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184話 ハッピーエンドではないグッドエンド

 ……あれから一週間が経過した。


 イリスが各地に残した影響は大きく、ギルドや騎士団はその対応に追われることになった。

 パゴスの村の再建。

 怪我人の治療。

 同じような封印がないかどうかの調査。

 ギルドと騎士団が連携して、各地で対応を行っている。


 俺はというと……

 命令無視に独断行動とダブルで違反したにも関わらず、罰はなしとなった。


 俺が命令を無視したのは、作戦が失敗した時の保険を得るためのこと。

 そして、独断行動は、事前にイリスの罠に気がついて、身を以って皆を助けた。

 気がつけば、そんな感じで話が完結していた。


 俺は、好き勝手やっただけなんだけどな……

 でもまあ、結果的にお咎めなしということなので、よしとしておいた。

 色々とあったけれど、冒険者をやめたいわけじゃないからな。


 アクスとセルが全てを告発していれば、こうはならなかったのかもしれないけど……

 二人は何も言わず、立ち去った。

 それは、二人なりの優しさだったのかもしれない。


 でも、別れの言葉を交わすこともなくて……

 二人との縁が絶たれたことを、改めて思い知る。

 覚悟していたことだけど、いざとなると、少し寂しかった。


 事情聴取が終わった後は、俺達も後処理に参加した。

 体を動かすことで、余計なことを考えないで済むと思ったからだ。

 考えを、想いをまとめる時間が欲しかった。


 そうして、瞬く間に一週間が過ぎて……




――――――――――




 俺は、イリスが封印されていた山に来ていた。

 ただし、祠の跡地じゃない。

 見晴らしのいい場所に移動していた。


「レイン、こんなところかな?」


 カナデが、近くで摘んだ花を見せてきた。


「ああ、十分だ。ありがとうな」

「ううん、これくらいおやすいごようだよ」

「はい、こっちも終わりよ」


 タニアが木で作った十字架を持ってきてくれた。

 けっこうきれいだ。


「タニアもありがとう」

「ま、これくらいならいつでもやってあげるわよ」


 言いながら、タニアは地面に十字架を立てた。

 そして、カナデが花を添える。


「「ホーリーブレス」」


 ソラとルナが魔法を唱えた。

 十字架を中心に、淡い光が広がる。

 対象に祝福を与えるという、主に神官などが使う魔法だ。


「「……」」


 ニーナが十字架の前で膝をついて、両手を合わせて、目を閉じて祈る。

 頭の上に乗っているヤカン……ティナも、じっとしていた。

 ニーナと同じように、祈っているのだろう。


「……」


 二人に続いて、俺も祈りを捧げた。

 カナデ、タニア、ソラ、ルナも続く。


「ふぅ」


 しばらくして、そっと目を開けた。

 俺と同じように、みんなも目を開ける。


 そんなみんなを見て、俺はそっと声をかけた。


「ありがとう、みんな。俺のわがままに付き合ってもらって」


 色々な後処理が終わり、まず最初に俺がしたことは……

 イリスの墓を作ることだった。


 あんな事件を引き起こしたので、当然、イリスの墓なんて作られない。

 むしろ、恐怖と破壊を撒き散らした悪魔として語り継がれていくだろう。


 でも……それは、あまりに寂しいと思った。

 だからせめて、墓を作ることにした。

 天族が住んでいたところはわからないから……

 見晴らしのいいところでゆっくりと眠ってもらえるように、ここを選んだ。


「……」


 イリスの墓を見ていると、なんともいえない気持ちになってしまう。

 この下にイリスはいない。

 本当は、遺跡と共に……


 あの時のことを考えると、今でも胸が痛い。

 もっと、他にやり方があったのでは?

 なにがなんでも、手を離さないでおけば?


 そんなことばかり考えてしまう。

 考えても仕方のないことなんだけど……

 それでも、後悔は消えてくれない。


「レイン」


 気がつくと、カナデが俺の手を両手で握っていた。


「レインはがんばったよ」

「カナデ……」

「私はその場にいたわけじゃないけど……でもでも、レインの気持ちは、イリスに届いていたと思うよ。だって……最後は笑っていたんだよね?」


 一部始終はみんなにも伝えている。


「こんな結果になっちゃったけど……でもでも、レインがしたことは無駄なんかじゃないよ。それに、ダメなことをしたわけじゃなくて、最善の行動をとって、他に道はないわけで……うにゃ?」


 話しているうちに混乱してきたらしく、カナデがコテン、と小首を傾げた。

 こういう話、カナデはあまり得意じゃないからなあ……

 なんか、ちょっと笑えてきた。


「とにかく」


 横からタニアが口を挟んできた。


「レインは、他の誰にもできないことを成し遂げた、っていうことよ」

「タニア……」

「胸を張りなさいよ。あんなこと、他の誰にもできないんだから。そりゃあ、全部が全部、うまくいったわけじゃないけど……でも、いつまでも後悔してても仕方ないでしょ? そんなこと、あのイリスが認める? ううん、認めないわ。きっと、こう言うわね」

「わたくしに勝ったのですからもっと誇ってくださいませ、という感じだな!」

「あっ、あたしのセリフ!?」


 ルナにセリフをかっさらわれて、タニアがガーンというような顔をした。

 そんな二人をよそに、ソラが柔らかく笑いかけてくる。


「レインに暗い顔は似合いません。いつものように、笑っていてほしいです。イリスも、そっちの方が好み、っていうはずだと思いますよ」

「ん……わたしも、そう思うな。みんな、笑顔がいい……よ?」

「あんまりシケた顔しとると、イリスに怒られてしまうでー。そんな顔はわたくしの好みではありませんわ、とか言うてな」


 ニーナとティナも会話に参加してきた。


 みんな、俺のことを気遣ってくれている。

 気にしてくれている。

 そのことがとてもうれしい。

 胸が温かくなるような気がした。


「……そうだな」


 いつまでも引きずっていられないか。


 後悔はすぐに消えない。

 イリスのことはすぐに忘れられない。


 でも、俺はまだ生きているから。

 こうして、みんなと一緒にいるから。

 前を向いて、歩いていかないといけない。


「……」


 最後にもう一度、イリスの墓を見る。

 そして、心の中で告げる。


 色々あったけど……やっぱり、イリスのことは嫌いになれない。

 むしろ、好ましいと思っていたのかもしれない。

 今はゆっくり、休んでほしい。


 ……さようなら。

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