173話 覚悟
長老が出した試練を無事に乗り越えることができた。
封印に必要なアイテムをもらいうけて里を出る……というわけにはいかなかった。
伝説級のアイテムは厳重に管理されていて、簡単に持ち出すことができないらしい。
多重にかけられた封印を一つ一つ解いて……
それなりに時間がかかるとのことだ。
あと、色々と手続きも必要らしい。
まるでお役所仕事だ。
アリオスに頼まれて『真実の盾』を持ち出した時は、相手が勇者ということで、その辺りの手続きも省略されたらしいが……
今度は普通の人間なので、省略することはできず、長々と手続きをしなければならないとのこと。
それと、もう一つ。
イリスを封印するための魔法を、ソラとルナが習得する時間が必要だった。
コーチはアルさんだ。
アルさんの話によると、本来は習得に一ヶ月ほどかかるらしいが……
ソラとルナならば、一週間で習得できるとのこと。
二人は、それだけの才能があるらしい。
なので、最低でも一週間、精霊の里に滞在することになった。
もどかしい。
一週間も外に出ることができないなんて……
こうしている間に、イリスが活動を再開したら?
そして、手遅れになってしまったら?
そう考えると、いてもたってもいられなくなる。
「にゃー、レイン」
気がつくと、カナデが近くにいた。
声をかけられるまで、その存在にまるで気が付かなかった。
あれこれと考えすぎて、思考の渦に囚われていたみたいだ。
「難しい顔、しているね。イリスのことを考えているの?」
「ああ、そうだな」
「……そういう理由じゃない、っていうのはわかってるんだけど……むー、ちょっとジェラシー」
「うん?」
「にゃ、にゃんでもないよ?」
カナデがあたふたと手を横に振る。
「少しは落ち着いた方がいいよ。焦ってもいいことないし、今は待つしかないし」
「それはわかっているつもりなんだけど、どうしても……な」
「にゃあ……」
カナデが少し考えるような顔をして……
それから、
「にゃあ!」
えいや、という感じで抱きついてきた。
「か、カナデ?」
「……」
突然のことに驚いてしまう。
カナデは顔を真っ赤にしながらも……
ぎゅっと、俺に抱きついてきた。
それは、俺の不安を鎮めるようなもので……
温もりを分け与えるようなもので……
少し恥ずかしくはあったけれど、不思議と心が落ち着いた。
「……どう、かな?」
「どう、って言われても……」
「落ち着いた?」
「少し」
「えへへ、よかった」
カナデがニッコリと笑う。
「お母さんにこうしてもらったことがあるんだ。そうしたら、すっごく落ち着くことができて……」
「そうなのか……」
「えと、あの……だ、だから! レインにも落ち着いてほしくてこうしてるだけで、へ、変な意味はないからね!? ないんだよ!?」
「わかっているよ。妙な勘違いはしないから」
「むぅ……そうやって物分りがよすぎるのもどうかと思うよ」
どうしろと?
「とにかく……ありがとうな、カナデ」
「にゃふぅ」
そっと離れて、カナデの頭を撫でた。
カナデの尻尾が、うれしそうにゆらゆらと揺れた。
でも、うれしそうな顔は長続きしないで……
憂いを帯びた表情に変化する。
「……ねえ、レイン」
「うん?」
「これから、っていう時にこんなことを聞くのはダメダメだと思うんだけど……でも、どうしても確認しておきたくて。聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「もしも……どうしようもならなくなったら、その時はどうするの?」
カナデの問いかけは、俺の心の深いところに突き刺さった。
どうしようもならなくなる。
それは、イリスに関することだろう。
イリスを封印しようとしているけれど……
それに失敗したら?
力づくで止めることもできなくなったら?
拘束することもできなくなったら?
ありとあらゆる手段が失われた時……
その時、俺は、どんな行動に出るのか?
カナデは、そのことを問いかけているのだろう。
「俺は……」
目を閉じて考える。
俺がとるべき行動は?
イリスをどうしたい?
どんな結末を迎えたい?
考えて、考えて、考えて……
それでも、俺の答えは変わらない。
最初から一つだった。
「それでも俺は、諦めないよ」
目を開いて、ハッキリと言った。
「にゃー……レイン」
「この命を賭けて、イリスを止めてみせる。イリスを殺す以外の選択肢を選び、掴み取ってみせる。それは、最後の最後まで諦めない。動けなくなるその時まで、最後の時まで……抗ってみせる。俺は……イリスを助けたいんだ。ひどい思い出ばかりを積み重ねてきて、絶望ばかり味わってきて……そんな人生なんてあまりにもひどいだろう? そうやって……いつか、イリスの心からの笑顔を見ることができたらな、って思っているよ。それが俺の答えだ」
言葉にすることで、不思議と覚悟が決まった。
本来ならば、いざという時は殺すことを覚悟しないといけないのかもしれない。
でも、それは逃げではないだろうか?
助けると誓ったはずなのに、土壇場で方針を転換するなんて……一貫した行動じゃない、芯がブレている。
そんなことにならないように……
この想いを貫くことができるように……
俺は、今、ハッキリと心を定めた。
そんな俺の決断に対して、カナデは……
「にゃー♪ それでこそレインだよ♪」
自分のことのように、うれしそうに笑うのだった。
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