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133話 漆黒

 旅は順調だった。

 道中、魔物に出会うことは少なく、出会ったとしてもアクスとセルが瞬殺していた。

 さすが、Aランクだ。頼りになる。


 悪魔を探しているらしく、ところどころで検問が敷かれていたものの、俺達には関係ない。

 あっさりと通過して……

 そのまま順調に行程を踏破して、一週間の予定だったところを、5日でジスの村にたどり着いた。

 今回の依頼は時間が大事になりそうだから、日程を短縮できたことは喜ばしい。


 村についた俺達は、さっそく聞き込みを始めようとしたのだけど……


「ふぅ、ふぅ……はぁ、ひぃ……す、少し休まぬか? 我は……疲れたのだ」

「そんなことを……ふぅ、ふぅ……言っているヒマなんて、ありませんよ……」


 ルナとソラが見事にバテていた。

 二人共、体力がないからなあ……。

 途中、飛行魔法などで体力の消費を抑えていたものの、それでも厳しかったらしい。


「にゃー、どうする?」

「うーん……無理はさせられないから、二人は宿をとっておいてくれないか? それも必要だから。で、タニアとニーナ。それと、ティナは付き添いを頼む」

「あたしも?」


 タニアが微妙な顔になった。


「今のソラとルナを放っておくわけにはいかないだろう?」

「そりゃ、まあ……こんな有様だしね」

「ダメかな?」

「……それって、あたしを頼りにしてる、ってこと?」

「もちろん。頼りにさせてほしい」

「ふふーん、そういうことなら仕方ないわね。いいわ。ソラとルナ、ニーナとティナの面倒はきっちりと見てあげる♪」


 頼りにされて悪い気分じゃないらしく、タニアは笑顔で引き受けてくれた。

 後ろの方で、カナデが「チョロインにゃ……」と言っているような気がしたが、気にしないことにした。


「ニーナとティナも、先に宿に行っていてくれないか?」

「ん……それは、いいけど……私、元気……だよ?」

「ウチは疲労なんて関係ないからなー。ガンガン聞き込みできるで?」

「これから先、何があるかわからないからな。休める時に休んでおいた方がいい。ただの聞き込みだから、それほど人数はいらないさ」


 ……なんてことを言うものの、半分は本音で、半分は別のことを考えている。

 ニーナはまだ子供だから、聞き込みをしても、相手がちゃんと答えてくれるかわからない。

 それに、時に、きつい話を聞くことになるかもしれないから……

 できることならば、そういうことからはニーナを遠ざけたい。


 ティナは……見た目は、ヤカンだからなあ。

 ティナの話術には期待できるところはあるけれど、ヤカンではどうしようもない。

 相手を驚かせてしまうだけだろうし、ここは待機してもらおう。


「ん……レインが、そう言うのなら」

「わかったで。お言葉に甘えて、ウチらはゆっくりしとるわ」

「ああ、そうしてくれ。じゃあ、タニア……」

「ええ。任せておきなさい」


 タニアはみんなを連れて、宿を探しに行った。


「にゃー、レイン。終わった?」

「ああ、またせたな」


 これから、カナデと一緒に聞き込みだ。


「そちらの準備はいいのかしら?」

「悪い、待たせたか?」


 俺達が話し合っている間、セルは律儀に待ってくれていた。


「って……あれ? アクスは?」

「アクスなら、周辺の探索に行かせたわ。思わぬところで、悪魔に関する手がかりが見つからないとも限らないから」

「それはそうだけど……一人で? 言ってくれれば、こちらからも人を出したのに」

「いいのよ。もう騎士団などがあらかた調べ尽くした後だろうし、何か見つかる可能性は低いわ。本当のことを言うと、ただ単に、邪魔になるから追い払っただけよ」

「じゃ、邪魔って……」

「二人も、アクスの頭がアレということは、なんとなく理解しているでしょう? 聞き込みに付いてこられる方が迷惑だわ」

「にゃー……辛辣だね」


 容赦ないセルの言葉に、カナデがたらりと汗を流していた。

 アクスも大変だなあ……


 とはいえ、セルがアクスのことをなんとも思っていない、ということは感じられなくて……

 セルの言うとおりに、迷うことなくアクスは探索に赴いて。

 セルはセルで、自分の役割をきっちりと果たそうとしていて。

 なんだかんだで、信頼関係を築いているように見える。


「そちらは、レインとカナデの二人?」

