18話 二人目の契約
街に戻り、依頼完了を報告した。
しかし、タニアを引き渡してはいない。
手当たり次第に決闘を申し込んでいたとはいえ、悪意あってのことではないし、悪質なものでもない。
ギルドに引き渡した場合、確実に、そのまま国に引き渡され、捕まってしまう。
さすがにそれはかわいそうなので、犯人は追い払った、というウソの情報を織り交ぜて報告をした。
ギルドもバカじゃないので、俺達の言い分をそのまま信じることはない。
本当に犯人はいなくなったのか?
そのことを調べるために、調査団を派遣するらしい。
本当に犯人がいなくなった、という調査結果が出れば、晴れて依頼完了だ。
それまでは保留状態で、報酬も出ない。
まあ、当然の処置なので文句はない。
「すみません。レインさんのことを疑っているわけではないのですが、やはり、問題が問題だけに、簡単に認めるわけには……」
ナタリーさんは、申し訳なさそうにしていた。
「いや、構わない。調査するのが当然だろう。調査はどれくらいかかるんだ?」
「そうですね……犯人は毎日出没していたから……2~3日、というところでしょうか? わりと早く終わると思いますよ。レインさんは、まだ街に滞在されますよね?」
「どこにも行く予定はないかな」
「なら、お手数ですが、また3日後にギルドに来てください。その時には、調査も終わっていると思うので、報酬をお渡しすることができると思います」
「わかった。じゃあ、3日後に」
ギルドを後にしようとして、
「あ、ところで」
ナタリーさんが、思い出したように言う。
「そちらの女の子は、どちらさまですか?」
……やっぱり、一人増えていたら、気にならないわけがないよな。
「えっと……依頼の途中で知り合ったんだ。今回の依頼、彼女に手伝ってもらって……」
「そうでしたか。冒険者なんですか?」
「いいえ、あたしはそんなものじゃないわ。聞いて驚きなさいっ、あたしこそ、天空の支配者、ドラむぐぅ!?」
「じゃあ、俺達はこれで」
「またね~♪」
「むがっ、むぐぅ!」
暴れるタニアの口をふさぎながら、俺とカナデはギルドを後にした。
「あにすんのよっ!?」
ギルドからある程度離れたところで、タニアを解放した。
プリプリと怒るタニア。
「いきなり口を塞いだのは悪かったと思っているよ。でも、あんなところで正体を明かそうとするなんて、何を考えているんだ?」
「……つい、勢いで」
「タニアは何も考えてないにゃ」
「能天気な猫霊族に言われたくないわね」
「にゃんですとっ!?」
「なによっ!?」
バチバチっと火花を散らす二人。
「こんなところでケンカはやめてくれ」
「「だってコイツが!」」
息がぴったりだ。
意外と仲が良いんじゃないか?
「とりあえず、ごはんにしよう。色々あって、腹が減ったよ」
「ごはん! にゃう~♪」
「当然、おごりよね?」
ごはんと聞いて、目をキラキラとさせる二人。
やっぱり、二人は仲が以下略。
――――――――――
「はぐはぐはぐっ! あむっ、がつがつがつ!!!」
「ぱくぱくぱくっ! はむっ、んんんっ……ごくんっ!!!」
ものすごい勢いで料理を食べるカナデとタニア。
最強種っていうのは、食べる量も人と比べ物にならないんだろうか?
稼ぎが十分にあるわけじゃないから、少しは遠慮してほしい。
皿を山のように積み重ねたところで、ようやく二人の食欲が収まった。
「にゃあ~♪ お腹いっぱい、満足だよぉ」
「なかなかね。人間の料理も悪くないじゃない」
「落ち着いたところで、話をしたいんだけど……」
「いいわ。なんでも聞きなさい。あるいは、なんでも話してあげる。ごはんのお礼よ」
腹が満足したからなのか、タニアは上機嫌だった。
「じゃあ、これからのことなんだけど……タニアは、もうあんなことはしないよな?」
「そうね……どうしようかしら?」
「おいおい」
「冗談よ。しないわ」
くすりと笑うタニア。
ドラゴンというよりは、小悪魔みたいだ。
「あなたたちに、完膚なきまでに負けちゃったし……元々、大した修行にはなってなかったし……あの橋で決闘を申し込むことはやめるわ」
「そう言ってもらえて、助かるよ」
「もしも、あたしが言うことを聞かなかったらどうするつもりだったの?」
「その時は、また俺達が相手になる」
「またあたしに勝てる自信が?」
「ないよ。タニアに勝てたのは、色々な要素が重なり、運が良かった結果だと思っている。次は、勝てるかどうかわからないな。でも……こうして知り合った以上、放っておくわけにはいかないからな。このまま同じことを繰り返せば、いずれ、タニアの正体がバレるかもしれない。本格的な討伐隊が編成されるかもしれない。そんな事態はイヤなんだ」
「ふーん……あんたって、お人好しなのね」
「それがレインの良いところだよ♪」
「否定はしないわ。あたし、あんたのそういうところは好きよ」
「ありがとう」
「あっ……べ、別に、恋人にしたいとか、そういうわけじゃないんだからね!? 人柄が好きっていうだけで、そ、そういう意味じゃないんだからっ」
「わかっているよ。さすがに、そこまで自惚れていないさ」
「むぅ、そんなにあっさり納得されると、それはそれでムカつくわね」
どうしろと?
