14話 二人目の最強種
カナデと出会い、一週間が経った。
あれから順調な日々が続いている。
カナデと一緒に依頼をこなして、一緒に飯を食べて、一緒に寝て……
……いや、一緒に寝てというと、誤解を招くかもしれないな。
カナデが部屋を別々にするのを嫌い、仕方なく同じ部屋にしているだけだ。
それはともかく……
何一つ問題のない日々を過ごしていた。
勇者パーティーにいた頃は、毎日が嵐のように忙しかった。
周辺の探索、荷物運びなど、ビーストテイマーとしての仕事はもちろん、みんなの食事の準備なども俺が一人で担当していた。
それだけじゃなくて、見張りもしていたし、朝、みんなを起こす係なんてものまでやらされていた。
今にして考えると、都合のいいように利用されていたんだろう。
でも、今はそんなことはない。
自分のやりたいことができて……
カナデのために、自分から動こう、という気になれる。
本当に、カナデに感謝だ。
あの出会いがなければ、俺はどうなっていたことか。
そんな感じで、自由な冒険者ライフを満喫していたのだけど……
とある事件が起きることになる。
それは、ある意味で、俺の一生を左右する事件だった。
――――――――――
「ストライドブリッジの番犬?」
いつものようにギルドに赴いて、依頼を探している時のことだ。
この一週間で仲良くなった受付嬢のナタリーさんが深いため息をこぼしていたので、何事かと話しかけてみた。
すると、おもしろい話を聞くことができた。
「ええ、そうなんですよ。数日前から街の南の橋……ストライドブリッジにならず者が住み着いたらしくて……通りゆく人々に次から次に勝負をしかけて、暴れまわっているんですよ」
心底困っているらしく、ナタリーさんは疲れたような顔をしていた。
ちなみに、ある程度仲良くなれたからか、少しだけ砕けた口調になっていた。
この方が親しくなれた、という気がしてうれしい。
……他意はないぞ?
「それは、追い剥ぎ的なヤツ? 悪者なの?」
「それが、難しいところでして……」
隣のカナデの質問に、ナタリーさんはこめかみの辺りを指先で押さえるような仕草をした。
頭の痛い問題なんだろう。
「実力者と見ると、誰彼構わずケンカをしかけてくるらしくて……ただ、殺し合いというわけではないんですよね。勝負がついたと判断したら、そこで退いてくれるらしいです。おかげで……というのも変ですが、今のところ死者は出ていません」
「ふーん、変な事件だね。なんで、そんなことをするのかにゃ?」
「それがわからないんですよ。金品を強奪しているわけでもないし、特定の誰かを狙っているわけでもない。特定の商隊に対する嫌がらせの線も考えられましたが、そういうわけでもなくて……とにかく、橋を通る人を無差別に襲撃しているみたいなんですよね。一般人は標的外らしいんですが……それで安心できるわけもなく、ストライドブリッジを利用する人は激減。このままだと、深刻な交通マヒが起きてしまいます」
「なるほど……」
確かに深刻な問題だ。
ストライドブリッジは、このホライズンの街がある中央大陸と、南大陸を繋ぐ橋の一つだ。
そこで事件が起きて、人々の足が遠のいてしまうと、物流が滞ってしまう。
今は事件が起きたばかりということもあり、大した被害になっていないみたいだけど……
放置しておけば、無視できない被害になるだろう。
「それで、どうしてそんな話を俺達に?」
「よくぞ聞いてくれました!」
ナタリーさんが、受付カウンターを乗り越える勢いで、ぐぐぐっと詰め寄ってきた。
こんなにアグレッシブな人だったっけ……?
今までは、外行きの仮面を被っていたんだろうか?
でも、仲良くなれたみたいで、新しい一面を見ることができるのはうれしい。
「今回、ギルドはこの事件の解決を任されました! そこでそこで……どうですか? この依頼、受けてみませんか?」
「えっ、俺達が?」
「にゃあ?」
突然の話に困惑する。
今聞いた限り、とても重要な案件だ。
そんな依頼を、まだEランクの俺達が受けてもいいものなのか……?
