表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/1152

177話 VSアクス、セル・2

「ブースト!」


 魔法で身体能力を強化する。

 体が羽のように軽くなり……

 その状態で、再び、アクスに攻撃をしかけた。


「くっ、速い!?」


 アクスが神速の剣技で応じようとするが、俺は、さらにその先を行く。

 アクスが剣を振り抜いた先には、もう俺はいない。

 残像すら残すような勢いで、アクスの背後に回り込む。


「っ……舐めるなぁっ!!!」


 さすがというか、アクスもこれで終わらない。

 体を捻り、すぐに反転。

 剣を斜めに振り落とす。

 驚異の反応速度だ。


 今度は避けることができず、カムイで受け止めた。

 が、これで構わない。


「にゃんっ、背中もらいー!!!」


 カナデがアクスの背後をとり、蹴撃を繰り出した。

 アクスは片手で剣を支えて、もう片方の手でカナデの蹴撃をガードする。


「ぐっ!?」


 小手で受け止めたとはいえ、猫霊族の一撃だ。

 無傷というわけにはいかないらしいく、重い衝撃に、アクスは顔をこわばらせた。


「アクス!」


 セルの援護射撃が放たれる。

 速い!


 三本まとめての斉射を三回。

 合計、九本の矢が暴雨のように飛んでくる。


「悪いけど、ここらで終わりにさせてもらうわよ!」


 タニアが火球を撃ち出して矢を迎撃した。


「セルの相手はソラ達がします!」

「レインの邪魔はさせないのだ!」


 続けて、ソラとルナがタニアの援護に回る。

 初級魔法を連打する。

 ただの初級魔法とはいえ、十数発も同時に使われれば脅威になる。


「くっ!」


 遠距離戦で競うことになるが、相手がタニアとソラとルナというのが問題だった。

 いくらセルがAランクの冒険者で、超絶的な弓技を持っていたとしても、最強種三人を相手にできるわけがない。

 魔法と火球を連射されてしまい、次第に押し込まれていく。

 アクスの援護に回ることは、当然、できない。


「ちっ……セルを封じるとは、やってくれるな!」

「これ以上、時間をかけていられないからな! 悪いが、終わりにさせてもらう!」

「舐めるなっ」


 アクスは再び両手で剣を握り、神速の一撃を繰り出してくる。

 しかし、その動きは鈍い。

 カナデの一撃が効いているのだろう。

 今まで通りに剣が振るえないらしく、明らかに速度が低下していた。


 いつもならば、ここでためらっていたかもしれないが……


 俺とて、ここまでくれば、覚悟を決めるしかない。

 目的を果たすため。

 アクスを打ち倒す!


「カナデ!」

「うんっ」


 カナデと目配せを交わした。

 それで十分だ。


 こちらの意図を察したカナデは、引き続き、アクスに連撃をしかける。

 拳と脚のラッシュ。

 アクスは驚異的な反応速度でそれを受け止めるものの、次第に遅れが出てきた。

 カナデの力に押されて、手が痺れてきているのだろう。

 あと、さきほど受けた打撃が尾を引いているのかもしれない。


「にゃんっ!」

「ぐっ!?」


 カナデが大きく腕を振りかぶり、アクスを吹き飛ばした。

 俺が願っていたように、隙を作ってくれた。


 ここで決める!