「ねえねえ、タニアはこれからどうするの? 修行は続けるんだよね?」
食後のお茶を飲みながら、カナデが尋ねる。
猫霊族だからなのか、熱いお茶は苦手らしく、何度も息を吹きかけていた。
「それなんだけど……あんたたちについていくわ!」
突然の展開に、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「な、なんでそんな話になるんだ……?」
「あたしが興味あるの! あんたたちと一緒なら退屈しなさそうだし……とっても楽しいことになりそう♪」
「修行はいいのか……?」
「あんたたちと一緒にいることこそが、修行になりそうな気がするのよね。なによりも……レインだっけ? あんたのことが気に入っちゃった♪」
「ふにゃ!?」
タニアが席を立ち、俺の首に両手を回して抱きついてきた。
それを見たカナデが、なぜか、尻尾を逆立てる。
「レインみたいな人間、初めてよ。あたしを負かすだけじゃなくて、助けてくれて……それからも色々と良くしてくれるし……気になって仕方ないの。ねえねえ、あたしも一緒にいていいでしょ?」
「こらーっ! レインから離れてっ、レインは私のご主人様なんだからねっ」
「ちょっとくらい、いいじゃない」
「よくないよーっ! フシャーっ」
「ひょっとして、妬いてるの?」
「ふぇっ!? そ、それは、その……あぅ」
「ふふーん。あんまりしつこい女は嫌われるわよ?」
「きらわ……!? れ、レイン……私のこと、嫌いになっちゃう……?」
カナデの猫耳がぺたんとしおれて、尻尾がへなへなと垂れ下がる。
悪い想像をしているらしく、絶望的な表情をしていた。
こんな時になんだけど……
カナデの反応がうれしい。
一連の反応は、俺と離れたくないと思ってくれているという、気持ちの表れだ。
「嫌いになんてならないよ」
「ほんと……?」
「当たり前だろう? カナデは、大事な仲間だ」
「にゃふぅ♪ レイン、優しい♪」
「ちょっとちょっと! あたしのこと無視しないでよ」
「なら、さっきみたいな質の悪い意地悪はしないでくれ。今、言ったけれど、カナデは大事な仲間なんだ」
「うっ……そ、その……悪かったわよ」
「ん。タニアの謝罪はしっかりと受け取ったよ」
「ふぁ」
つい反射的に、カナデにするようにタニアの頭を撫でてしまう。
怒ったかな?
恐る恐るタニアの顔色を伺うけれど、怒った様子はない。
むしろ、頬を染めていて、どこか嬉しそうにしていた。
「も、もっと撫でてもいいわよ? べ、別に撫でてほしいわけじゃないんだからね? これは、その……そうっ、和解の証よ!」
「そうか? なら……なでなで、なでなで」
「はふぅ……」
タニアの目がとろんと潤む。
「やばいわ……これ、超気持ちいい……さすが、超一流のビーストテイマーなだけはあるわね」
ビーストテイマーは関係あるのだろうか?
あと、俺は超一流なんかじゃないんだけどな……
「えっと……タニアのこれからなんだけど……カナデ」
「うーん……まあ、私はいいよ? 意地悪されたけど、でも、タニアのことは嫌いじゃないから」
「俺も、特に反対する理由はないかな。ただの勘なんだけど、タニアとならうまくやっていけると思うんだ」
カナデと出会った時と同じような感覚。
タニアなら、真の仲間になることができるかもしれない。
そんな予感があった。
「決まりねっ!」
俺達の話を受けて、タニアがにっこりと笑う。
「じゃあ、さっそく契約してちょうだい!」
「……ちょっと待った。どうして、そんな話になるんだ?」
「え? カナデが契約してるんだから、あたしもレインと契約するのが当然でしょう? もしかして、あたしだけ仲間はずれにするつもり?」
「待て待て。勝手に話を進めるな。そういうつもりはないけど、竜族のタニアとうまく契約できるかどうか……」
「レインならできるわよ」
無条件の信頼を寄せられてしまう。
カナデもだけど、どうして、ここまで俺のことを信頼できるのだろう?
「試すだけ試してみましょう。失敗したら、それはそれで構わないわ。まっ、失敗するなんて、これっぽっちも思ってないけどね」
「レインなら大丈夫だよ♪」
カナデに太鼓判を押される。
竜族と契約……うーん。
正直なところ、自信がないのだけど……
ここまで言われているのだから、やるだけやってみるか。
「わかったよ。なら、タニアはそこの椅子に座って」
「了解♪」
タニアが椅子に座り、俺と向かい合う。
指を噛んで、流れた血で魔法陣を描いた。
手の平をタニアにかざす。
「……我が名は、レイン・シュラウド。新たな契約を結び、ここに縁を作る。誓いを胸に、希望を心に、力をこの手に。答えよ。汝の名前は?」
「……タニア……」
魔法陣が光の粒子となり、タニアの体に吸い込まれた。
「これで終わり?」
「あ、ああ……契約完了だ」
猫霊族だけじゃなくて、竜族とも契約できちゃったよ……
俺、一生分の運を使い果たしてしまったかもしれない。
「ふーん……これが使役される、っていう感覚なんだ。なんか、レインといつでもどこでも繋がってるみたいで、変な感じ。でも、悪くないかも」
タニアは俺を見て、にっこりと笑う。
「これからよろしくね、ご主人様♪」
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