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183話 あなたのために

 足場が崩れて、瓦礫が舞い上がる。

 床に大きな穴が穿たれた。

 その中にイリスが飲み込まれる。


 俺は……


「ダメだっ、イリス!!!」


 イリスの元に駆けた。

 悲鳴をあげる体に鞭を打って、全力で走り……

 瓦礫と一緒に地の底へ落ちようとしていたイリスの手を掴んだ。


「ぐっ!」

「レイン様!?」


 かろうじて、イリスをつなぎとめることに成功した。

 床に腹這いになるようにして、片手で体を支えながら、もう片方の手で宙にぶらさがるイリスを掴まえる。


 イリスが落ちようとしている穴は深く、底が見えない。

 いくら最強種とはいえ、ここに落ちればおしまいだろう。


「何をしているのですかっ!? わたくしを助けるなんて……」

「助けるに決まっているだろう!?」

「意味がわかりません! わたくし達は敵同士でしょう!? わたくしが死ねば、全て、それで終わるというのに……どうして、このようなことを」

「なんで勘違いしているんだよっ」


 ああもう。

 イリスは賢い子だけど、妙なところでひねくれているな。


 こちらの意図が伝わっていなかったのだろうか?

 なら、何度でも言ってやる!


「俺はイリスを助けたいんだよ!」

「なっ……」

「イリスの復讐は止まらない。そして、復讐の果てにイリスは死ぬつもりなんだろう? だから俺は、イリスを止めようとした。封印することで、終わりにしようとした」

「それは……」

「イリスに生きていてほしいから……死ぬなんて、終わってしまうなんて……そんなことは認められないから。だから、こうして必死になってきたんだ!」

「……」


 片手一本で繋がり、宙に浮いているイリスは、ぽかんとして……

 やがて、くすりと笑う。


「本当……ことごとく、わたくしの常識の外の行動をとるのですね、レイン様は」

「人を驚かせるのは得意なんだ」

「そんなレイン様だから、わたくしは……」


 惹かれたのかもしれませんね。

 小さな声で、イリスはそう言った。


「くっ……!」


 体のあちこちが悲鳴をあげているせいで、力が入らない。

 イリスを引き上げることはできず、現状維持が精一杯だ。


 さらに、遺跡の崩壊も進んでいる。

 あちこちに瓦礫が落ちて、振動がどんどん大きくなる。

 この様子だと、遺跡が崩壊するまで10分というところか……?


「イリス、早くこっちへ……!」

「ですが……」

「死んで、それで終わりにするなんて……それだけは絶対にダメだ!」

「レイン様……」

「死んだらそこで終わりなんだっ、なにもかもなくなってしまうんだ! こんなことを言うのは卑怯だけど……イリスの仲間は、家族は、生きたくても生きることができなかったはずだろう!? だから、家族のために仲間のために……生きろ!」

「っ……!?」


 イリスは目を大きく開いて……

 ぐっと、俺の手を掴んだ。


「それでいいっ」


 イリスを引き上げようとした。

 が、やはり力が入らない。


「くっ……イリス、飛んでこっちへ……」

「すみません……わたくしも、もう力は残っていなくて……」

「そっか……なら、そのまま、しっかりと俺の手を掴んでいてくれ。後は、俺がなんとかするから」

「レイン様……あなたは、どうして……」

「うん?」

「どうして、わたくしを助けようと……?」

「色々、あるんだけど……一言で言うなら、人だからかな」

「人間だから……?」

「イリスに生きていてほしいって、そう思ったんだよ。ただただ、生きていてほしいって……そういう風に思ったんだ」

「そんな、無茶苦茶な……理屈もなにもないではありませんか……」

「そういうものなんだよ、人の心っていうのは」

「人の……心……」


 俺の言葉を繰り返すイリスは、今までに見たことのない顔をしていた。


「くっ」


 いよいよ遺跡の鳴動が激しくなってきた。

 天井が崩れ、壁が倒れる。


 床の穴も徐々に大きくなり、俺達を飲み込もうとしていた。


「レイン様っ、もういいですから……! このままでは、レイン様まで……」

「いいから……! 絶対に助けるから……! イリスに生きていてほしいから、俺はここまで来たんだ……こんなところで諦めてたまるかっ」

「……レイン様……」


 宙に吊られた状態で、イリスはこちらをじっと見つめて……

 やがて、優しく微笑んだ。


「本当に……不思議な方なのですね」

「イリス……?」

「こんなわたくしを助けようとするなんて……そんな人間、レイン様が初めてですわ。愚かな方」

「バカだって言われても、やめないからな!」

「ふふっ……そのようなこと、言えませんわ。だって……そんなレイン様の気持ちを、わたくしは、うれしいと思っているのですから」


 イリスは変わらず、微笑みを浮かべていた。


 なんだろう?

 なぜか、嫌な予感がした。


「理屈なんて関係なく、ただただ、思うように行動する……それが人の心。少しではありますが、わたくしも理解できました」

「なにを……」

「思えば、このようなことをするのは初めてですね……誰かのために動くということ。長い間、生きてきましたが……本当に、初めてで……」

「イリス、何を言っているんだ? それよりも、しっかりと俺の手を……」

「レイン様」


 俺の言葉を遮り、イリスが強い口調で言った。


「わたくしは、レイン様に生きていてほしいと……そう思いました」

「それは……」

「復讐だけを目的に生きてきましたが……最後に抱いた想いが、あなたのためにということ……ふふ、とてもおもしろいですわね」

「……待て。待った、それはダメだ!!!」


 イリスの考えていることを理解して、俺は声を張り上げた。


 でも……

 イリスはもう答えを決めていた。

 覚悟をしていた。


 だから、彼女を止めることはできなくて……


「レイン様。最後に、わがままを一ついいですか?」

「最後なんて言うな! こんなところで……」

「もしも、再会できたのならば……その時は、わたくしと契約していただけますか? それとも、わたくしのようなものとは契約できませんか?」

「そんなことない! そんなこと……っ!!!」

「ふふっ、よかった」


 イリスは静かに笑い……

 そして、俺の手を振り払った。


「……さようなら。優しい優しい、ビーストテイマーさん……」


 イリスの体が宙に浮いて……

 そして、落下する。


 俺は手を伸ばすけれど、でも、届かなくて……


「イリスーーーーーっ!!!!!」


 イリスは最後まで笑みを浮かべていて……

 そのまま、地の底に消えた。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イリスのこの言葉で 「……さようなら。優しい優しい、ビーストテイマーさん……」 >>もっとかなり先の未来で、 今度は、イリスだけではなく。 最強種の カナデ・タニア・ソラ・ルナ・…
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