表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/1164

192話 ニーナの冒険

 ……それは、ニーナと一緒に買物に出た時のことだった。


「ニーナ、大丈夫か? 重くないか?」


 俺の隣を歩くニーナは、両手で買い物袋を抱えている。

 自分も手伝いたいと言って聞かず、小さな方の買い物袋を渡したのだ。

 それでも、体の小さいニーナにとっては大きく、視界がふさがれるほどなのだけど……


「ん……大丈夫、だよ。これくらい……平気」


 ニーナは笑顔を見せて、なんてことないということをアピールした。


「そっか。辛くなったら、いつでも言っていいからな」

「ん……あり、がと」


 二人で並んで歩いて、帰路を辿っていると……


「なあ、頼むよ!」

「ギルドは託児所じゃないんだ、帰れ」


 冒険者ギルドの前を通りかかると、なにやら少年とギルドの職員が揉めていた。

 気になり、声をかける。


「どうしたんだ?」

「あっ……これは、シュラウドさん」


 知らない顔だ。

 まあ、ギルドで働いているのはナタリーさんだけじゃなくて、他にもたくさんいるから、知らない顔がいるのも当たり前か。

 ただ、向こうは俺のことを知っているらしく、柔らかい表情を向けてきた。


「こんにちは。買い物の途中ですか?」

「途中というか、帰るところなんだ。それよりも、この騒ぎは?」

「不正だよ! ギルドが俺の依頼を受けてくれないんだっ」


 ここぞとばかりに少年が声を大きくした。


「受けてくれない、って……」

「ち、違いますよ!? 俺らはやましいことなんてしてませんからね!?」


 疑惑の目を向けると、ギルドの職員は慌てた様子で言った。


「この坊主が無茶なことを言うんですよ。落とし物をしたから探してほしい、って」

「まあ……小さい依頼だけど、拒む理由にはならないんじゃないか? ギルドの基本方針は、人のため世のため。犯罪行為などでなければ、引き受けるものだろう?」

「それはそうなんですけどね……依頼料が少なすぎるんですよ。銅貨1枚じゃあ、さすがに……」


 なるほど、と理解した。

 少年にとっては精一杯の金なのだろうけど……報酬が銅貨一枚では、誰も引き受けてくれないだろう。

 そんな依頼をギルドで扱うこともできず、やむをえず断った……というところだろうか。


「悪いな、坊主。そういうわけで、ウチで扱うことはできないんだ。じゃあな」


 小さな子供の必死の依頼を断っているという罪悪感はあるらしく、ギルドの職員は逃げるように建物の中へ戻った。

 残された少年はがっくりと肩を落として、悔しそうに、銅貨一枚を握りしめていた。


「……ねえ、レイン」


 ふと、ニーナが俺の服を引っ張る。


「あの、ね……わたし……あの子の依頼を請けてあげたい、な」


 驚いた。

 まさか、ニーナがそんなことを言い出すなんて。


「どうしてだ?」

「だって……あの子、困っている……から。わたしも、レインに助けられた、から……困っている人の力に、なりたいな……」

「そっか……うん。ニーナがそう言うのなら、俺は反対しないよ」

「ありがとう」


 ニーナは、うれしそうに笑う。

 ちょっと寄り道になってしまうけど……まあ、これくらいなら問題ないか。

 それよりも、ニーナが自分からこういうことを言い出したことがうれしい。


「ちょっと……いい?」

「……なんだよ」

「わたし達が……依頼を受けるよ?」

「えっ、ホントか!?」


 ニーナが声をかけると、少年は飛び上がるような勢いでこちらを見た。


「でも、あいつが言ってたように、銅貨一枚しか払えないけど……それでもいいのか?」

「ん……わたし達に任せて」

「やった! すっげー助かるよ、サンキュー、姉ちゃん!」

「姉ちゃん……ふふん」


 姉ちゃんと呼ばれて、少し誇らしげにするニーナだった。




――――――――――




 少年が落としたものは、母親の誕生日に贈ろうと思っていた指輪らしい。

