145話 最凶との戦い・2
「アッガス! リーン! ミナ!」
「くっ……大丈夫だ、問題ない」
アリオスの声に反応するように、アッガスが立ち上がる。
リーンとミナも、ふらふらしていたものの、致命的なダメージは負っていないみたいだ。
さすが、勇者パーティーというべきか。
アリオスだけではなくて、他の三人も、あの時に比べるとかなりレベルアップしているみたいだ。
「おい、レイン」
「なんだ?」
「僕にタイミングを合わせろ。一気にやるぞ」
「……わかった」
アリオスにあれこれ指示されるのは気に食わないものの、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
イリスという災厄をどのようにして対処するか。
そのことだけを考えないと……下手したら死ぬ。
そんな予感があった。
「みんなっ」
「うん!」
カナデを始め、みんながいつでも動けるように構えた。
「俺達もいるぜ!」
アクスとセルも、それぞれ武器を構えた。
「あら、あら。か弱い乙女を相手に、そのように数の暴力で押し切ろうなんて……恥ずかしくないのですか?」
「くっ、どの口がか弱いなどと……! 貴様が余計なことをするから、この僕が、このようなつまらない戦いに巻き込まれているというのに……ふざけたことを!」
アリオスがイリスを睨みつけた。
殺気すら感じられる鋭い眼差しに、イリスはまったく臆することがない。
まるで、そんなものは慣れている、と言いたげだ。
「さて、さて。勇者パーティーに……熟練の冒険者。そして……わたくしと同じ最強種、ですか。さすがに、少し厄介かもしれませんね」
「……そう思うのなら、投降してくれないか?」
「おいっ、レイン! 勝手なことを言うな。あの女はここで殺して……」
「戦力の差は理解しているんだろう? なら、無理をする必要はないと思わないか?」
アリオスが口を出してくるが、無視した。
イリスと手を組んでいたみたいだから、生きているとまずいと思っているのだろう。
まあ、それについては後回しだ。
とにかくも、今は、イリスの脅威をなんとかしないといけない。
うまい具合に戦うことなく、この場を終わらせることができれば、一番良いパターンなんだけど……
「投降? わたくしが? 人間に?」
イリスは、きょとんとして……
次いで、狂ったように笑う。
「ふふっ、うふふふ……あはははははっ! わたくしが人間に投降なんて……そのようなこと、するとでも? するわけがありませんわ! なぜ人間などに……人間なんかにっ!!!」
「っ」
狂気を孕んだ笑みと、燃えるような殺意が乗せられた瞳。
その二つを向けられて、ゾクリと背中が震えた。
なぜなのか、理由はわからないけれど……
イリスは人間に敵意を持っている。
深い憎しみを抱いている。
「……失礼。少し取り乱しました」
小さく笑い、イリスは仮初の笑顔を顔に貼り付けた。
取り乱しているところを見せたくないと思っているのか……
あるいは、自分の心を見せるような真似をしたくなかったのか。
「とにかく、投降するなんてありえませんわ」
「なら、ここで引き返すことは?」
「レイン様は、目の前においしそうな料理があるのに、それに手を出すようなことはしないのですか?」
「……料理、っていうのは、パゴスの村人の生き残りのことか?」
「ええ、もちろんですわ」
「趣味が悪いな」
「まあ、レイン様とは種族が違いますので。価値観も異なりますわね」
「種族の問題じゃないと思うが……まあ、それはいいか」
「おい、レイン」
アリオスが苛立った様子で口を挟んできた。
「いつまでくだらない会話をしている? さっさと仕留めるぞ」
「……わかっている」
心のどこかで、イリスと戦うことに抵抗感を覚えているけれど……
だからといって、ここで退くわけにはいかない。
降りかかる火の粉は払わなければ。
「あら、あら。怖いですわね。わたくし、泣いてしまいそうですわ」
イリスは笑い、
「怖いので……応援を呼びたいと思いますね」
そんなことを口にした。
「応援だと?」
「ふんっ、ハッタリだ。この周辺には、僕達と村人以外、誰もいない」
アリオスはそう断じてしまうけれど……
災厄と恐れられるイリスが、そんなハッタリを口にするだろうか?
