161話 己の道を
「……ふう」
夜風がひんやりとする。
知らない間に汗をかいていた。
やっぱり、あんなことがあった後で一対一で話すのは緊張するな。
でも、収穫はあった。
今までは、イリスのことを知らず、己の気持ちが定まっていないところがあった。
どこかで迷いを覚えていた。
でも、もう迷わない。
己の進む道を信じて突き進もう。
「とはいえ、みんなが納得してくれるかどうか……」
「みんな、って誰のことかしら?」
「それはもちろん……」
たらりと、冷や汗が流れた。
今までとは別の意味で緊張する。
「その声……タニア?」
「にゃー……私もいるよ」
「ソラもいます」
「我もいるぞ!」
「わたし……も、いるよ?」
「ウチもおるでー」
みんな、勢揃いだった。
夜だから、ティナはその辺りをふわふわと浮いていた。
「どうして……」
「あたし達を相手に、こっそりと抜け出すことなんてできると思う?」
「……できないな」
ソラやルナ、ニーナ辺りはごまかせるかもしれないが、カナデとタニアを相手に『こっそり』なんていうのは無理だろう。
「ましてや、覚えのあるとんでもない気配もするんだもの。気づかない方がおかしい、ってものよ」
とんでもない気配というのは、イリスのことだろう。
「そんなに丸わかりだったか?」
「注意してないと気づかないレベルだったけどね」
「でもでも、一度意識したら、簡単に気づくことができたよ」
どこか怒っている様子で、カナデが言う。
なんで怒っているのかは……
まあ、考えるまでもないよな。
勝手にイリスと会っていたなんて……心配をかけてしまったらしい。
「レイン、レイン。大丈夫? なにかされなかった? 腕、ついてる?」
「サラッと怖い心配をしないでくれ……腕はついてるし、どこも怪我はしてないよ」
「にゃふぅ、よかったぁ……」
「で……あの天族といったいなにをしてたわけ?」
問い詰めるような感じで、タニアがジト目を向けてきた。
そのタイミングで、他のみんなもジト目を向けてくる。
これは……ごまかせそうにないな。
「実は……」
仕方なく、俺はありのまま、正直に全てを話した。
――――――――――
「そう、なんだ……」
俺の話を聞いて……イリスの過去を知ったカナデは、なんともいえない顔をした。
他のみんなも同じだ。
イリスに対する同情が見てとれる。
「……でも、あたしは、イリスが正しいなんて思わないわ」
ややあって、タニアが迷いを断ち切るように、きっぱりと言った。
ニーナが悲しそうな顔をする。
「タニア、は……かわいそうだと、思わないの……?」
「……思うわよ。他人事なんだけど……自分のことみたいに、腹が立っているところもあるわ」
「それ、なら……」
「でも、イリスがやっていることは間違っているわ。正しい、なんていうことは絶対にない。当時の人達を殺すならともかく、今の人はなにも関係ないじゃない」
タニアが断言をする。
その言葉に、俺は……
「関係ないが……もう、そういう理屈じゃ止まらないんだろうな」
「止まらない、の……?」
ニーナがもどかしそうに言う。
そんなニーナの頭を撫でながら、俺なりに考えたイリスの心を語る。
「イリスにとって、過去も今も関係ないんだ。人間のことをひとくくりにして、仲間を……家族を奪った相手として憎んでいる」
「イリスに酷いことをした人は……もう、いないのに……?」
「それでも、止まらないんだよ。止められないんだよ」
「なん、で……?」
「言葉じゃ説明できないな……人の心って、理屈じゃ割り切れないことが多いから」
「ん……そう、なのかも」
ニーナなりに納得したらしく、悲しい顔をしたままだけど、それ以上の問いかけはなかった。
「にゃー……これから、どうすればいいのかな?」
「戦えなくなった?」
タニアの問いかけに、カナデが難しい顔をつくる。
「……ちょっと戦いづらいかな、とは思うよ。今までみたいにはうまくいかないかも」
「ま、気持ちはわかるけど……でも、覚悟を決めておいた方がいいわよ」
「にゃんで?」
