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163話 決別

 俺達は特例として、調査班として行動することを許された。

 しかし、だからといって討伐隊がイリスと戦うことを待ってくれる、ということはない。

 イリスと戦うために準備を整えて……

 イリスが現れれば、即座に戦闘に突入するだろう。


 いかにイリスといえど、これだけの数の冒険者と騎士団を相手にすることは難しいだろう。

 一騎当千の力を持つイリスだけど、体力にも魔力にも限りがある。

 一人で戦う以上、いずれ、限界が来る。


 そして……討たれるだろう。


 そうなる前に、俺はイリスを止めなければいけない。

 殺すのではなくて、封印するという方法を持って、イリスを止めなければいけない。


 時間との戦いだ。

 急がなければいけない。


「おいっ、レイン!」


 会議が終わり、テントを後にして……

 みんなが待つ宿へ戻ろうとしたところで、アクスに呼び止められた。


 まあ……このまま黙って行かせてくれるわけないか。

 アクスとセルには、何も話していなかったからな。


 足を止めて、アクスとセルに顔を向ける。


「会議で言ってたこと、本気なのか?」

「イリスを封印する方法を探す、っていうことか?」

「ああ、それだ。マジで言ってるのか?」

「本気だ」

「どうしてだ?」


 アクスが険しい顔をした。


「相手は悪魔だ。村を壊滅させて、たくさんの人を殺した。そんなヤツを生かしておいたら、絶対にまた同じことが起きる。同じ悲しみがばらまかれることになる。それでいいのか、お前は!?」


 アクスは、何か思うところがあるのかもしれない。

 いつになく熱く、強い調子で問い詰めてきた。


 そこにセルが割り込む。


「落ち着きなさい」

「でもよっ!」

「いいから落ち着きなさい。今のアクスでは、冷静に話し合うことはできないわ。まずは、レイン達の事情を聞かないと……そうでしょう?」

「……わかったよ」


 渋々という様子でアクスが引き下がる。

 代わりに、セルが冷静な瞳をこちらに向けた。


「レインの考えはわかったわ。納得はしていないけれど……理解はした」

「そっか」

「でも、どうしてそんな考えに至るのかしら? 上は悪魔の討伐という決定を下した。それに、あんな存在を放置しておくわけにはいかない、と考えるのが普通よね? それなのに、レインはあえて封印という手をとろうとする。それは、どうしてなのかしら?」

「それは……」

「理由を教えてくれない?」


 ここまで来て、黙っておく……なんて選択肢をとるわけにはいかないか。


 この二人がどんな反応をするのか?

 それは、ある意味で予想がつくのだけど……


 俺は覚悟を決めて、昨夜の出来事を話した。


「実は……」


 イリスの過去。

 イリスの憎悪の源。

 それらを話して……

 それから、俺の思いを話した。

 殺したくないけど放置はできない。

 だからせめて、封印するという形でイリスを止める。

 そうして、イリスを助ける。


 考えていること、思っていること、全てを話した。


「……なるほどね」


 セルは冷静に俺の話を受け止めていた。

 しかし、アクスは……


「お前なぁ……敵に同情してどうすんだよ!?」


 怒っていた。

 イリスの感情に触れて、その色に染められた俺に対して、アクスは怒りを覚えていた。

 今までに見たことのない顔だ。

 本気で頭に来ているということがよくわかる。


「相手は何人も殺してるんだぞ!? 過去に酷い目に遭ったからといって、そんなことが許されると思ってんのか!?」

「許されないだろうな」

「ならっ……!」

「でも、それを言うなら、イリスの仲間を、家族を殺した俺達人も許されないだろう?」

「それはっ……でも、過去のバカがやったことだろう!」


 アクスの言うことは正しい。

 正しいのだけど……

 どこまでも正しい正論というものは、時に、感情を置き去りにする。

 感情抜きで答えを出してしまう。


 でも、俺達は人だから。

 感情があるから。

 どうしても、イリスの心のことを考えてしまう。


「あんなヤツを放置するつもりか? 言っとくが、改心するなんて可能性、まるっきりないぞ。断言してもいい。ヤツは、また人を殺す」

「わかっている。そこは同意見だ」

「なら……」

「だから、俺は封印という方法をとるんだ。これ以上、イリスに罪を重ねてほしくないから……死んでほしくないから……イリスを封印する」

「そんな身勝手なこと……」

「ああ、そうだ。これは、俺のわがままだ。イリスに死んでほしくないっていう、俺のわがままだ」

「っ……話にならねえな!」


 アクスが苛立たしそうに地面を蹴った。


 そんな行動をさせてしまうことを、申し訳なく思うが……

 それでも、譲ることはできない。


「……一つ、いいかしら?」


 今度はセルが口を開いた。


「例えばの話だけど……レイン達が悪魔……イリスを封印する方法が見つけられないうちに、ヤツが再び暴れたとする。そして、誰かを殺したとする。その場合、責任はとれるの?」

