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187話 牢の中で

「くそっ!」


 王城の地下……その牢に入れられたアリオスは、苛立ちをぶつけるように壁を殴った。

 パラパラと埃と砂が落ちる。

 しかし、それだけだ。

 頑丈に作られた部屋が壊れることはない。


「……落ち着いたらどうだ?」


 同じ部屋に放り込まれたアッガスが、そう言った。


 ちなみに、リーンとミナはいない。

 一晩だけとはいえ、さすがに男女を同じ牢に入れておくことには問題があったからだ。


「落ち着いていられると思うのか!? 勇者であるこのボクが牢に入れられるなんて……くそっ、くそくそくそ! こんな屈辱、生まれて初めてだ!」


 アリオスは拳を震わせて、次いで、顔を赤くした。

 それから、牢の外に向かって声をぶつける。


「おいっ、誰かいないか!? すぐに僕をここから出せっ! 勇者である僕を牢に入れるなんて、頭がおかしいんじゃないのか!?」

「静かにしてください、勇者さま。今のあなたは、ここがお似合いですよ」


 見張りの兵士に蔑む視線をぶつけられて、アリオスはさらに怒りを膨らませる。

 しかし牢は頑丈にできていて、オマケに魔力を吸収する結界が展開されている。

 どうすることもできない。


「勇者様も堕ちたものですね……失望しましたよ」

「このまま、ずっと閉じ込めておけばいいんじゃないか?」

「ははっ、そいつはいいな。この後、王に提言してみるか?」

「くそっ!」


 ガシャン、とアリオスは鉄格子を叩いた。


「ちょっとちょっと、アリオスってば。騒ぎ過ぎだから。アッガスの言うように、少し落ち着いたら?」


 対面の牢に入れられているリーンが口を開いた。

 男と女を一緒にするわけにはいかないと、分けられたのだ。

 そのリーンを、アリオスは牢越しに睨みつける。


「こんな扱いをされて黙っていろというのか!?」

「そりゃ、あたしだってこんなのは納得できないけどさー……」

「ですが、今回のことは……」


 リーンに続いて、ミナも気まずそうに言う。


「なんだ? 何が言いたい?」

「……これは、お前の責任だ。アリオス」


 アッガスが言い放つ。

 ハッキリと咎を指摘されて、アリオスの顔が険しくなる。


「それはどういう意味だい? この僕のせいだとでも? あの天族を利用することは、みんなも納得してのことだっただろう?」

「そうだな。それについては否定しない」

「なら……!」

「しかし、案内人の冒険者を殺したという話は聞いていない」

「っ」


 痛いところを突かれたというように、アリオスは思わず言葉を止めてしまう。


「天族を利用しようとしただけならば、まだなんとかなった。相手を油断させるためとか……色々と言い訳はできる。しかし、冒険者を殺したというのであれば、もう言い訳ができない。なぜ、そんなことをした?」


 アッガスはそう問いかけるが……

 ある程度、予想はついていた。


 アリオスは用心深い男だ。

 というよりは、他人を信じることのない性格をしている。

 故に、冒険者が事件を口外してしまうことを恐れたのだろう。

 そのために口封じを選んだ。


「……君に話す必要性を感じられないな」

「そうか」


 答えをはぐらかされるものの、アッガスは一言、そう答えるだけで済ませた。

 その表情は……ひどく冷めていた。


「あのさー」


 対面の牢から、リーンが話しかけてきた。


「アリオスにはアリオスの考えがある、っていうのはわかってるんだけどさ……さすがに、殺したのはまずいって。脅すくらいにしといた方がよかったんじゃない? まあ、そんな話をしても手遅れなんだけどさ」

