192話 ニーナの冒険
……それは、ニーナと一緒に買物に出た時のことだった。
「ニーナ、大丈夫か? 重くないか?」
俺の隣を歩くニーナは、両手で買い物袋を抱えている。
自分も手伝いたいと言って聞かず、小さな方の買い物袋を渡したのだ。
それでも、体の小さいニーナにとっては大きく、視界がふさがれるほどなのだけど……
「ん……大丈夫、だよ。これくらい……平気」
ニーナは笑顔を見せて、なんてことないということをアピールした。
「そっか。辛くなったら、いつでも言っていいからな」
「ん……あり、がと」
二人で並んで歩いて、帰路を辿っていると……
「なあ、頼むよ!」
「ギルドは託児所じゃないんだ、帰れ」
冒険者ギルドの前を通りかかると、なにやら少年とギルドの職員が揉めていた。
気になり、声をかける。
「どうしたんだ?」
「あっ……これは、シュラウドさん」
知らない顔だ。
まあ、ギルドで働いているのはナタリーさんだけじゃなくて、他にもたくさんいるから、知らない顔がいるのも当たり前か。
ただ、向こうは俺のことを知っているらしく、柔らかい表情を向けてきた。
「こんにちは。買い物の途中ですか?」
「途中というか、帰るところなんだ。それよりも、この騒ぎは?」
「不正だよ! ギルドが俺の依頼を受けてくれないんだっ」
ここぞとばかりに少年が声を大きくした。
「受けてくれない、って……」
「ち、違いますよ!? 俺らはやましいことなんてしてませんからね!?」
疑惑の目を向けると、ギルドの職員は慌てた様子で言った。
「この坊主が無茶なことを言うんですよ。落とし物をしたから探してほしい、って」
「まあ……小さい依頼だけど、拒む理由にはならないんじゃないか? ギルドの基本方針は、人のため世のため。犯罪行為などでなければ、引き受けるものだろう?」
「それはそうなんですけどね……依頼料が少なすぎるんですよ。銅貨1枚じゃあ、さすがに……」
なるほど、と理解した。
少年にとっては精一杯の金なのだろうけど……報酬が銅貨一枚では、誰も引き受けてくれないだろう。
そんな依頼をギルドで扱うこともできず、やむをえず断った……というところだろうか。
「悪いな、坊主。そういうわけで、ウチで扱うことはできないんだ。じゃあな」
小さな子供の必死の依頼を断っているという罪悪感はあるらしく、ギルドの職員は逃げるように建物の中へ戻った。
残された少年はがっくりと肩を落として、悔しそうに、銅貨一枚を握りしめていた。
「……ねえ、レイン」
ふと、ニーナが俺の服を引っ張る。
「あの、ね……わたし……あの子の依頼を請けてあげたい、な」
驚いた。
まさか、ニーナがそんなことを言い出すなんて。
「どうしてだ?」
「だって……あの子、困っている……から。わたしも、レインに助けられた、から……困っている人の力に、なりたいな……」
「そっか……うん。ニーナがそう言うのなら、俺は反対しないよ」
「ありがとう」
ニーナは、うれしそうに笑う。
ちょっと寄り道になってしまうけど……まあ、これくらいなら問題ないか。
それよりも、ニーナが自分からこういうことを言い出したことがうれしい。
「ちょっと……いい?」
「……なんだよ」
「わたし達が……依頼を受けるよ?」
「えっ、ホントか!?」
ニーナが声をかけると、少年は飛び上がるような勢いでこちらを見た。
「でも、あいつが言ってたように、銅貨一枚しか払えないけど……それでもいいのか?」
「ん……わたし達に任せて」
「やった! すっげー助かるよ、サンキュー、姉ちゃん!」
「姉ちゃん……ふふん」
姉ちゃんと呼ばれて、少し誇らしげにするニーナだった。
――――――――――
少年が落としたものは、母親の誕生日に贈ろうと思っていた指輪らしい。
指輪といっても、店で売っているようなものではなくて、自分で作ったお手製のものだという。
細工師のところに通い、必死に頼み込んで技術を教わり……今朝、なんとか完成にこぎつけたらしい。
しかし、そこで気が緩んでしまったらしく、途中で完成した指輪を落としてしまい……というのが、今までの経緯らしい。
心当たりは全て探したけれど、まるで見つからない。
他の人が拾ったのか、それとも、予想外のところでなくしたしまったのか……
「その指輪は、どんな形をしていたんだ?」
「シンプルなヤツだよ。大きさはこれくらいで、特に飾りはないかな。あっ、ただ、綺麗な石をはめ込んでいるんだ」
指輪のことを尋ねると、少年は身振り手振りで説明してくれた。
なんの飾りもないシンプルな指輪なら、探すのは難しかっただろうが……綺麗な石が飾りに使われているのなら、多少はやりやすい。
俺は集中して、近くにいる動物を……
「レイン」
「うん?」
ニーナに声をかけられて振り返ると、荷物を渡された。
「わたしが……探して、みるよ」
「ニーナが? できるのか?」
「ん……がんばって、みる。いつも、レインにばかり……甘えて、いられないから」
ニーナがこんなことを言うようになるなんて……
成長しているんだなあ……と、なんだか感慨深くなってしまう。
「ちょっと、待っててね……」
ニーナは少年にそう言って、目を閉じて集中した。
ニーナが指輪を探すと言ったものの、いったいどうするつもりなのだろう?
なにか能力を使うのだろうか?
でも、物探しに向いている能力なんて、ニーナは持っていたっけ?
「ん……見えた」
ニーナは小さくつぶやいて……
「よい、しょ」
空間が揺らぎ、そこに手を入れる。
亜空間収納だ。
亜空間にある程度の物をしまうことができるのだけど……どうして、今ここで?
疑問に思っていると、ニーナは中をごそごそと探るような動きをして……
やがて、すぽんと手を引き抜いた。
その手には……
「あっ、俺が作った指輪!」
「はい……見つけた、よ」
ニーナが少年に指輪を渡した。
「すっげー、今のどうやったの!?」
「えっと……亜空間の中は、色々なところにつながっているから……そこを通じて、ものを探すこともできて……それから、空間と空間を、繋げて……」
「えっと??? よくわからねーけど、姉ちゃん、すごいんだな!」
「えへへ」
少年に褒められて、ニーナはうれしそうに尻尾をぴょこぴょこさせた。
「ありがとう、姉ちゃん! ホント助かったよ」
「もう、なくしたら……ダメ、だよ?」
「うんっ。本当にありがとうな!」
いっぱいの笑顔を浮かべた少年は、何度も何度も手を振りながら立ち去っていった。
「ん」
ニーナがこちらに手を伸ばす。
えっと?
……ああ、買い物袋のことか。
受け取っていた買い物袋をニーナに戻した。
「おうち、帰ろ?」
「そうだな。でも、その前に……」
ニーナの頭をぽんぽんと撫でる。
「ふわ……レイン?」
「あの子のためにがんばるニーナは、すごくかっこよかったぞ」
「わたし……かっこいい?」
「ああ、すごくかっこよかった」
「えへへ……レインにそう言ってもらえると、すごくうれしいの……胸がぽかぽかするの」
ニーナはにっこりと笑い、ほんのりと頬を染めるのだった。
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