188話 久しぶりの我が家
「帰ってきたーーーっ!!!」
カナデがにっこりとしながら、大きな声をあげた。
イリスの事件が終わったことで、ホライズンへ戻り……
我が家へ戻った。
一ヶ月くらい、家を空けていたのだけど……
体感的には、もっと長く留守にしていたような感じだ。
それだけ、色々なことがあったのだろう。
「にゃふぅ、一番乗りぃ♪」
「あっ、コラ! 待ちなさいっ」
カナデが元気よく家に入り、その後をタニアが追う。
「みんな、元気だなあ」
「おじいさんのようなことを言わないでください。レインだって、まだ若いでしょう?」
「今のレインは、孫を見守るおじいさんみたいなのだ」
ソラとルナに、そんなツッコミを入れられてしまう。
マジか。
今の俺、おじいさんみたいなのか……?
「よし……よし」
俺が落ち込んでいることを察して、ニーナが頭を撫でてくれる。
ちょっと癒やされた。
「ほな、家に入ろう。旦那さま」
「そうだな」
カナデとタニアに続いて、俺達も家の中へ。
「ふぅ」
家の中に入ったところで、ニーナの頭の上に乗っているヤカンがぼんっ、と音を立てた。
そこから、メイド服姿のティナが現れる。
家の中に入ったことで、外に出れるようになったのだろう。
「やっと、外に出ることができたわー。ずっとヤカンの中にいると、変な感じになるんよね」
「どんな……感じ、なの?」
「ウチって実はヤカン? みたいな感じ?」
「ん……んー?」
よくわからないらしく、ニーナは小首を傾げていた。
そんなニーナに笑いかけてから、ティナがふわふわと浮き上がる。
そして……目を大きく開く。
「あぁ!?」
「どうした、ティナ!?」
「な、なんてことや……ウチが……埃まみれや!」
ティナの言う通り、家のあちらこちらに埃が溜まっていた。
まあ、仕方ない。
一ヶ月も家を空けて、何もしていなければ、こうなるのが普通だ。
「ゆっくりしたかったんだけど、掃除が先みたいだな」
「おそーじ……んっ、がんばる」
ニーナはやる気だったのだけど……
「あかん。二人はじっとしてて」
なぜか、ティナに制止されてしまう。
「掃除はウチの仕事や。レインの旦那やニーナは、旅の疲れが残ってるやろ? ぱぱっとリビングを綺麗にするから、そこで休んでるとええよ」
「いや、そういうわけにもいかないだろ? ティナ一人に押し付けるわけにはいかないって」
「大丈夫やで。ウチ、メイドやったから掃除は得意やし……あと、移動中はほとんどヤカンの中におったからな。疲れてないし、問題ないで」
「でもな……」
「ええから、ええから。ほら、二人は座ってる」
ティナが魔法でほうきを操り、ササッと椅子を綺麗にして……
それから、俺とニーナをそこに座らせた。
「じゃ、始めるでー!」
こちらが介入する間もなく、ティナが一人で掃除を始めてしまう。
魔力を使い、複数のはたきを同時に操作。
パタパタと棚などについた埃を落として……
それから、ほうきで床を掃く。
そして雑巾で床を拭いて……
「うん。リビングはこんなところやな」
すごい。
あっという間に、リビングをピカピカにしてしまった。
俺達の出る幕がない。
「ティナ……すごい、ね。ぱちぱち」
ニーナも感心していた。
「みんなの部屋も掃除したいところやけど、今は、それぞれ休んでるみたいやな……なら、後回しでええか。次はキッチンと、それから風呂……時間があれば庭もやっとくか。うし、燃えてきたでー!」
メイドだった頃の性なのだろうか?
ティナはやる気をみなぎらせて、はりきって掃除をした。
――――――――――
ティナが掃除を始めて、2時間ほどが経っただろうか?