「まだまだぁあああっ!!!」


 アクスはすぐに体勢を立て直して、俺の接近を阻んだ。

 あのまま終わり……という甘い展開にはならなかったか。


 でも、すでに手遅れだ。


「俺は、お前を認めないからなっ!!!」

「それで構わないさ、俺は俺の道を行く!」


 アクスと激突して、刃を交わす。

 一閃。


 ギィンッ、と刃と刃がぶつかり、音を響かせる。

 次第にその回数が増えていき、速度も上がる。


 嵐のように。

 竜巻のように。

 刃と刃が交わり、無数の傷を作る。

 それでも、止まらない。止まれない。

 俺とアクスは、それぞれの目的を果たすために……己の全てを賭けて、前に進む。


 果てのない剣舞が繰り広げられて……

 どちらか一方がミスをした瞬間、終わりが訪れるというこの状況で……


「っ!?」


 不意に、アクスがバランスを崩した。

 驚きの目で足元を見る。

 そこには……俺が遠隔でテイムしておいたうさぎが、アクスの足にしがみついて、わずかにその動きを乱していた。


「なっ、うさぎ……!?」

「忘れたか? 俺は、ビーストテイマーなんだよ!」


 アクスの動きは乱れ、動揺から足を止めている。

 その隙を見逃すことはない。


 俺はカムイを手にして、アクスの懐に飛び込む。

 そして……

 刃を後ろへ。

 柄で鳩尾を叩いた。


「ぐっ……ぁ……!?」


 今の一撃は決定的なものだった。

 アクスはふんばろうとするが、足に力が入らない様子で……

 剣を手放して、そのまま地面に倒れた。


 それとほぼ同時に……


 少し離れたところで戦っていたタニア達が、セルの弓を破壊して、無力化することに成功した。




――――――――――




「ふう……」


 戦いが終わり、体の力を抜いた。

 アクスとセルは、しばらく動けないだろう。

 アクスには手痛い一撃をお見舞いしておいたし……

 セルは、そのアクスを介抱しないといけない。


 俺達を止めることはできない。


「大丈夫か?」

「……あのな、いちいち俺達のことを気にしてるんじゃねえよ」


 声をかけると、アクスは呆れたように言った。


「お前、アホか? 俺達は、今さっきまで戦っていたんだぞ? 俺はレインにとって敵だ。敵のことなんか心配するな」

「それでも、気になるさ」

「ったく……とんだお人好しだな。あまちゃんもいいところだ」

「でも、それがレインのいいところだよね」


 カナデがにこにこと言う。


「っていうか、あたし達が勝ったのにそんなこと言うなんて、むなしくない?」

「うっ……」


 タニアのツッコミに、アクスは気まずそうな顔をした。

 ちょっとは自覚があったらしい。


「……じゃあ、俺達は行くよ」


 二人のことは気になるが……

 でも、これ以上、時間をかけることはできない。

 討伐隊がイリスと交戦しているかもしれないからな。

 一足先にたどり着いて、イリスを封印しないと。


「言っておくが」


 最後の悪あがきというように、アクスが声を振り絞る。


「俺は認めねーからな」

「……」

「レイン、お前がやろうとしていることは、俺は認めない」

「そっか」

「甘すぎるんだよ、お前は」

「そうなのかもしれないけど……でも、他にどうしようもないんだ。俺にとっては、こうすることが最善の道なんだ。なら、それを信じて突き進むしかないだろう?」

「……バカやろうが」


 そこで力尽きたらしく、アクスは気絶した。

 そんなアクスを、どこか愛しそうに見て、支えながら、セルが言う。


「もうレイン達を引き止める人はいないわ。後は好きにして」

「そうするよ」

「一つだけ、言わせてもらうなら……私も、アクスの意見に賛成ね。だからこそ、こうして、レイン達と戦ったわけだし」

「わかっているよ」

「……さようなら」

「ああ、さようなら」


 それは、アクスとセルとの縁が完全に切れた瞬間だった。

 一時とはいえ、一緒に旅をした仲間だけど……

 もう、あの楽しい時間は二度と戻らない。


 それ以上、言葉を交わすことはなく……

 俺達は、その場を後にした。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の主義主張を曲げない固い意思が感じられる。 [気になる点] この場合、主人公一行はこの時点で犯罪者として、手配受けると思う。 協調性に掛け、自分勝手と言わざるえない。自分がしたいことな…
[良い点] 振り返ると、引けない戦いがここにもあったことがに気づきました。 読み返すと、メモリーがたくさんありますね。
[一言] 感想でもなんでもないけど今の今まで「お前、アホか?」を「お前、ホモか?」って思ってた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