「……とれないな」

「そこは理解しているのね。それでも、レインは考えを変えないの?」

「変えない」


 俺の意思を示すために、きっぱりと言い切った。


「責任の話をするなら、俺達は……人は、イリスに対して責任を取らないといけない。そんなこともしないで、ただ殺すなんて真似は、認めちゃいけないんだ」

「相手は人殺しなのよ?」

「でも、そうなったのは人のせいだ。自業自得でもある」

「本当に助ける価値があると思うの?」

「価値なんてどうでもいい。俺がただ、そうしたいだけだ」

「呆れた理由ね」

「だから、さっきも言っただろう? これは、俺のわがままなんだ」


 これ以上、イリスに苦しい思いをしてほしくない。

 今まで、たくさん酷い目に遭ってきたのだから……

 ゆっくりと休ませてあげてもいいじゃないか。

 そう思うのは、いけないことなのか?


「ふぅ」


 セルが吐息をこぼした。


 それは……

 諦めの色を含んだ、俺達との決別の吐息だ。


「……わかったわ。レイン達は好きにするといいわ」

「おい、セル! こんな好き勝手許すっていうのか!?」

「仕方ないじゃない。こんなにも強い意思を持っているのだから。それに、レイン達に強制することができると思う? たくさんの最強種と、その最強種を従えているレイン達を力づくでどうこうできると思う?」

「それは……」

「できないでしょう? なら、放っておくしかないの」


 そう言って……

 セルは、一歩、後ろに下がった。


 俺とセルの距離は、近いようで果てしなく遠い。

 たった一歩の差だけど……

 その距離は、どんなことをしても埋められないものだと、本能的に悟ってしまった。


「レイン達は好きにするといいわ。私達は止めない」

「ありがとう」

「でも……私達は協力できないわ」

「……そっか」

「ああ、そうだな。セルの言うとおりだ。俺達は、これ以上、レインと一緒にいられねえな」


 それは、決別の宣言だった。


 ……こうなることは予想していた。

 二人は一流の冒険者だ。

 確実に契約というものを守り、また、確実に組織の命令に従うように生きている。

 そんな二人が味方になってくれる可能性は低いと思っていた。


 そう思っていたのだけど……

 いざ、別れが目の前になると寂しいものがあるな。

 短い間だけど、一緒に旅をした仲間だ。

 仲間が離れることは……やっぱり、寂しい。


「ここでお別れね。短い間だけど、楽しかったわ」

「俺も楽しかったよ」

「にゃー……ありがとうね」


 今まで黙って様子を見ていたカナデが、ついついという感じで、ぽろりと呟いた。

 カナデも、なんだかんだで二人に気を許していたみたいで、寂しそうにしている。


「私達は私達の道を行くけど……レイン達も気をつけて」

「けっ……綺麗事を言いやがって。悪いが、俺は付き合えないぜ」

「これが別れになるのだから、もっとちゃんとした挨拶をしたら?」

「こんなお人好し連中にかける言葉なんてないな」


 アクスはそっけないものの、複雑そうな顔をしていた。

 言葉ではきついことを言いながらも、それでも、俺達のことを気にかけてくれているのだろう。


 ……こんな二人と別れるようなことになってしまい、胸が痛む。

 それでも。

 俺は、前に歩くと決めた。

 イリスを救うと決めた。


 だから、後悔するような表情は見せず……

 前を向いて歩くように、手を差し出した。


「またな」

「……ああ」

「お互いにがんばりましょう」


 アクスとセルと握手を交わして……そっと、手を離した。

 そして、俺達とアクスとセルの絆は絶たれた。

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[気になる点] セルとアクス。二人の言っていることはもっともな正論。 ・・・だけど、現在(いま)のまだ人化していない彼女とその両親に同じことが言えるのか?
[一言] 無期限の封印も死も変わらないと思う。同情したつもりで、再度の封印というのは主人公のエゴ、自己満足に見えてしまう。何というか、ペットが飼えなくなったけど責任もって処分するのが「可哀想だから」出…
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