191話 双子のケンカ
「おは……よう?」
「……」
「……」
朝……起きると、リビングにソラとルナの姿があった。
声をかけるのだけど、反応がない。
二人は互いを睨み合っている。
「ソラ? ルナ?」
「……あっ。レイン」
「おはようなのだ」
もう一度声をかけると、こちらに気がついたらしく、挨拶が返ってきた。
ただ、二人はすぐに睨み合いを再開してしまう。
これはもしかして……ケンカをしているのか?
「ソラは許しませんよ。ソラが大事にとっておいたプリンをルナが食べてしまうなんて」
「だから、そんなことしていないのだ! だいたい、それをいうならソラだって、我のはちみつサンドを食べたではないか!」
「ソラは人のものを食べるようなことはしません。というか、論点をすり替えないでください」
「すり替えていないのだ! ソラの方が悪いのだ!」
「むぅ……!」
「ぐぬぬぬっ……!」
……とりあえず、大体のことは理解した。
この二人、わかりやすいなあ。
「はい、そこまで」
二人の間に割って入る。
「傍で話を聞いていて事情は理解した。たかが食べ物のことでケンカするなんて、バカらしいと思わないか?」
「「たかがとはなんですか(なんなのだ)!!!」」
「お、おおぅ……」
二人に詰め寄られて、おもわずたじろいでしまう。
ケンカしているのに、こういう時は息ぴったりなんだなあ……さすが双子。
「えっと……」
このまま放置……っていうわけにはいかないよな。
だとしたら……
「ソラ、ルナ。ちょっと散歩に付き合ってくれないか?」
どうにかして仲直りさせるべく、二人を散歩に誘った。
一緒に行動すれば、そのうち元通りの仲良し姉妹に戻るかもしれない、と考えてのことだった。
「いいですけど……ルナと一緒ですか?」
「むぅ、ソラも一緒なのか……」
「二人と一緒がいいんだ。ダメか?」
「まあ……レインがそう言うのでしたら」
「仕方ないのだ。我慢して、付き合うことにするのだ」
了承を得られたので、二人を伴い外に出る。
家の周囲をぐるりと回る……だけじゃあ寂しいので、街の方まで足を伸ばしてみよう。
丘を下り、住宅街へ。
住宅街を抜けて、広場へ出る。
「んー……朝の空気は気持ちいいですね」
ソラが気持ちよさそうな顔をして、ぐぐっと伸びをする。
「本当なのだ。空気がきもち……いやっ、そんなことはないのだ! 今朝の空気は淀んでいるのだ! だから、ソラはおかしいのだ!」
「むっ。ルナはおかしいのではないですか? こんなにも気持ちのいい朝だというのに」
「ふんっ、ソラの方がおかしいのだ。きっと、性格と同じように感覚もねじ曲がっているのだ」
「なんですって!?」
「やるのか、なのだ!?」
「はいはい、ストップ」
少し目を離したら、すぐにケンカをしてしまう。
困ったものだ。
俺が間に立つことで、どうにかして二人を仲直りさせないと。
そう思っていたのだけど……
――――――――――
「レイン、今度はあちらの方に行ってみましょう。きっと、綺麗な景色が見れますよ」
「そんなことよりもレイン、ちょっとおやつが食べたいのだ。あっちから良い匂いがするのだ」
「まったく、ルナは食べ物のことしか考えていないのですか? あさましいですね」
「毎日、ガツガツとごはんを食べているソラには言われたくないのだ」
「なんですって!?」
「やるのか、なのだ!?」
――――――――――
「こうして散歩をするのは気持ちいいですね……まあ、余計なオマケがついているのが残念ですが」
「むっ。それは我のことか?」
「いいえ、そんなことは一言も言っていませんよ。でも、そう思うのなら、そういうことなのでは?」
「むうううっ……余計なオマケはソラの方なのだ。レインは、我と二人きりの方がいいと思っているぞ」
「そのようなことはありません。レインは、ソラと二人きりになりたいと思っているはずです」
「違うのだ! 邪魔者はソラなのだ!」
「いいえっ、ルナです!」
「なんですって!?」
「やるのか、なのだ!?」
――――――――――
「朝なので、ちょっと寒いですね……レイン、少しくっついてもいいですか? ソラは、レインの温もりがほしいです」
「あっ、ずるいのだ! 我もレインにくっつきたいぞ!」
「ふふん、早いもの勝ちです。ルナは、そこらで一人、凍えてガチガチ震えていなさい」
「そんなことは許さないのだ! ソラばっかりずるいのだ! レイン、こっちに来るのだ!」
「いいえ、レインはソラのところに来てください!」
「ぬううう、こっちなのだ!」
「いいえ、ソラの方です!」
「いたたたっ!? 左右から引っ張らないでくれ!?」
――――――――――
……こんな感じで、所構わずケンカを繰り返していた。
「ふんっ。
「ふん、なのだっ」
仲直りさせようと散歩に連れ出したのだけど、余計に悪化してしまったかもしれない。
どうしたものかな……?