「今回は、特殊依頼と呼ばれるもので、ランクによる制限はないんです。また、複数の冒険者が請け負うことも可能なんです。早いもの勝ちで、最初に依頼を達成した人が報酬を得ることができます」
「そんな適当をしていいのか?」
「仕方ないんですよー……最初は、高難易度の依頼として発行したんですけど、返り討ちに遭う人が続出して、ぜんぜん解決できなくて……もう、なりふりかまってられないんですよ」
なるほど。
冒険者ギルドとしては、誰でも良いから解決してほしい、というところか。
話によると、たくさんの冒険者が返り討ちにあったみたいだから、それだけ追い詰められているんだろう。
「とはいえ……俺達にできるものかどうか……」
「できますよ。私、密かに期待しているんですよ?」
「そうなのか?」
「猫霊族のカナデちゃんと、そんな最強種を使役しているビーストテイマーのレインさん! 今、売出し中の注目株ですよ?」
「……どうする?」
「うにゃ?」
カナデがきょとんとする。
話、聞いていたのだろうか?
「えっとえっと……悪いことしてる人がいるんだよね?」
「そうだな」
「なら、私はなんとかしたいかなー。悪いことはダメっ」
実にカナデらしい意見だ。
「あっ、でもでも、レインの意見を尊重するよ?」
「そうだな……ナタリーさん、ちなみに報酬は?」
「聞いて驚いてください! なんと、金貨五枚!」
「受けた」
――――――――――
報酬に釣られたところはあるが、困っている人がいるのなら力になりたいというのも本音だ。
それに、死者は出ていないそうだから、カナデが傷つく心配をする必要はない。
まあ、今まで、たまたま出ていないだけ、という可能性もあるから油断はできないが……
そんなわけで、俺とカナデはストライドブリッジにやってきた。
「うわーっ、うわーっ、大きい橋だよ! レイン、レイン! すっごく大きいよ」
カナデが子供のようにはしゃいでいた。
その気持ちはわからないでもない。
中央大陸と南大陸の間には、巨大な渓谷が横たわっている。
深さは……わからない。
測定しようとした学者がいたが、途方のしれない深さに誰もが諦めた。
幅は、街一つ分、というところか。
それほどまでに大地に走る亀裂は巨大で、途方もない。
そんなところにかけられた橋は、城や要塞と見間違えるほどに巨大だ。
巨大な橋は、鉄の柱を何本も複雑に組み合わせて、さらに魔法で補強されている。
ただ頑丈なだけではなくて、通行の要の役割を果たすために、横幅も広い。
商隊用の大きな馬車が、4台、平行して走れるほどの広さがある。
「すごいねー、すごいねー。私、こんなの初めてみたよ」
「あれ? 猫霊族の里って、噂だと東大陸って聞いているけど……橋は通らなかったのか? 東大陸も渓谷で隔たれているだろう?」
「通ってないよ? 通行料がかかるんだもん」
「じゃあ、どうやってこの中央大陸に?」
「んっとね。おもいきり走って、おもいきりジャンプして谷を飛び越えた!」
……とんでもない子だった。
あの巨大な渓谷をジャンプで飛び越えるとか……
改めて、最強種のデタラメな能力を思い知る。
「こんなに大きい橋なのに、人、誰もいないね」
「みんな、番犬とやらを恐れているのかもしれないな」
「乱暴者は私達でこらしめちゃおう!」
「そうだな。がんばろう」
カナデと一緒に橋を渡る。
「どんな人なのかな?」
「わからないな……まともな証言が残っていないからな」
死者は出ていないので、本来なら、犯人に関する証言が得られるはずなのだけど……
返り討ちに遭った冒険者たちは、皆、意気消沈していて、まともに話ができる状態ではなかったらしい。
正体のわからない敵がいる。
少し、緊張してきた。
「何が起きるかわからないからな。油断しないようにいこう」
「うんっ」
警戒しながら歩いて……
そのまま、30分ほど経っただろうか?
橋の真ん中辺りまで来たところで……それは、ついに来た。
「レインっ、あれ!」
「っ!?」
空に響き渡る咆哮。
太陽を覆い尽くすほどに巨大な翼。
風を切り、空を駆ける体。
それは……
「ドラゴンっ!?」
最強種の一角であるドラゴンが、俺達の前に舞い降りた。
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