17話 ビーストテイマーの戦い方
カナデと契約をして……
最強種の力を手に入れて……
少し、自惚れていたのかもしれない。
ドラゴンに殴り合いで挑むなんて、バカげてる。
俺は、ビーストテイマーだ。
ビーストテイマーらしく戦わないとな。
「カナデ……5分……いや、3分、時間を稼げるか?」
「うん、りょーかい♪」
即答か。
頼もしいな。
「時間を稼いでくれたら、後は俺がなんとかする」
「おっけー! じゃあ、全力でいくね♪」
「任せた!」
「作戦会議は終わった?」
どうやら、タニアは律儀に待ってくれていたらしい。
人間だからと、侮っているのかもしれない。
だとしたら、そこにつけ入る隙がある。
「いっくよーっ!」
「むっ?」
カナデがダッシュした。
残像が残るんじゃないかというくらいの高速でタニアに迫り、拳を連打する。
まるで嵐だ。
「もっといくよっ!」
独楽が回転するように、カナデがくるっと回る。
捻りを加えて、蹴撃を追加した。
拳と足による乱打。
さすがのタニアも、ガードに専念せざるをえない。
「いきなりそんなに飛ばしていいのかしら!? スタミナは大丈夫っ」
「あとはレインがやってくれるから、そこは気にする必要ないんだよ!」
おい。
作戦をバラすな。
っと、俺ものんびりしてる場合じゃない。
カナデから得た力を使い、橋の欄干に飛び乗る。
「……」
気配を研ぎ澄ませて、周囲を探る。
目的は、とある『鳥』だ。
カナデの力があるおかげなのか、これ以上ないくらいに集中できた。
周囲、数キロに渡り、気配を探ることができる。
そして……
「見つけた!」
うっすらと見える、空を駆ける鳥の姿。
そちらに向かい、ビーストテイマーの力を飛ばす。
「来いっ!!!」
勘違いされやすいが、ビーストテイマーは契約をしなくても、ある程度、対象をコントロールすることができる。
『待て』とか『来い』とか『立ち去れ』とか。
そういった、極々単純な命令なら、言うことを聞かせることが可能だ。
尤も、ただの動物だから通用することであり、タニアのような最強種に命令をきかせることはできない。
でも、今はこれで十分だ。
「キィッ!」
俺の言葉に応じて、鳥が羽ばたき、こちらにやってきた。
その数、おおよそ10羽。
黒とオレンジの二色の極端な色をした、『ピトー』という鳥だ。
タニアと小競り合いをしている中、コイツの姿が見えたんだけど……
間違っていなくてよかった。
「よーし、いい子だ」
10羽のピトーと仮契約を交わした。
これで、より複雑な命令を下すことができる。
ここまでにかかった時間は、おおよそ3分。
ぴったりだ。
ピトーたちと一緒に欄干から降りて、カナデに向けて叫ぶ。
「カナデ、後は任せろ!」
「うんっ、任せたにゃ!」
カナデと交代すると、タニアが不敵な笑みを浮かべた。
「あら、今度はあんたが相手になってくれるの? 猫霊族を使役してることは褒めてあげるけど……所詮は人間。本気を出したあたしの相手になるかしら?」
「相手をするのは……コイツらだ! いけっ」
ピトーたちに命令を下した。
一斉に羽ばたいて、タニアの元に殺到する。
タニアに群がり、その鋭いくちばしや爪で攻撃する。
「ちょっ、なによこれ!?」
「そいつらをテイムした。今は、俺の言うことをなんでも聞くぞ」
「この子たちを全員テイムしたの!? うっそ、そんなことありえないんだけど!」
カナデも驚いていたが……
複数の動物をテイムすることは、そんなにおかしいのだろうか?
