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16話 勝負

「さあっ、いくわよ!」


 先手はタニアだ。

 地面を蹴り、突貫してくる。


「いっ!?」


 ゴオッ、と規格外れの速度で迫る。

 慌てて横に飛んで避けた。


「やるわね。ちなみに、この一撃で、半分の冒険者が脱落してたわよ」

「最初の試練は合格ってことか?」

「まだまだ、試練はたくさんあるわよっ。ほら、ほらほらほら!」


 タニアは、すぅっ、と息を吸うような仕草をして……


 ゴァッ!!!


 ドラゴンらしく、火球を口から飛ばした。


「そんなのアリか!?」


 人に変身しているんだから、人にできないことはするな!


 今度は全力で避ける。

 右。

 左。

 後ろ。


 次々と連発される火球を、なんとか、全て避けることに成功する。


「うにゃー!? 熱い、熱いにゃ!!!?」

「か、カナデ!?」


 カナデの尻尾の先がちりちりと燃えていた。

 慌てて手ではたいて火を消す。


「うにゃあ……私の自慢の尻尾がチリチリに……」

「大丈夫か?」

「うん、これくらいなんてことないよ。でも……私、怒ったよ!」

「え?」

「ふふんっ、やる気になった?」

「私の尻尾の仇!」


 今度は、カナデが突貫する。


 大質量の砲弾を至近距離で撃ち出したような衝撃。

 しかし、タニアは真正面から受け止めてみせる。


「ぐっ、今のは、ちょっと驚いたわよ!」

「うにゃあああっ、私の尻尾!」


 カナデのラッシュ。

 カナデと契約したことで、身体能力が強化されている俺の目にも、拳を捉えることができない。


 そんな驚天動地の連打を、タニアは両手でさばく。

 二人は互角。

 ……と思われた時、タニアがくるっと回転する。

 そして、尻尾による一撃。


「にゃんっ!?」


 ドラゴンの尻尾は、それだけで凶器となる。

 鞭のように鋭い一撃を受けたカナデは、おもいきり弾き飛ばされた。


「カナデ!」


 吹き飛ぶカナデを空中でキャッチ!

 それでも勢いを殺すことができなくて、一緒に吹き飛ばされるが……


「くっ……この!」


 地面に手をついて、摩擦で減速する。

 なんとか体勢を立て直して、両足から着地した。


「ありがと、レイン♪」

「一人で突撃するな」

「にゃう……ごめんなさい」

「今度は、一緒に行くぞ」

「うんっ!」


 目と目を合わせて、タイミングを図り……

 突撃!


 左右から挟み込むように、タニアに殴りかかる。

 女の子相手に……と思わないこともないが、見た目は可憐な少女でも、中身はドラゴンなのだ。

 最強の竜族を相手にためらっていたら、一分と保たない。

 今の俺の全力で殴りかかる。


「ふっ!」

「やぁっ!」

「んっ……!!!」


 俺とカナデの一撃は、タニアの両手に阻まれた。

 左右からの攻撃を、それぞれ、片手で受け止めている。


 竜族っていうのは、猫霊族以上の怪物なのか!?


