19話 新しい依頼
タニアが仲間に加わり……
翌日。
新しい依頼を受けた俺達三人は、平原に移動した。
今回の依頼はスライムの討伐。
報酬は歩合制で、スライムを倒した数によって変動する。
スライムはFランクの魔物で、子供でも倒せるような雑魚だ。
それ故に、脅威とみなされず、放置されることが多いが……
放置されすぎて、大量繁殖してしまったらしい。
その数、百匹以上。
平原の生態系を崩す勢いで動物たちを襲い、家畜を襲い、田畑を荒らす。
時に、人間さえも襲うらしい。
さすがに無視することができず、ギルドに依頼が回ってきた、というわけだ。
「にゃー、スライムかぁ」
カナデが乗り気でない声をこぼした。
「なーに、カナデったら、スライムごときが怖いの?」
「にゃう、違うよー」
タニアが茶化すように言うと、カナデが頬を膨らませた。
「猫霊族がスライムなんかに後れを取るわけないんだからね! 私の手にかかれば、ぎったんぎたんだよ! でも……スライムって、ぶにゃぶにゃしてて、ねとねとしてるから嫌いなの……にゃう、べとべとになっちゃう」
「あぁ、そういう」
「確かに。あいつら、粘液の塊みたいな存在なのよねー。物理特化のカナデにしてみたら、イヤな相手よね」
「にゃうー……」
「まっ、安心なさい。あたしが火球やブレスでまとめて薙ぎ払ってあげるわ」
「おぉ……タニア、頼りになる!」
「ふふんっ、もっと褒めていいのよ?」
「タニアすごい! タニア最高!」
出会いが出会いだから、二人がうまくやっていけるのか心配だったんだけど……
どうやら、杞憂だったみたいだ。
タニアは素直じゃないところがあるが、根は優しい。
きちんとカナデのことを考えてくれて、今みたいに、できないことを肩代わりしようとしてくれる。
この二人、良いコンビになるかもしれないな。
「スライムー、スライムー、どこかなスライムー♪」
「あたしの炎で一網打尽~♪」
変な歌を歌いながら、スライムを探すカナデとタニア。
しかし、スライムの姿は見当たらない。
100匹を超える群れだから、隠れる場所なんてないはずだ。
とはいえ、街の外の平原も広い。
見えないどこかに潜んでいるのだろう。
「にゃあ、見当たらないねえ」
「めんどくさいから、この辺、あたしのブレスでまとめて薙ぎ払う?」
「冗談でもそういうことは言わないように」
「え、本気なんだけど?」
……後で、タニアに常識を教えないといけないな。
「そんなに無茶苦茶なことをしなくても、簡単に見つける方法があるぞ」
「やけに自信たっぷりね。いったい、どうするつもり?」
「空から捜索すればいい」
この前のような猛毒を持った鳥ではなくて、普通の野鳥を呼び寄せて、仮契約をした。
「ねぇねぇ、どうするの? そいつで捜索するの?」
「でも、どんな命令をするの? スライムを探せー、そこに連れてけー、っていうような感じなのかな?」
「それでもいいんだけど、少しめんどくさいな。道案内に動物を使うのは難しいんだよ。時々、動物が命令の意味を勘違いして、まったくの別方向に連れて行かれることがあるんだ」
「なら、どうするつもり?」
「同化する」
「は?」
こちらの言うことがわかっていない様子で、タニアが怪訝そうな顔をした。
言葉で説明するよりも、実際に見てもらった方が早い。
俺は、仮契約をした野鳥に意識を集中させて……『同化』する。
視点が『人間』から『野鳥』のものに切り替わる。
俺の視界に映るものは、カナデとタニア……それに、俺自身だ。
「あ、あれ? レインの気配が急に消えて……あれあれ? でも、レインはここにいるのに……」
「っていうか、レインの反応がおかしくない? なんか、人形みたいで……」
『それは今、俺の魂がこの野鳥の中にいるせいだな』
「「ひゃっ!?」」
二人がキョロキョロとして……
ややあって、俺……野鳥に視線が固定される。
「も、もしかして……」
「レインが鳥になった……?」
『惜しい。俺の魂の一部をこの鳥の中に移して、意識を固定化して……って、ややこしい説明は苦手なんだよな。簡単に言うと、俺の意識を鳥の中に移したんだ。今の俺の体は、この鳥、っていうわけだな』
「「は???」」
二人揃って、頭の上に疑問符が浮かんだ。
『これが、同化と呼ばれるビーストテイマーの技の一つだ』
「そんなこと聞いたことないにゃ!!!?」
「そんなこと聞いたことないんだけど!!!?」
おもいきり大きな声で言われて、思わずのけぞってしまう。
今の俺は野鳥だから、二人は大きくて迫力があるんだよな。
「動物を使役するだけじゃなくて、意識を移すなんて……え? えぇえええ? レインは無茶苦茶にゃ……そんなとんでもない芸当を、軽々とこなすなんて……にゃあ、ど、どうなっているにゃ?」
「レインって、と、とんでもないわね……ある程度は認めていたけど、でも、まさかこれほどなんて……最強種が揃って知らない技法を使うなんて、並大抵のことじゃないわよ? カナデが認めるだけのことはあるわ……ホント、すごい」
『同化なんて、大した技術じゃないぞ? そんなに褒められることじゃないんだが……』
「「とんでもないからっ!!!」」
再び、揃って言われてしまった。
うーん。
これくらい、俺にとっては極々当たり前の技術なんだけどな。
もちろん、何も知らない一般人がすぐにできるようなことじゃないんだけど……
ビーストテイマーになら、誰でもできるようなものだと思っていた。
ひょっとして、その辺りの認識がおかしいのだろうか?
「ところで、私達、どうやって話をしているの?」
『思念波を届けているんだ。動物と同化している時は、言葉がしゃべれないから、魔力で補って思念波を届けている、というわけだ。ビーストテイマーだから魔力は少ないけど、近くの人に思念波を届けるくらいの魔力はあるからな』
「にゃるほどー」
「ホント、器用なのねー」
『じゃあ、俺はちょっと周囲を捜索してくる。その間、俺の体を頼んだ』
「らじゃー!」
「いってらっしゃい」
二人に見送られて、俺は空高く羽ばたいた。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!