「なんですって!?」
「やるのか、なのだ!?」
なんて考えているうちに、再びケンカが勃発した。
バチバチと火花を散らして、ソラとルナが睨み合う。
そんな二人を見ていると……
ちょっと腹が立ってきた。
俺が必死になって仲直りさせようとしているのに、この二人ときたら、ケンカをするばかりで……まったく。
甘やかすばかりではなくて、時には、きついお灸をすえることが必要なのかもしれない。
「はいっ、そこまで!」
「「っ!?」」
俺が大きな声を出すと、ソラとルナはびくりと体を震わせて動きを止めた。
「で……二人は今、どんな気分だ?」
「え? 気分……ですか?」
「いいから答えてくれ。今はどんな気分だ? 飽きることなく姉妹ケンカを繰り返して、楽しいか? もっともっとケンカしたいか?」
「うっ……そ、それは……」
痛いところをつかれた、というように、二人は目を伏せた。
「こんなことを続けてもしょうがない、っていうことくらい、二人もわかっているだろう?」
「でも、ルナが……」
「でも、ソラが……」
「そうやって意地張ってもいいんだけどな。こじれればこじれるほど、仲直りしづらくなるぞ? その間、ずっとケンカしたままだ。いつも一緒にいた二人なのに、いつも離れないといけなくなる。それでいいのか? まあ、本当は顔も見たくないほど嫌い、っていうのなら構わないけどな」
「そんなことないのだ!」
あえて突き放すようなことを言うと、ルナが即座に反論した。
「我は怒っているが……それでも、ソラのことを顔も見たくないほど嫌いになんて、そんなことあるわけないのだ」
「……ルナ……」
「なんだかんだで、ソラのことは嫌いじゃないぞ? 嫌いになるわけないし……その……好きなのだ」
「……ソラも、ルナのことを嫌いになるなんてありえません。双子の姉妹だから、半身のように感じていて……でも、それだけじゃなくて、なんていうか……いつも一緒にいたいと思っています。ルナのことが好きだから」
「なら、仲直りしような」
ようやく二人の本音を引き出すことができた。
ここまでくれば、もう俺は必要ない。
「……ルナ……」
「……ソラ……」
二人は互いを見つめ合い、
「「ごめんなさい!!」」
同時に頭を下げた。
……こうして、双子の姉妹のケンカは終わりを告げたのだった。
――――――――――
「ところで……結局、ソラ達の大事なおやつを食べた下手人は、誰だったのでしょうか?」
「うーん、謎なのだ……我もソラも、そんなことは知らないし……」
一つの謎を残したまま、家に帰ると……
「にゃあ♪ さっき食べたプリンとはちみつサンドおいしかったなあ……まだ残ってないかな?」
「「お前かあああっ!!!?」」
「にゃ、にゃん!?」
おやつの恨みとばかりに、ソラとルナが攻撃魔法を連打して……
カナデは手痛いおしおきをされるハメになるのだった。
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