 指輪といっても、店で売っているようなものではなくて、自分で作ったお手製のものだという。

 細工師のところに通い、必死に頼み込んで技術を教わり……今朝、なんとか完成にこぎつけたらしい。


 しかし、そこで気が緩んでしまったらしく、途中で完成した指輪を落としてしまい……というのが、今までの経緯らしい。

 心当たりは全て探したけれど、まるで見つからない。

 他の人が拾ったのか、それとも、予想外のところでなくしたしまったのか……


「その指輪は、どんな形をしていたんだ?」

「シンプルなヤツだよ。大きさはこれくらいで、特に飾りはないかな。あっ、ただ、綺麗な石をはめ込んでいるんだ」


 指輪のことを尋ねると、少年は身振り手振りで説明してくれた。

 なんの飾りもないシンプルな指輪なら、探すのは難しかっただろうが……綺麗な石が飾りに使われているのなら、多少はやりやすい。


 俺は集中して、近くにいる動物を……


「レイン」

「うん?」


 ニーナに声をかけられて振り返ると、荷物を渡された。


「わたしが……探して、みるよ」

「ニーナが? できるのか?」

「ん……がんばって、みる。いつも、レインにばかり……甘えて、いられないから」


 ニーナがこんなことを言うようになるなんて……

 成長しているんだなあ……と、なんだか感慨深くなってしまう。


「ちょっと、待っててね……」


 ニーナは少年にそう言って、目を閉じて集中した。


 ニーナが指輪を探すと言ったものの、いったいどうするつもりなのだろう?

 なにか能力を使うのだろうか?

 でも、物探しに向いている能力なんて、ニーナは持っていたっけ?


「ん……見えた」


 ニーナは小さくつぶやいて……


「よい、しょ」


 空間が揺らぎ、そこに手を入れる。

 亜空間収納だ。

 亜空間にある程度の物をしまうことができるのだけど……どうして、今ここで?


 疑問に思っていると、ニーナは中をごそごそと探るような動きをして……

 やがて、すぽんと手を引き抜いた。

 その手には……


「あっ、俺が作った指輪!」

「はい……見つけた、よ」


 ニーナが少年に指輪を渡した。


「すっげー、今のどうやったの!?」

「えっと……亜空間の中は、色々なところにつながっているから……そこを通じて、ものを探すこともできて……それから、空間と空間を、繋げて……」

「えっと??? よくわからねーけど、姉ちゃん、すごいんだな!」

「えへへ」


 少年に褒められて、ニーナはうれしそうに尻尾をぴょこぴょこさせた。


「ありがとう、姉ちゃん! ホント助かったよ」

「もう、なくしたら……ダメ、だよ?」

「うんっ。本当にありがとうな!」


 いっぱいの笑顔を浮かべた少年は、何度も何度も手を振りながら立ち去っていった。


「ん」


 ニーナがこちらに手を伸ばす。

 えっと?

 ……ああ、買い物袋のことか。


 受け取っていた買い物袋をニーナに戻した。


「おうち、帰ろ?」

「そうだな。でも、その前に……」


 ニーナの頭をぽんぽんと撫でる。


「ふわ……レイン?」

「あの子のためにがんばるニーナは、すごくかっこよかったぞ」

「わたし……かっこいい?」

「ああ、すごくかっこよかった」

「えへへ……レインにそう言ってもらえると、すごくうれしいの……胸がぽかぽかするの」


 ニーナはにっこりと笑い、ほんのりと頬を染めるのだった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[気になる点] >他の人が拾ったのか、それとも、予想外のところでなくしたしまったのか… なくしてしまった、かなぁ(´・ω・`) [一言] ニーナちゃんカワイイ٩( 'ω' )وヤッター
[良い点] ほのぼの回だけど何気にニーナの能力の凄さが伝わる
[良い点] この話しの外伝が、あのもう1つのニーナの買い物編になるんですかね〜。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