「他に味方がいるというのなら、見せてほしいな」
「では、お披露目いたしますね」
イリスは、わざとらしく一礼してみせた。
それから、綺麗な声で呪を紡ぐ。
「我は汝。汝は我。
この右手に集うは力。この左手に集うは印。
力を与えよう。
故に、現界するがいい。
我が呼びかけに応じるものよ、ここに!」
イリスの足元に魔法陣が広がる。
それは時間が経過すると共に広がり、周囲の地面を覆い尽くした。
「なんだっ!?」
「こ、これは……」
アリオスが驚きに目を大きくした。
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「ふふっ……おいでなさい、地獄の死者達よ」
イリスの声に応えるように、魔法陣から魔物が出現した。
スケルトン、ケルベロス、デーモン……
ありとあらゆる魔物が出現して、その場にあふれる。
「これは……なんだ?」
「レインっ、あれは召喚魔法です!」
ソラが警告するように、鋭い声を発した。
「召喚? 以前やりあった、魔族が使っていたような……?」
「あれは自分の分身体を生み出していたものなので、ちょっと違います」
「どう違うんだ?」
「分身体は、宿主を倒せばそれで消えますが、召喚魔法の場合はそういうわけにはいきません。術者を倒したとしても消えることはありません」
「マジか……」
「それだけじゃなくて、分身体のような雑魚を生み出すだけではなくて、より力を持った高位の存在を呼び出すことができます。しかも、数の制限なしに」
「それは反則じゃないか……?」
「はい。反則に近い魔法ですよ。それ故に、使えるものは限られていました。過去に絶滅した天族しか使えないはずなのですが……」
「……イリスは天族みたいだから、その条件は満たしていることになるな」
「ふふっ。そこの精霊族の子、詳しいですわね」
複数の魔物を従えたイリスが笑う。
「ですが、もう一つ、大事な情報が抜けていますわ」
「大事な……?」
きょとんとするソラに、イリスは丁寧に解説をしてみせる。
それは、余裕の現れなのかもしれない。
「せっかくなので、教えてさしあげますわ。別に、知られても困るものでもありませんからね」
イリスは楽しそうに……俺達にとって、絶望的な事実を告げる。
「召喚する対象に制限はありませんわ。場所、距離を飛び越えて……それこそ、時間や世界すら飛び越えて、対象を呼び出すことができるのです」
「なにが言いたい?」
「つまり……こういうことですわ。おいでなさい、わたくし」
イリスの足元に、さらに魔法陣が広がった。
そこから現れたのは……
「イリスが……二人!?」
イリスとまったく同じ姿をした少女が現れた。
その少女は、キョロキョロと周囲を見回して……
やがて、イリスと目が合うと、自分が置かれている状況を理解したらしく、ため息をこぼした。
「やれやれ、またですの?」
その少女は、イリスとまったく同じ声で、そう言った。
「また、ですわ」
「あなたとわたくしは同じようで異なる存在。力を貸すことはやぶさかではありませんが、都合よく使われることは、少し納得いきませんわね」
「ごめんなさい。そこは反省していますわ」
「どうでしょうか?」
「ですが、人間を殺せるのですよ? その点については、納得していただけるのではなくて?」
「そうですわね……それならば、文句を言うのはやめにいたしましょう」
二人のイリスが笑う。
これは……どういうことだ?
夢でも見ているんだろうか?
「レイン……気をつけてください。あれも、本物のイリスですよ」
ソラが顔をこわばらせながら、そう忠告してくれた。
「おそらく、平行世界の自分を召喚したのかと」
「平行世界……?」
「えっと……細かい説明は省きますが、行き来することはできませんが、この世界と同じような世界がたくさん存在している、と考えてください。イリスは、その無数の世界の中から、自分を召喚したのかと」
「それは……言い換えると、もっとたくさんの自分を召喚できる、っていうことにならないか?」
「ふふっ、それもできますわ」
俺達の会話を聞いていたイリスが、笑みと共に答えた。
「ただ、全ての自分が協力的とは限りませんからね。異なる可能性の世界なので、中には、改心したわたくしもいるので……無限に、というわけにはいきません。とはいえ、あと数十人くらいならば、軽く召喚できますわ。もっとも……この場は、魔物たちともう一人のわたくしで十分だと思いますが」
どうやら、これ以上の召喚は行わないらしい。
こちらを侮っているのか、それとも、適正な判断なのか。
どちらにしても、そこに勝機があるかもしれない。
「では……いきますわよ? 簡単に死なないでくださいね? ふふっ」
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