「だって、討伐隊が来るんでしょう? それならもう、封印方法を探す必要なんてない。本格的に激突することになるでしょうね」
「……戦うことになるんだ」
その時のことを考えたらしく、カナデは複雑な表情を浮かべて……
次いで、こちらを見る。
「にゃー……それで、レインはどうするの? イリスと戦うの? たぶん、私達も応援に駆り出されるよね?」
「あっ、それは我も気になるぞ! レインはどうするつもりなのだ?」
「もしかして……イリスさんの過去を知り、戦うことができなくなった……ということに?」
ルナとソラも問いかけてきた。
口こそ開かないものの、タニアとティナも同じようなことを考えているだろう。
「戦うことはできる……けど、戦わない」
「にゃん?」
カナデが小首を傾げた。
「なんだ、その禅問答みたいな答えは? 我はちんぷんかんぷんだぞ」
「しっ、ルナは黙ってなさい」
「むがっ、むうううー」
ソラがルナの口をふさいだ。
こんな時になんだけど……
ソラとルナはいつもどおりだなあ。
でも、そんな二人の態度に癒やされるところがある。
「レイン、どういうこと?」
「ルナやないけど、レインの旦那の言いたいこと、よくわからんなー」
タニアとティナが揃って不思議そうな顔をした。
さて。
今から、俺が考えていることというか、決意を話すわけだけど……
みんなは賛成してくれるだろうか? 納得してくれるだろうか?
少しばかり不安になってしまう。
でも……隠し事はなしだ。
きちんと説明をして……
そして、できれば賛成してもらいたい。納得してもらいたい。
俺達は仲間だから。
「俺はイリスを止める。でも、戦って倒すとか、そういうことをするつもりはない。最初の予定通り、封印する方法を見つけて……それで、もう一度、イリスに眠ってもらうつもりだ」
「にゃるほど……だから、戦うけど戦わない、か」
「でも、どうしてそんなに固執するわけ?」
「このままだと……きっと、イリスは死んでしまうから」
「どうして、そんな結論に?」
タニアの問いかけに対して……
俺は、イリスとの会話を思い返しながら、その時の感情をもう一度胸に抱きながら、静かに答える。
「イリスからは、生きる意思っていうものをまるで感じなかった。死に場所を求めているようだった。きっと、イリスは復讐をして、どこまでも憎しみをぶちまけて……それで、死ぬつもりなんだと思う。仲間のところへ行くつもりなんだと思う」
「……にゃあ……」
その光景を想像したのか、カナデの耳がぺたんと沈む。
「でも俺は、イリスが死ぬなんてイヤだ。イリスが死んでいい子だなんて思えない。だから、俺はイリスの復讐を止める。イリスを生かすために復讐を止める。それが俺の出した結論だ」
「……」
みんな、黙って俺の話を聞いていた。
俺の次の言葉を待っている。
「俺は討伐隊が来ても、協力はしない。今まで通り、封印の方法を探すつもりだ。そうして、イリスを止めるつもりだ。でも、これは俺のわがままだ。でも……できれば、みんなにも……」
「いいよ」
カナデが俺の言葉を遮り、優しく笑う。
「えっと……まだ、最後まで言ってないんだけど……」
「私達にも手伝って欲しい、っていう話だよね? うん! 私なら問題ないよ。レインのためにがんばるっ」
カナデが拳をぐるぐると回して、ガッツポーズを見せた。
「あたしも異論はないわ。まあ、ホントは色々と言いたいことはあるけど……ご主人様がそう言うのなら、仕方ないものね。黙って従ってあげる」
「ソラも問題ありません。今の話を聞いて見捨ててしまうほど、ソラは薄情ではないので」
「ルナもレインに賛成だぞ! 我は寛大な心を持っているからな、ふはははっ」
「わたし、も……なんとか、したい。がん、ばる……!」
「ウチもレインの旦那に従うでー。って、言い方が悪いか。ウチも封印する方に一票や。討伐なんてしたら後味悪すぎるやろ」
「……ありがとう、みんな」
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