「ああ。あまり人数がいても仕方ないし、他のメンバーは宿を探してもらうことにした」

「妥当な判断ね。それじゃあ、私達は聞き込みに行きましょうか」

「了解」


 先頭をセルが歩いて……

 俺とカナデはその後に続き、聞き込みを始めた。




――――――――――




 聞き込みを始めて、それなりの時間が経過した。


「ふぅ」


 あまり表情を変えないセルだけど、それなりの疲労を感じているらしく、今はわずかに顔を歪めていた。

 カナデも、尻尾が心なしかへんなりとしている。


 二人が疲れるのも仕方ない。


 聞き込みは順調だった。

 避難してきたパゴスの村の人と面会することができて、色々な話を聞くことができた。

 それなりの情報を手に入れることができた。


 ただ……


 その話はどれも悲惨なもので、聞いていて眉をひそめてしまうほどだ。

 それほどまでに凄惨な事件がパゴスの村で起きていた。


 そんな話をずっと聞かされていたら、精神的に参ってしまう。

 セルとカナデが疲れてしまうのも無理のない話だった。


「少し休憩しようか」


 見かねて、俺はそんな提案をした。


「にゃー……賛成。ちょっと疲れちゃった」

「そうね……一通り、話を聞くことができたから、ひとまずまとめてみましょうか」


 賛成を得られたところで、村の広場に移動した。

 ちょうどいいところにベンチが設置されていて、そこに座る。


「私、レインの隣♪」


 俺、カナデ、セルの順にベンチに座る。

 カナデの距離がやけに近いような気がするんだけど……気のせいだろうか?


「ふぅ」


 セルが小さな吐息をこぼして、空を見上げた。

 その横顔には憂いが見てとれる。


「色々と話を聞いたものの……わかるようで、わからない話ね」

「そうだな。情報が錯綜している」


 セルの言葉に同意しながら、聞き込みで得られた情報を整理した。


 事の始まりは、20日ほど前のことだ。

 パゴスの村の人達は、その日も、いつもと変わりのない日常を過ごしていた。

 大人は畑仕事に精を出して、子供たちは広場で遊び……

 いつもの穏やかな光景があったという。


 しかし……それは、唐突に失われた。

 『悪魔』が現れたのだ。


 悪魔は家を燃やし、家畜をなぎ払い……そして、人を殺した。

 圧倒的な力を前に、村の自警団はなんの役にも立たなかった。

 具体的な話を聞くことはできなかったが……

 悪魔は常識を超えるほどの力を持っているらしい。


 その日、たまたま村にBランクの冒険者が滞在していたらしいが……

 その冒険者でも、悪魔にかすり傷一つつけることができなかったという。

 まるで大人と子供。

 冒険者は悪魔に遊ばれるだけで、まるで相手にならなかったとか。


 悪魔は蹂躙を続けた。

 虐殺を楽しんだ。

 破壊に浸った。


 そうして……パゴスは壊滅した。


 不幸中の幸いというべきか。

 全ての村人が殺されることはなかった。


 悪魔の力をもってすれば、村人を根絶やしにすることは簡単なのだろう。

 ただ、それが目的ではないらしい。

 子供が遊ぶように村を壊して……

 そして、気まぐれに立ち去っていった。


 ……それが、今回の事の顛末だ。


「色々な意味で厄介な相手になりそうね」

「そうだな」


 セルのつぶやきに同意した。


 とんでもない力を持ち、そして、その性格は極めて残忍。

 できることならば、相手にしたくない。


 ……まあ、そういうわけにもいかないか。


「色々な情報を得られたけれど……一番大きいのは、その外見を把握できたことね」

「……そう、だな」


 パゴスの村人に聞いた話によると……


 悪魔の姿は、翼を持つ少女だという。

 輝くような銀色の髪に、深い赤の瞳。

 死を象徴するような漆黒のドレス。


 それらの情報を聞いた俺は、とある少女のことを思い浮かべていた。


「……イリス……」

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[一言] >頼りにされて悪い気分じゃないらしく、タニアは笑顔で引き受けてくれた。 >後ろの方で、カナデが「チョロインにゃ……」と言っているような気がしたが、気にしないことにした。 間違ってないけどや…
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