174話 急転直下
一週間が経過して……
ソラとルナの特訓が完了した。
二人は無事に封印魔法を習得することができた。
それと、約束通り、長老からアイテムを譲り受けることができた。
『真紅の涙』。
深く透き通るような赤の宝石だ。
ただの宝石ではなくて、魔法の触媒として使われるものらしい。
これならばイリスを封印する器として問題ないだろう、と太鼓判を押された。
封印魔法を覚えて、それに必要な器も手に入れた。
これで準備は万全だ。
「ありがとうございました」
里と外を繋ぐ出入り口へ移動して……
見送りに来てくれたアルさんと長老に頭を下げる。
「この里のことがある故、妾はついていくことはできぬが……お主らならば、無事にやり遂げることができるじゃろう。健闘を祈っておるぞ」
「人間がどうなろうと構わないが……まあ、せいぜいがんばるといい。精霊の里の宝を持ち出すのだから、それなりの成果を出してもらわないとな」
「はい」
二人の激励を受け取り、やる気が出てきた。
「必ず、イリスを止めてみせます」
「うむ、その意気じゃ!」
アルさんの言葉に見送られるように、俺たちは精霊の里を後に……
「……レインと言ったな」
後にしようとしたところで、長老に声をかけられて足を止めた。
「はい?」
「己の立ち位置を見失ったのならば、もう一度、この里を訪れるがいい。その時に抱いているであろうお前の疑問に答えてやれるかもしれぬ」
「えっと……それは、どういう?」
「わからないのならば、今はその時ではないということだ。ただ、この言葉を覚えておけばいい」
自分の立ち位置を見失う……か。
それは、どういう状況なのだろう?
よくわからないが……
精霊の里の長老の言葉だ。
きっと、なにかしら深い意味があるのだろう。
俺は、その言葉をしっかりと胸に刻み込んだ。
――――――――――
精霊の里を後にして……
洞窟を出て、パゴスの村跡へ移動した。
「んーっ、なんか久しぶりな感じ」
カナデがぐぐっと背伸びをした。
他のみんなも似たような感じで、久しぶりの空気を肌で感じている。
「これからどうするんや?」
「もちろん、イリスを探す」
そして、封印する。
「イリスはどこにいるのかしら?」
タニアはそう言いながら、軽く周囲を見回した。
無論、イリスが見つかることはない。
荒れ果てた家屋が並ぶだけで、俺達以外の人影はない。
「まだどこかに隠れているのかしら?」
「どうだろうな……あれから一週間経つから、動き出していてもおかしくない気がする」
以前戦った時に、それなりの傷を負わせたものの……
イリスほどの力を持つ最強種ならば、一週間で怪我は完治してしまいそうだ。
そう考えると、すでに活動を再開していてもおかしくない。
……あまり時間はないと考えた方がいいかもしれないな。
「とりあえず、ジスの村へ行ってみよう。今は、あそこが最前線になっているはずだから……色々と詳しい状況を聞けるはずだ」
「そうね」
「みんなもそれでいいか?」
「らじゃー!」
カナデを始め、みんなが頷いてくれた。
賛成が得られたところで、ジスの村へ向かう。
――――――――――
急いで移動したこともあり、半日ほどでジスの村へ辿り着くことができた。
村は以前と変わりなく……いや。
「人が少ない……?」
元々のジスの村人と、避難してきたパゴスの村人達。
それ以外に、ちらほらと冒険者を見かけるものの……
討伐隊の姿が見当たらない。
あれだけの数だ。
その全てが家の中に収まるはずもなく、外で野営をしているはずなのだけど……
野営のテントは見当たらない。
嫌な予感がした。
「悪い、ちょっといいか?」
村の入口で番人をしている冒険者に声をかけた。
「イリスの……悪魔の討伐隊がここに来ていただろう? 彼らはどこに?」
「ん? あんた、知らないのか?」
冒険者の口から、恐れていた話が飛び出る。
「ここから東に行ったところに遺跡があるんだが……そこで悪魔が発見されたんだよ。討伐隊は悪魔を倒すために、村を出ていったよ」
やっぱりか!
「それはいつのことだ!?」
「え? 半日くらい前のことだけど……」
「そっか……ありがとう、教えてくれて助かった!」
話を切り上げて、みんなのところへ戻る。
「イリスは見つかった?」
「東の遺跡にいるらしい。ただ、討伐隊も半日の差ですでに出発したみたいだ」
タニアの問いかけに、俺は焦りを含めながら、そう答えた。
「わわっ、それ、大変だよ! にゃうー」
「ここ、から……遺跡まで、どれくらい……?」
「以前に聞いたけど、一日ほどらしいで」
ニーナの質問に、ティナがヤカンの蓋をパカパカさせながら答えた。
「一日、なら……まだ、間に合う……ね」
「うんっ、急げばなんとかなるかも!」
「みんな、とりあえず村の外へ」
何か考えがあるらしい。
タニアに促されて、俺達は人目につかない村の外へ移動した。
「にゃー、どうするの?」
「こうするのよ」
タニアの体が輝いて、光に包まれる。
やがて、その光はどんどん大きくなり……
光が弾けた時、巨大なドラゴンが俺達の目の前に現れた。
「にゃー……タニアなの?」
「あたしの背中に乗って!」
タニアが吠えるように言った。
「なるほどです。これならば、討伐隊に追いつくことができますね」
「しかし……むう、乗りにくいな。タニアよ。座席とかついていないのか?」
「あたしは馬車じゃないのよ」
ソラとルナがさっそくタニアの背中によじのぼる。
続けて、ニーナとティナが。
それから俺。
最後にカナデがタニアの背に乗る。
「みんな、しっかり掴まっててよ!」
タニアが巨大な翼を羽ばたかせて……
一気に空に飛び上がった。
「っ」
速い。
風を裂いて飛んでいるみたいで、気を抜いたら放り出されてしまいそうだ。
でも、これだけの速度だ。
討伐隊に追いつくことは不可能じゃない。
わずかな希望が見えてきた。
「頼んだぞ、タニア!」
「ふふーん、このあたしに任せて……っ!? みんな、しっかり掴まって!」
タニアは危機感を含んだ声で、そう警告してきた。
反射的に、みんなはタニアの鱗にしがみついた。
タニアは空中で急旋回をする。
その直後……
さっきまでいた場所を、高速で光の線が駆け抜けていく。
「にゃ、にゃにが起きたの!?」
「あれは……!」
視線を下に向けると……
アクスとセルの姿があった。
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