「リーンまで、僕の行動に異を唱えるのか?」

「だって、あたしらがこうなったのって、冒険者を殺しちゃったことが大きいじゃん? ぶっちゃけ、アリオスのせいでしょ」

「私も、リーンの意見に賛成です。もっと、他にやりようがあったのではないかと思います」

「ぐっ」


 次々と仲間に否定の言葉を浴びせられて、さすがのアリオスもたじろいでしまう。


 それから……気がついた。

 アッガスも、リーンも、ミナも。

 皆、冷たい視線を自分に向けていることに。


 こうなったのはお前のせいだ。

 余計なことをしたせいだ。

 視線がそう語っていた。


「くそっ!」


 アリオスは逃げるように簡易ベッドに移動して、そのまま寝てしまう。

 自分に都合の悪い展開になると、その事態に向き合おうとせず、逃げてしまう。

 アリオスの悪い癖だった。


 とはいえ、アリオス一人を責めることもできない。

 冒険者の殺害は予想外だったとはいえ……

 アッガス達は、イリスを利用することには賛成をしたのだ。


 手を汚しているか、汚していないか。

 その違いがあるだけで、根本的なところは何も変わらない。

 アリオスと同じことをしていることに変わりはなく、責任を追及されたとしたら、そこから免れることはできない。


 そのはずなのに……


 アッガス達は、アリオス一人を責めることで、己の罪と向き合おうとしない。

 目を逸らして、自分は悪くないと態度で示している。

 なかなかに救えない話だった。


「……リーン、ミナ。少しいいか?」


 アリオスに聞かれないように、アッガスは声を潜めて対面の牢に語りかけた。


「ん? どうしたの?」

「最近、アリオスの暴走が激しいと思わないか?」

「それは……」


 ミナが口ごもる。

 アッガスと同じことを考えていたみたいだ。


「天族を利用すると言い出して、さらに冒険者を殺して……聞けば、ホライズンに魔族が現れた時も、なにかしら関与していた可能性が高いという」

「えっ、それマジ?」


 驚くリーンに、アッガスは静かに頷いてみせた。


「詳しくはわからないがな。でも、なにかしら裏で動いていた可能性が高い」

「どうして、そのようなことをするのでしょうか? 魔族は、私達が倒さなければならない敵だというのに……」

「それはわからないが……とにかく、だ。ここ最近のアリオスの暴走は目に余る。現に、こうして牢に入れられるくらいだ」

「ここ、臭くて狭くてたまらないんですけど」

「私達は、このようなことで足を止めているヒマなんてないというのに……」


 牢に入れられたことはアリオスだけの責任ではなくて、等しくパーティーにも問題があるのだけど……

 そのことは自覚していない様子で、リーンとミナは被害者ヅラをして、げんなりとした表情を浮かべた。


「これからも同じことが起きないとも限らない。しかし、こんなことを繰り返すわけにはいかない。そこで……だ。俺は、アリオスを監視しようと思う」

「監視?」

「思えば、今まで誰にも止められることなく、アリオスは自由にしてきた。色々と好きにやりすぎた。その結果が、コレだ。こうならないように、アリオスの行動を監視……時に、いきすぎた行為を行おうとした時は、止めに入ろうと思う」

「んー……いいんじゃない? そこら辺、アッガスなら任せられると思うし。適任じゃない? ミナはどう思う?」

「そうですね……勇者であるアリオスの行動を見張るなんて、とは思いますが……アッガスの話にも納得できるところがありますね。わかりました。私も賛成します」

「決まりだな。今後、定期的にアリオスを抜きで話をしたい。監視の報告、というところだ。構わないな?」

「はいはいー」

「わかりました」


 仲間の行動を監視するという、おおよそ、普通のパーティーでは考えられないことが決定された。

 そこに仲間の絆というものはない。

 あるのは、疑念と打算と自己保身だけだ。


 パーティー崩壊に、また一歩、近づいていく……

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― 新着の感想 ―
[一言] ↓元からそれほどなかったのが『完全に』になったんじゃないかと
[良い点] 1から読み直してますが、勇者パーティーはここで信頼は無くなった。ということですね・・。
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