みんなの部屋は後回しということだけど……
それ以外のところは終わったらしく、家中がピカピカになっていた。
「おつかれさま」
「あ、レインの旦那」
掃除を終えて、一段落ついたティナを迎える。
ちなみに、ニーナは途中でうつらうつらと船をこぎはじめたので、部屋で寝かせてきた。
やっぱり、疲れが溜まっていたのだろう。
「ありがとう。ティナのおかげで、すごく綺麗になったよ」
「あははー、そう言われると、ちょっと照れくさいな」
「あと、ごめん。結局、ティナ一人に押し付けて……」
「気にしてないで。ウチ、元メイドやからな。掃除とかは得意やし……それに、レインの旦那のためなら、いくらでもがんばれるんやで?」
ティナはちょっと頬をそめて、はにかむ。
じっとこちらを見つめながら、その胸の想いを語る。
「レインの旦那は、幽霊なのにウチを受け入れてくれて……ホントの家族みたいに扱ってくれた。これ、すっごいうれしかったんやで? それにそれに、ウチの恨みも晴らしてくれたし……数えきれないほどの恩があるんや。だから、レインの旦那のために何かしたい、っていう気持ちがいつもあって……だから、気にせんといて」
「って、言われてもな……」
ティナはそう言うのだけど……
でも、全てを押し付けるわけにはいかない。
ティナはウチのメイドではなくて、仲間なのだから。
そんな俺の迷いを読み取ったらしく、ティナが少し考えた後に口を開く。
「んー……なら、夕飯を作るの手伝ってくれへん? 久しぶりの我が家だから、今日は、ちょっと豪華にしようと思ってるんや。でも、一人じゃちょっと大変やから……」
「ああ、オッケー。そういうことなら喜んで」
「ふふっ、おおきに」
こうして、ティナと一緒に料理をすることになった。
並んでキッチンに立つ。
俺は料理はできないことはないけれど、得意というわけじゃない。
男の料理は大雑把なところがあるから、なかなか……というところだ。
なので、主導権を握るのはティナ。
俺は助手に務めることにした。
「あ、そこの塩取ってくれへん?」
「ほい、どうぞ」
「おおきに」
「ティナ、これはどれくらいかき混ぜればいいんだ?」
「んー、ちょっととろみがつくくらい? 箸で垂らして、糸を引くくらいでええよ」
「了解」
ティナの指示に従いながら、調理を進めていく。
「ふんふ~ん♪」
なんとなく隣を見ると、ティナ機嫌よさそうに鼻歌を歌っていた。
なんていうか……
こうしていると、俺達、新婚みたいだなあ。
とはいえ、そんな恥ずかしいこと、さすがに口にはできないのだけど。
あと、ティナは嫌がるかもしれないしな。
「あ、あのな?」
「うん?」
ふと、ティナがこちらに視線をよこした。
その頬は、うっすらとピンク色に染まっている。
「なんていうか、まあ、大した意味はないんやけど……」
「どうかした?」
「えっと、まあ……こうしてると、その……新婚みたいやなあ……って思わへん?」
「え?」
「あっ!? いやいやいや、なんでもないで!? なんでも! 今のなし! 聞かなかったことにして!!!」
ティナが真っ赤になった。
おおおおお、とよくわからない声をこぼしながら頭をおさえている。
「う、ウチは勢いに任せてなんていうことを……うぅ、は、恥ずかしい……」
「えっと……そんなに恥ずかしがらなくても」
「だって! ウチ、絶対におかしなこと言ったやろ!? レインの旦那も呆れてるし……」
「そんなことないって。驚いてはいるけど……それは、ティナも同じことを考えていたのか、っていう驚きだから」
「え? それって……」
「俺も、似たようなことを考えていたよ。こういうことをしてると、そう思うのが自然だよな」
「そ、そうなんや……レインの旦那も……」
ティナがにやにやとして……
次いで、こちらから視線を逸らした。
「どうした?」
「あ、あかん……今のウチ、絶対に変な顔をしとるから……こっち見んといて」
「そんなことを言われても……」
「す、少ししたら元に戻るから……だから、気にせんといて。うん。なんとか元に戻るから……」
そう言うティナは、いつもと違う雰囲気があって、妙に新鮮な感じがした。
久しぶりの穏やかな時間。
ちょっとだけ妙な空気になってしまったけれど……
これはこれでいいか、なんてことを思うのだった。
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