表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/1152

189話 マタタビ

 イリスの一件で、慌ただしい日々を送ってきたので……

 一週間ほど休みをとることにした。

 先の一件でたくさんの報酬を得ることができたので、それくらい休んでも問題はない。


 体を動かしてばかりだと疲れてしまうからな。

 休養は大事だ。


 なので、しっかりと休みをとるように。

 ……と、みんなに言っておいたのだけど。


「ふっ!」


 朝。

 俺は外に出て、一人、訓練をしていた。

 基礎体力向上と近接戦闘の訓練だ。


 みんなに休め、って言っておいてなんだけど……

 どうにもこうにも、体を動かしてしまうんだよな。


 あの時。

 もう少し、俺に力があれば……

 と、考えても仕方ないことなのだけど、それでも考えてしまう。


「あーーーっ!!!?」


 不意に大きな声が響いた。

 振り返ると、カナデがジト目でこちらを見ていた。


「レインっ、何をしているの?」

「えっと、これはその……」

「しっかりと休みをとるように、ってレインが言ったことだよね? それなのに、当の本人は何をしているのかなー?」


 怖い。

 カナデは笑顔なんだけど、妙な迫力があった。


「えっと……」

「何か言うことは?」

「……ごめんなさい」

「うん、よろしい」


 俺、ビーストテイマーなのに、テイムした相手に従っているよ……


「なんで訓練なんてしていたの? 休まないといけない、っていうのは、レインが言い出したことだから、よくわかっているよね?」

「そうなんだけどさ……体を動かしていないと落ち着かないっていうか、もっと力があればとか考えて……一人でいても余計なことを考えてしまうから、つい」

「にゃあ……」


 カナデがなんともいえない顔になる。

 でも、それはすぐに笑顔に変わった。


「なら、私と一緒にいればいいんだね♪」

「え?」

「レイン、お散歩に行こう!」

「あっ、おい。カナデ!?」


 ぐいぐいとカナデに手を引かれて、俺達は散歩に行くことになった。




――――――――――




 早朝ということもあり、街は静かだった。

 人もほとんどいない。

 そんな中をカナデと二人で散歩するというのは、どこか新鮮だった。


 街を歩いて、広場を歩いて、丘を歩いて……

 一通り散歩したところで、公園にたどり着いた。


「にゃふー♪」


 カナデが公園の広場を駆けて、うれしそうな顔を見せた。

 野生の本能が刺激されているのかもしれない。


 そんなカナデの姿を見ていると、沈んでいた心が楽になるのを感じる。

 笑顔に癒やされるというか……

 一緒にいてくれるから、一人じゃないと思わせてくれる。

 とてもありがたい。


「んー、綺麗な花♪」


 カナデは、花などが生えているスペースに移動した。

 花だけではなくて、蔦などの色々な植物が並んでいる。

 誰かが管理しているわけではなくて、ここは、自然に任せたスペースなのだろう。

 雑多としているものの……でも、これはこれで趣があって、綺麗だ。


「レイン、レイン。こっちに来て。一緒にのんびりしよう?」

「ああ、そうするよ」


 カナデに呼ばれるまま、その隣へ。

 一緒に自然に癒やされることにした。


「にゃ?」


 ふと、カナデが動きを止めた。

 その視線の先には、茶色がかった木の実が。


 なんだろう、これは?

 どこかで見たような気がするんだけど……


「……」


 ふと、カナデの様子がおかしいことに気づいた。

 視線がふらふらとしていて、瞳がとろんとしている。

 それだけじゃなくて、頬が赤くなり、耳が落ち着きなくピョコピョコと動いていた。


「カナデ?」

「……にゃふー、レイン♪ レイン♪」

「うわっ!?」


 突然、カナデが抱きついてきた。

 いきなりのことに対応できず、そのまま地面に倒れてしまう。


「んふふー、レイン♪」


 カナデは俺の上に乗り、妖しい視線を落としてきた。


 な、なんだ?

 様子がおかしいんだけど……


「んー♪ レイン、良い匂いがするよぉ……はふぅ♪ ごろごろ」

「お、おい。カナデ? どうしたんだ、いきなり。なんかおかしいぞ」

「私はおかしくなんてないよぉ、いつも通りだよぉ……にゃん♪」


 いやいやいや、どう見てもおかしいんだけど?

 いったい、カナデはどうしてしまったんだ?


 確か……そこの植物を鑑賞していたら、急にこんな調子に……

 とはいえ、毒にやられているとか、そういう様子はない。

 どちらかというと、酔っ払ったような……


「って、あれは!?」


 さきほどまでカナデが見ていた、茶色がかった木の実。

 それは……マタタビだった。

 猫に恍惚感を与えるとか、そういう……


 ってことは、カナデは今、マタタビのせいで酔っている……?


「にゃふー、レイン♪ レイン♪」


 すりすりと頬を寄せられて、さらに、ぎゅうっと抱きつかれてしまう。

 カナデの尻尾がうれしそうに、ふりふりと揺れていた。


「ちょっ……か、カナデ、落ち着いてくれ! ストップ、ストップ!」

「やだぁ……ずっとこうしていたいのー」


 カナデはますます体を寄せてきた。

 絶対に離れてやるもんか、と言っているみたいだ。


「ねぇ、レイン……」

「な、なんだ?」


 どことなく、カナデが艶っぽい。

 普段は感じない色気を覚えて、妙にドキドキしてしまう。


「私ぃ……ずっとずっと、レインのことを考えているんだよ?」

「え?」

「寝ても覚めてもレインのことばっかり、なんだぁ……にゃふふ♪」

「それは、どういう……」

「レイン」


 そっと、カナデが顔を近づけてきた。


 って、近い!?

 額と額がこつん、ってぶつかりそうな距離で……

 それだけじゃなくて、触れてはいけないところが触れてしまいそうだ。


 それなのに、カナデは離れようとしない。

 しっとりと濡れた瞳で俺を見つめて、求めるような視線を送ってくる。

 その雰囲気に飲まれてしまい、俺は金縛りにあったように動けないでいた。


「……レイン……」

「か、カナデ……?」

「私ね……レインのことが……」


 ごくり、と喉を鳴らしたのは誰だろうか?


「……」

「……カナデ?」

「ふにゃあ」


 気がつけば……

 カナデがぐるぐると目を回していた。

 そのまま、バタン、と後ろに倒れてしまう。

 どうやら限界に達したみたいだ。


「……ホッとしたというか、なんかもったいないというか……まあいいや。ふう……つ、疲れた……」


 こちらのことなんか知らないというように、カナデは地面に転がり、笑顔で寝ていた。

 そんなカナデを背負い、俺はゆっくりと家に帰るのだった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[良い点] アニメ化、おめでとうございます〜
[良い点] 作者様、久し振りに妄想の時間となりました。 もしも、カナデがマタタビにつられる展開になったら・・・。 タニア「さあ、カナデ、レインと何してたのか話してもらいましょうか?」 カナデ「にゃー!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