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168話 精霊の里へ

 イリスを封印するためには、伝説級のアイテムを器にしなければならない。

 そのアイテムを手に入れるために、精霊の里へ赴く。


 今後の方針が決まり……

 そして、さっそくそれは実行される。


「では、ゆくぞ。準備はよいか?」


 アルさんの問いかけに、みんな揃って頷いた。

 それを合図にして、アルさんはなにもない方向を向いて……

 パンッ、と手を叩く。


 すると、その音に反応するように、空間が揺らいだ。

 水に石を落としたように、ゆらゆらと波紋が宙に広がる。


「これが入り口じゃ。妾についてこい」


 アルさんはそう言って、ゆらぎの中心に進んだ。

 キィン、と甲高い音が響くと……

 アルさんの姿は消えていた。


「にゃ!? 消えた!?」

「精霊の里に移動したのです」

「ほら、みんなも行くのだ」


 驚くカナデとは正反対に、ソラとルナはさすがに落ち着いていた。

 アルさんがそうしたように、ゆらぎの中心に進み……そして、消える。


「あそこが入り口、っていうところか。どんな原理か知らないが、別の場所……精霊の里に繋がっているんだろうな」

「にゃー……大丈夫かな? 変な場所に放り出されないかな?」

「大丈夫でしょ。そうなる時はカナデだけよ」

「にゃんで!?」

「よいしょ……っと」


 カナデとタニアがじゃれている間に、ヤカンを持ったニーナがゆらぎの中へ足を踏み入れた。

 一番小さいのに、一番度胸があった。


「カナデ、タニア。俺達も行くぞ」

「うー、了解」

「ほら。いつまで尻込みしてるのよ」


 タニアに押されて、カナデ達がゆらぎの中へ足を進めた。

 それに続いて、俺もゆらぎの中に入る。




――――――――――




 白い光と浮遊感に包まれる。

 それが10秒ほど続いて……

 その後、一気に視界が開けた。


「これは……」


 視界の端から端まで、全てが緑で埋め尽くされていた。

 森の中にいるように、草木に囲まれている。


 自然があふれる中で人工物は少ない。

 巨大な木を利用して作られた家と、木の板が組まれた足場が見えるくらいで、その他に人工物らしきものはない。


 水場の代わりなのか、透き通るように綺麗な泉が見えた。

 明かりの代わりなのか、ふわふわと光が飛んでいる。

 たぶん、光を放つ虫の一種なのだろう。

 どこかでそんな種がいると学んだ覚えがある。


「にゃー……すごいね」

「ホント……ここが精霊族の里なのね」


 幻想的な光景に圧倒されているらしく、カナデとタニアはぼーっとしていた。


「皆、揃っておるな?」


 少し進んだところにある広場にアルさんがいた。

 アルさんのところまで移動する。


「妾と娘達は、これから里の者に話を通してくる。皆は、ここで待っているのじゃ」

「それはいいんだけど……」

「私達、とって食べられたりしない?」


 タニアとカナデが不安そうな顔をした。


 それも仕方ない。

 さきほどから、あちらこちらから視線を感じる。

 そちらの方向に目をやると、サッと誰かが引っ込んでしまう。

 見られていることは間違いない。


 そして、その視線は好意的なものではない。

 ある程度、好奇心もあるのだけど……

 そういう視線を向けられているのはカナデ達だけで、俺に対しては、警戒や敵対心といったような意味合いを持つ視線が多い。


 たぶん、俺が人間だからだろう。

 精霊族の天敵と呼べるような存在が突然現れて、向こうは警戒しているのだろう。


「やっほー♪ おじゃましまーす」


 何を思ったのか、カナデがいきなり元気よく挨拶をした。

 にこにこ笑顔で、姿を見せない精霊族に向かって手を振っている。


 それを見て、タニアがちょっと引いた顔を作る。


「あんた、何してるの……? 壊れた?」

「なんかひどい評価!?」


 ガーン、というような顔になった。


「違うよ。なんか警戒されてるみたいだから、私達はなんでもないよー、友好的なんだよー、って示そうと思って」

「まあ、カナデの能天気さをアピールすることはできたかもね」

「能天気……」


 続けて、なにやらショックを受けていた。


「カナデの気遣いはうれしいけど、あまり意味ないだろうな」

「なんで?」

「ここに俺がいることが問題だろうから」

「あ、そっか。レインは人間だから……」

「正確にいうとウチも人間やけど、今はこんなナリやからなあ」


 ティナがヤカンの蓋をぱかぱかさせながら、そう言った。


「むう」


 なぜか、カナデがふくれっ面になる。


「どうしたんだ?」

「レインは悪い人なんかじゃないのに。それなのに、なんかこう、警戒されるのが納得いかなくて……うにゃあああ、もやもやする!」

「ありがとな」

「ふわっ!?」


 つい条件反射で、カナデの頭を撫でてしまう。


「そう言ってくれるだけで、俺は嬉しいよ」

「えっと、その……う、うん」


 やけにカナデがしおらしい。

 どうしたのだろうか?


「待たせたのう」


 カナデの様子を確かめる前に、アルさん達が戻ってきた。


「早いですね」

「お主らを長時間放っておくわけにはいかないからな。急いだのじゃ」

「母上は里でも上から数えた方が早いくらい、歳をとっているからな。そんな母上の言葉なら、皆は無視できないのだ」

「カナデの母親ほどではありませんが、母さんはけっこう偉いのですよ」


 娘二人が自慢するように言う。


「にゃー、すごいんだねえ」

「っていうか、何歳なのかしら?」

「妾は永遠の17歳なのじゃ」


 きっぱりと言われてしまい、誰も反論ができないのであった。




――――――――――




 アルさんの案内で、長老の家にやってきた。

 樹齢何千年というような巨大な木を利用して作られた家は、とても広い。

 俺達全員が入っても、まだスペースに余裕があった。


「さて……お主がアルの言う人間か」


 初老の精霊族が対面に座る。

 この人が『長』なのだろう。


 顔に深く刻まれたしわ。

 長く蓄えられたひげ。

 それと、長い時を生きてきたものだけが得られる風格を備えていた。


 こうして対峙しているだけで、圧を感じる。

 緊張してしまうものの……

 ここで飲まれてはいけない。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けて、長の視線をまっすぐに受け止める。


「ほう」


 長が感心するような声をこぼした。


「人間のわりに、なかなか肝が据わっているな」

「えっと……どうも」


 今のは、褒められたのだろうか?

 だとしたら、幸先が良い。

 このまま、俺の望む展開に……


 なんてことを思うのだけど、それは甘かった。


「回りくどい話は好かん。なので、すぐに本題に入るとしよう。お主、里にあるアイテムを使いたいらしいな?」

「はい、実は……」

「いい、理由はさきほどアルから聞いた。その上で、わしはこう答えよう。協力はしない……とな」

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