと思っていた。

 普段は、タニアのように人に変身しているという可能性もあるんだよな。

 あるいは、追手から隠れるために、人に変身して身を隠しているという可能性もある。


 どちらにしても、鳥を使って探すことは難しい。

 俺は鳥との仮契約を解除した。


「ふむ。そうなると、我らの魔法が頼りということになるか?」

「人に変身していたとしても、その魔力までは隠すことはできませんからね。ソラ達の魔法ならば、ドラゴンを確実に捉えることができるでしょう」

「ただ、範囲が広すぎるんだよなあ……」


 それほど大きくない山とはいえ、それでも、踏破するとなるとそれなりの時間がかかってしまう。

 ソラとルナに魔法を使ってもらい、しらみつぶしに探すとしても、非効率的だ。


 それに、相手がじっとしているとは限らない。

 常に移動している可能性もあるわけで……

 行き違いになれば、見つけられる可能性はさらに下がってしまう。


「なにかいい手はないかな?」

「ほいっ」


 ニーナの頭の上で、ティナが挙手をした。


 ……人形に宿るようになってからも、ニーナの頭の上にいることが多いよな。

 お気に入りなんだろうか?


「そういうことなら、ウチに考えがあるで」

「聞かせてもらえるか?」

「そういう時は、罠をしかければええんや!」




――――――――――




「……」


 北の山を、一人の女が歩いていた。

 背中に荷物を背負い、少しだけ荒れている道をゆっくりと進んでいく。


 目的地は、山を越えた先にある街だろうか?

 息を切らして、時折、休憩のために足を止めて……

 一歩一歩、山を踏破していく。


 他の誰かがいれば、彼女を見て、女の一人旅は危険だと言うかもしれない。

 盗賊に襲われることもあるし、魔物と出会うこともある。


 ただ……


 この山には、今、盗賊や魔物よりも、よほど危険な存在がいた。


「グルゥアアアアアッ!!!」

「っ!?」


 さきほどまでなにもなかったはずなのに……

 突然、どこからともなくドラゴンが飛来した。

 巨大な翼をはばたかせながら、女の前に降り立つ。


「ど、ドラゴンっ!?」

「……愚かな人間よ、我らのために死んでもらう。恨むなら、このようなところを一人で出歩く自分を恨むのだな!」


 ドラゴンは咆哮をあげながら、巨大な前足を振り上げた。

 そのまま、勢いよく女に叩きつける。

 逆らうことは許されず、女の体は潰されてしまう。


 ……ということにはならなかった。


「なにっ!?」


 ドラゴンが驚愕の声をあげた。

 それもそのはずだ。

 女は、細い腕でドラゴンの一撃を受け止めていたのだから。


「バカな!? 我の一撃がこのような人間に……貴様、何者だ!?」


 女がニヤリと笑う。


「ふふーん。私が何者か、だって? 答えは……猫霊族だよ!」


 ぼふんっ、という音がして、女の体が煙に包まれた。


 ややあって、煙が晴れて……

 カナデが現れた。

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