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166話 なのじゃ

 山の麓へ移動したところで、小さな洞窟を見つけた。

 草木に隠れていて、一見するとわからない場所に入り口があった。


「狭いわね……」

「ふにゃ!? 私の尻尾触ったのだれ!?」

「すまない、我なのだ。もちろん、わざとなのだ」

「わざと……なんだ」


 洞窟の中は一人が歩くのがギリギリという感じで、なかなか奥に進むことができない。

 それでも、ソラとルナが、この奥に精霊の里に繋がる道があるというのだから、引き返すことはできない。

 怪我をしないように注意しながら、慎重に足を進めていく。


 そうして、歩くこと約1時間……

 俺達は洞窟の最深部にたどり着いた。


「ここは……」


 最深部は今までとは違い、洞窟の中とは思えないほどに広かった。

 ちょっとしたスポーツができそうなくらいの広さがあり、また、高さもある。


「これ、自然にできたものなのかしら?」

「うーん……それは考えづらいなあ。こんな見事な球形なんて、めったにないで?」


 タニアの疑問に、ティナがそんな見解を示した。

 俺もティナに賛成だ。

 広場は綺麗な球形になっていて、人の手が入っているようにしか見えない。


 いや。


 正確に言うと、精霊の手、だろうか?


「ここが精霊の里の入り口なのか?」

「うむ。そうなのだ」

「しかし、おかしいですね……見張りがいないみたいです」


 ソラの言う通り、誰の姿も見えない。


 しかし、本当に門番がいないのだろうか?

 姿が見えないだけで、なんていうか、こう……

 圧迫感のようなものを感じる。


 それと……視線。

 誰かにじっと観察されているような、そんな視線を感じる。


「ソラ、本当に誰もいないのか?」

「え?」

「どうしたのだ、レイン? 見ての通り、誰もいないぞ」

「そうなんだけど……なんか、気配がするんだよな」

『ふむ……男の方は合格じゃな』

「っ!?」


 不意に声が響いた。


 慌てて周囲を見回すが、俺達以外に誰もいない。

 それなのに……

 続けて声が響く。


『姿も気配も完全に遮断したはずなのじゃが……それなのに、妾に感づくとは立派なものじゃ。褒めてやるぞ。それに比べて、妾の娘達ときたら……まったく、これだけ近くにいるのに気づかないとは、情けない限りじゃのう』

「そ、その声は……!?」

「母さん!?」


 ソラとルナが驚きの声をあげた。

 それに反応するように、洞窟の中央の空間が蜃気楼のように揺らいだ。


 姿を見せたのは、背中に光の羽を持つ精霊族だ。

 ソラとルナをさらにコンパクトにしたように、背が低くて、体も小さい。

 見た目はまるで子供なのだけど……

 でも、不思議と子供らしさを感じない。

 矛盾しているのだけど、この場にいる誰よりも年上のように感じた。


 亜麻色の髪。

 白い肌。

 くりくりっとした瞳。


 ソラとルナにそっくりだ。

 二人の妹と言われたら納得してしまう。

 でも、本当は二人の妹ではなくて……


「母上……」


 ルナが目を丸くした。


「なのじゃ」


 娘が驚く様子を見て、ソラとルナの母親は、どこか満足そうに頷いた。


「久しいな、我が娘達よ。元気にしておったか?」

「う、うむ。我らは元気にしていたぞ。なあ、ソラよ?」

「は、はい。見ての通り、問題なく過ごしていますが……」

「ならばよし。門番の役目を放り出して外の世界へ行ったと聞いた時は心配したが……どうやら、良い出会いがあったようじゃな」


 ちらりと、ソラとルナの母親がこちらを見た。

 俺達の関係をある程度把握しているみたいだ。


 事前に話をすることなんてできないから……

 たぶん、この場を観察して、すぐに答えを導き出したのだろう。

 頭の回転の早い人だ。


「あの……」

「お主が娘達の保護者か?」

「いえ。保護者ではなくて仲間です。レイン・シュラウドっていいます。冒険者をしています」

「私はカナデだよ」

「タニアよ」

「えっと、えっと……ニーナ、です」

「ティナ・ホーリやで。こんな姿やけど、幽霊や」


 みんな、それぞれ挨拶をした。


「ほう……猫霊族に竜族。しかも神族も一緒ときたか。さらに幽霊もおるなんて……ふむ、珍しいパーティーじゃのう。皆、そこの小僧を中心に繋がっているみたいじゃな」

「まるで見てきたかのように言うんですね」

「ただの推理じゃ。おぬしら、いつでも動けるように……そして、そこの小僧を守れるように身構えているじゃろう? だから、小僧が中心なのではないか、と思っただけじゃ。簡単な推理じゃろう?」


 本当、頭の良い人だ。


「えっと……」

「ああ、すまぬな。まだ名乗っておらなんだ」


 なんて呼べばいいか迷っていると、ソラとルナの母親は失敬というように頭を下げた。


「妾は、アル。ソラとルナの母親であり、ここにある里への入り口の門番じゃ」

「アルさん……ですか」

「アルちゃん、と呼んでもいいのじゃぞ?」


 確かに、見た目だけで言えば『ちゃん』付けがふさわしい気がするが……

 さすがに、ソラとルナの母親をちゃん付けで呼ぶことなんてできない。


「アルさんで」

「なんじゃ、つまらないのう。妾もまだまだ若いと思うのじゃが……のう。ソラとルナもそう思うじゃろ?」

「母上は母上だからな。もう歳としか言いようがないぞ」

「というか、百年以上生きているのに、ソラ達と同じに見てほしいなんて、サバを読むにもほどがありますよ」

「むぐっ……しばらく会わないうちに、口が達者になりおって」


 アルさんは、子供っぽく唇を尖らせた。

 子供っぽくもあり大人っぽくもあり……

 よくわからない人だ。


「なにはともあれ」

「ふわ!?」

「ひゃ!?」


 アルさんはソラとルナを抱き寄せた。

 そのまま、二人の温もりに浸るように、顔を寄せる。


「元気にしていたみたいで安心したぞ」

「……母さん……」

「……母上……」


 ソラとルナの目に涙がにじむ。


「我がいない時に、大変なことになっていたみたいだな。傍にいてやれなくてすまぬ。でも、こうして元気でいてくれて……妾はうれしいぞ」

「うぅ」

「ひっく」


 ついに我慢しきれなくなり、ソラとルナは涙をこぼした。

 そのままアルに抱きついて……


「……しばらく、そっとしておいてあげようか」

「うん、そうだね」


 カナデを始め、みんなが頷いて……

 俺達は、親子の時間を過ごす三人を見守った。

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