「せいやぁあああっ!!!」


 タニアは俺とカナデの手を逆に掴み、その場で回転。

 小さな竜巻が発生するほどにぐるぐると回り……

 そのまま空高く放り投げられる。


「うっ、にゃあああああぁっ!!!?」

「まずっ……!?」


 いかに身体能力が高くても、俺達は空を飛ぶことができない。

 今の俺達は、格好の的だ。


 事実、地上ではタニアが身構えて、再び火球を撃ち出そうとしていた。


「カナデ!」

「うんっ」


 体を槍のように細くして、落下の軌道を変える。

 なんとかカナデのところまでたどり着いて……


 空中で互いの足を蹴り合わせる。


 その反動で、体は横に飛んで……

 直後、さっきまでいた場所をタニアの火球が通り抜けていった。


 地面に着地。


 着地の瞬間を狙って撃ち出された火球も避けて、タニアと距離を取る。


「カナデ」

「にゃん?」

「よく俺の意図がわかったな」


 空中で互いを蹴り、その反動を利用してタニアの攻撃を避ける。

 そんなことを閃くものの、言葉にする時間がなく、即座に実行したんだけど……

 カナデは打ち合わせをしたように、完璧に応えてくれた。


「だって、レインの仲間だもん♪」

「……そっか」


 仲間。

 良い響きだった。

 勇者パーティーにいた頃には、決して得られなかった充実感を覚える。


「なかなかやるわね、あんたたち。あたしを相手に、十分以上保ったのは、あんたたちが初めてよ! 褒めてあげる♪」

「なら、ここら辺でやめにしないか?」

「はあ? なにバカなことを言ってるの? こんなに楽しいこと、やめられるわけないじゃないっ」

「そう言うと思ったよ」


 言うだけならタダと思い、停戦を申し出てみるものの、即座に却下される。


「もっともっといくわよっ!」


 再びタニアが突貫してきた。

 でも……二度目だから、それはもう通用しない!


「きゃあ!?」


 体を安全地帯に逃しつつ、タニアの腕と肩を掴み、相手の勢いを利用して回転。

 そのまま地面に叩きつける。


「いたたたっ……油断しちゃった。もう、こんな風にはいかないわよっ」

「それはどうかな?」

「言うじゃない!」


 タニアがくるっと回り、尻尾で一撃を加えてきた。

 鞭のように鋭い一撃を、地面を這うようにして避けた。

 そのまま駆けて、肉薄する。

 今度は両手を掴み、そのまま背負投げ!


「いったー!?」


 わりと本気でやっているのだけど、タニアは痛いと言うだけで、大してダメージを負っている様子がない。

 竜族の体力は無限なのか……?


「やるわね……なら、本気でいくわ!」

「マジかよ……あれで本気じゃなかったっていうのか」

「さあ、これはどうするかしら!?」


 タニアが大きく息を吸うような仕草をした。

 光が収束していく。


「あれは……!?」

「ドラゴンブレスだよ!」


 ドラゴンの必殺の一撃が放たれる。


 轟音と爆音と撃音。

 閃熱の奔流が、俺達に喰らいついてきた。


「レイン!」

「っ……わかった!」


 カナデがこちらをちらりと見て……

 その意図を察する。


 さっきのカナデも、こんな感じだったのかもしれない。

 これが、仲間ということなのかもしれないな。


「「せえええぇいっ!!!」」


 カナデとぴったりとタイミングを合わせて、拳を前に撃つ!

 全身全霊を込めた一撃。

 猫霊族とその力を借りた双撃は、強力な衝撃波を生み出して……


 ドラゴンブレスとぶつかり、相殺する。


「……」


 タニアが目を丸くした。


「呆れた……まさか、そんな方法であたしの必殺技を防ぐなんて」

「ふふーんっ、レインとの合体攻撃だよ♪」


 なぜか、カナデはうれしそうだ。

 あんなこと、打ち合わせもなしに即興で実行できたことは、息が通じ合っているようでうれしいが……


 できることなら、二度とやりたくない。

 寿命が縮む。


「ますます楽しくなってきたわ! さあ、これからは本気よ! 全力を出してあげるっ。心ゆくまで楽しみましょう♪」


 まずいな。

 ヘタに食い下がっていたせいで、タニアが本気になってしまった。


 カナデと一緒なら、負ける気はしない。

 が、周囲に対する配慮ができない。

 タニアと本気で激突したら、橋がどうなることか……


「……カナデ、ちょっとした作戦を思いついたんだけど、手を貸してくれるか?」

「私はいつでもレインの味方だよ♪」

「ありがとな」


 ここからは、俺らしく……ビーストテイマーらしく戦うことにしよう。

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