186話 査問
中央大陸にある王都ロールリーズ。
繁栄を極める都の中央に位置する王城。
その謁見の間に、中央、南、東大陸の三つを治める王、アルガス・ヴァン・ロールリーズの姿があった。
齢60を超えているというのに、その身に纏う覇気はまったく衰えていない。
鋭い眼光で部下達を玉座から見下ろしている。
そんなアルガスの前に……アリオス達の姿があった。
アリオス、アッガス、リーン、ミナ……勇者パーティーと呼ばれ、人々の賞賛の声を受けるはずの一行が平伏して、冷や汗をかいていた。
「アリオスよ」
重厚なアルガスの声が響いて、アリオスの体がビクリと震えた。
「なぜ、ここに呼ばれたのか……わかっているな?」
「そ、それは……」
「悪魔を解放して、目撃者である冒険者の殺害。さらに、悪魔と手を組むことで己の手柄にしようとした……何か言いたいことはあるか?」
「……僕はそのようなことはしていません」
アルガスの厳しい視線を受けても、アリオスは己の非を認めなかった。
「ほう……? 現地の村人達からの陳情が届いているが、それは?」
「村人達を救いはしましたが、苦境に立たせるような真似はしていません。恐怖のあまり混乱しているのでは?」
「では、ギルドからあがってきている報告については?」
「何も心当たりはありません。何かの間違いでしょう」
「自分に非はない、と言うか」
「はい」
アリオスはしっかりと答えた。
やましいことは欠片もないというように、堂々とした態度だ。
そんなアリオスを見て、王の周囲にいる側近達は迷いを覚えた。
ギルドの報告が間違っていたのでは?
村人達は、何か勘違いをしているのでは?
なにしろ、アリオスは勇者なのだ。
そのようなことをするわけがない。
『勇者』という存在を神聖に扱うあまり、そんな風に考えるようになっていた。
……しかし、アルガスは惑わされない。
「愚か者がっ!!!」
「っ!?」
雷鳴のようなアルガスの怒鳴り声が響いて、アリオスは顔を強張らせた。
アッガス達もビクリと震えた。
アルガスは王だ。
他の誰かに操られるような愚王ではなくて、己の足でしっかりと大地を踏みしめる、賢王だ。
そんな王の目を欺くことができるだろうか?
答えは、できるわけがない……だ。
「そのような嘘が通じると思ったか!?」
「し、しかし、これは事実であり嘘などということは……」
「まだ嘘を重ねようとするか」
アルガスの機嫌が急速に下降していく。
それを察して、アリオスの顔色も悪くなる。
必死になって自己弁護を重ねるが……
それが逆効果だということに気づかず、アルガスの機嫌は最底辺に達した。
「……もういい」
うんざりとした様子で、アルガスは手を払う。
「今はまともな話ができないようだな。まずは、頭を冷やしてくるがいい。騎士よ、アリオス達を牢へ」
「なっ!?」
勇者である自分を牢に入れる?
ありえない言葉を聞いて、アリオスは絶句した。
しかし、アルガスの目は本気だった。
そして、その命を受けた騎士達も本気だ。
アリオス達のところへ歩み寄り、左右から腕を押さえる。
「さあ、こちらへ」
「くっ……そんなバカな!? ボクは勇者だ! それなのに、なぜ牢屋なんかに……」
「心配しなくても、一晩で出してやろう。それまでは頭を冷やして、反省するがいい」
「王よっ、このようなことは……!」
「黙れ。今日はもう、お主の言葉を聞きたくない。顔も見たくない。牢で己の罪と向き合うがいい」
「くっ」
アリオスの顔が大きく歪む。
怒り、焦り、屈辱……色々な感情が顔に出た。
ここで騎士達を振り払うことは簡単だ。
いかに鍛えられた騎士とはいえ、勇者に敵うことはない。
しかし、王の目の前でそのようなことをすれば、反旗を翻したも同然。
いくら勇者といえ、それは越えてはならない一線だ。
勇者という立場から一転して、反逆者に堕ちてしまう。
そのことを理解しているため、アリオスは歯をギリギリと噛みながらも、おとなしく騎士達に連行された。
ただ、最後までアルガスを睨みつけていた。
「ふう」
アリオス達が消えて、アルガスは玉座に深く背中を預けた。
自然と重い吐息がこぼれた。
「まさか、あのようなことをするとは……」
アリオス達がしでかしたことを考えて、アルガスは苦い顔になる。
プライドが高く、他人を顧みないところはあったものの……
まさか、ここまでの愚かなことをしでかすとは。
アルガスは考える。
アリオスがしたことは、到底、許されることではない。
本来ならば、罪人として裁き、投獄したいところだ。
しかし、アリオスは『勇者』だ。
アリオスがいなくなると、魔王に対抗する術を失ってしまう。
魔王は現在、休眠期ではあるが……
いずれ本格的な活動を開始して、人類に牙を剥く。
その時に勇者がいなければ、人類は絶滅するしかない。
アリオスは必要な存在なのだ。
しかし、だからといって、好き勝手をしていいわけではない。
多少の問題なら目をつむるが……
今回は明らかにいきすぎだ。
反省してくれればいいが、さきほどの態度を見る限り、期待はできそうにない。
どうするべきか?
アルガスは考えた。
「どうにかして、アリオスのコントロールをしたいところではあるが……ふむ。報酬で釣るか? いや……さらに増長させるだけか。今まで、好きにさせていたのが間違いというのならば……監視役をつけるか。それで、ある程度のコントロールを……」
ぶつぶつとつぶやきながら、アルガスは今後のことを考えた。
「そうだな……まずは、それでいくとするか。監視の目があれば、バカなことをしないだろう。しばらくはそれで様子を見て……正しき道に戻るのならばよし。それが叶わないのならば……保険を使うことを考えておこう」
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