「でも……だからなんだっていうの? 複数の動物をテイムできるなんて、それは驚いたけど、こんな鳥をけしかけてどうするつもり? 言っておくけど、ぜんぜん痛くないわよ? それとも、ダメージ目的じゃなくて、あたしの視界を塞ぐのが目的とか?」
「そんなことしても、タニアなら一瞬で鳥たちを薙ぎ払うことができるだろ?」
「そうね。無駄なことね。っていうか、うっとうしいから、そろそろホントにそうしようかしら?」
「悪いが、それは無理だ。やるなら、さっさとそうするべきだったんだよ」
「え?」
タニアが不思議そうな顔をして……
次の瞬間、その表情が歪んだ。
「な、なにこれ……体に、力が……うっ……」
ふらふらとよろめいて、タニアはその場に膝をついた。
「あんた……な、なにをしたわけ……?」
「鳥だからって油断したな。そいつらは、猛毒を持った特殊な鳥なんだよ」
「ど、毒……?」
「見るからにやばそうな色をしてるだろ? 警戒色っていって、私には毒がありますよー、ってアピールしているんだよ。ピトーは、そういう鳥なんだ」
「くっ……たかが、鳥ごときに私が……あぅ……」
「無駄だ。ピトーの毒は、場合によっては人が死ぬほどの強力なものなんだ。それが10羽分。いくらドラゴンとはいえ、ノーダメージなんてわけにはいかない。ドラゴンだから死ぬことはないと思うが……しばらくは動けないだろう。これで、終わりだ」
合図を出して、ピトーたちを解放する。
ピトーたちは空高く飛び上がり……
その場に残されたタニアは、立っているのも辛いらしく、がくりと地面の上に倒れた。
「うぅー……ゆ、油断したぁ……ち、力押しならともかく、こんな方法で負けるなんてぇ……」
「自分一人で事を成し遂げようとしないで、誰かと一緒に協力をする……これが、ビーストテイマーの戦い方だ。これはこれで、良い方法だと思わないか?」
「……そう、かも」
「で……まだ続けるか?」
「……やめとく。しばらく、体動きそうにないし……はふぅ……疲れちゃった」
「じゃあ、俺とカナデの勝ち、っていうことで」
「オッケー……あたし、タニアは……負けを認めるわ」
思いの外、素直にタニアが降参してくれた。
突然、決闘を申し込まれたり、破天荒な行動が目立つけれど……
悪い子じゃないのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
「レインーっ!」
「おわ!?」
カナデが走り寄ってきて、そのまま抱きつかれた。
「すごいねすごいねすごいね! 本当にタニアに、ドラゴンに勝っちゃうなんて……しかも、鳥の毒を使うなんて! ビーストテイマーの技量はもちろん、深い知識がないとできないことだよ! やっぱり、レインはすごいにゃ♪」
「あ、ありがとな」
「にゃふー♪ レインの勝ち、レインの勝ち♪」
「お、落ち着け、カナデ。喜ぶ気持ちはわかるが、その前にしておかないといけないことがある」
「しておくこと? えっと……タニアにおしおき?」
倒れているタニアが冷や汗を流したような気がした。
「おしおきはしないが、色々と話をしたいから……タニアを街に連れていこう」
「あたしを……他の人間に売るつもり……?」
「そんなことしない。言っただろう? 話をしたい、って。俺としては、なるべく穏便に事を済ませたいんだ。そのために、タニアと色々と話をして、もうあんなことをしないように約束してもらわないといけない」
「……そんなこと、聞けないって言ったら……?」
「その時は……どうしよう、困ったな? 色々と想定外のことが多すぎて、そこまでは考えてなかった……できれば、俺の説得を受け入れてほしいんだけどな……うーん」
「……ぷっ、あはは!」
タニアが楽しそうに笑った。
「あんたたちが……勝った、のに……なんで、困ってるのよ……おかしい、ホントにおかしい……」
「そう言われてもな……割と本気で困っているんだぞ?」
「変な人間ね……いいわ、あんたたちと一緒に行ってあげる。それからどうするかは、まだ、なんとも言えないけど……話をするだけ、してあげる」
「助かるよ」
「ただ……」
「ただ?」
「もうちょっと……待って、くれる? 毒のせいで……体が痺れて……あぅ、動けない……」
「痺れてるの? ちょんちょん、ちょんちょん」
「あっ、こ、こらっ……つ、突くんじゃないわよっ、今、そこは……ひゃ、ひゃあああっ!?」
いまいち、締まらない結果になったが……
ひとまず、タニアとの戦いは終わった。
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