128話 南へ
その後、俺達は正式に調査班に配属された。
目的は、悪魔の素性や目的を調べること。
できることならば弱点を含めた、全ての事柄を。
それと同時に、交渉も任されることになった。
ギルドでは、悪魔と交渉を行うらしい。
村一つを壊滅させたという相手に、交渉が通じるのか、また、その必要性があるのか不明なのだけど……
できることならば、戦わずに済ませたいらしい。
まあ、半分は時間稼ぎのようなものだろう。
討伐隊は、騎士団と連携して事にあたるため、どうしても編成に時間がかかる。
その間、俺達が相手のことを調べつつ、交渉を行い、時間を稼ぐ。
もしも、交渉が成功すれば、それはそれでよし。
失敗したら、できる限り時間を稼いだ後に、討伐隊をぶつける。
そういう作戦だと聞いた。
そうやって、一通りの説明を聞いたところで、俺達は、一度、家に帰った。
依頼のことを留守番していたみんなに説明すると、任せて、というように承諾してくれた。頼りになる仲間達だ。
それから旅の準備をして……
そして、翌日。
「よぉ」
「おはよう」
街の南門に移動すると、すでにアクスとセルの姿があった。
「悪い、待たせたか?」
「いいや、そんなことないぜ。まあ、仮に待たされたとしても、気にしてないさ。セルと一緒だったから、甘く濃厚な時間を過ごしてぐほぅ!?」
「はいそこ。くだらない戯言を言わないように」
無表情で、セルがアクスの腹に肘を叩き込んでいた。
バイオレンスな関係だな……
「そちらは大所帯なのね」
セルがこちらを見て、ちょっと驚いたように言う。
「カナデさんは、昨日ぶりね。他の方は、えっと……」
「あたしはタニアよ! ふふんっ、見ての通り、誇り高き竜族よっ」
「ソラはソラと言います。知っているかもしれないのでバラしますが、精霊族です」
「我はルナなのだ! 普段は羽は隠しているぞ」
「ニーナ……だよ」
皆、それぞれ簡単な自己紹介をした。
そして……
「おっ、あんたらが噂の紫電か。ほーほー、なるほど。強そうな感じがするなあ。頼りにさせてもらうで! おっと、自己紹介が遅れたな。うちは、ティナや! よろしゅうな」
「……私、夢でも見ているのかしら? ヤカンが喋っているように見えるのだけど……」
「セル、それは夢じゃないぞ。俺も同じ光景を見ているからな」
「そうなると、なおさら夢という確率が高いわね」
「どういう意味だよ!?」
混乱する二人。
まあ、それも仕方ない。
カナデの頭の上に乗せたヤカンから、ティナの声が聞こえてくるわけだからな。
「あー……簡単に説明すると、ティナは幽霊なんだ」
「ゆ、幽霊……だと?」
「驚いたわ、そんな人まで仲間にしているのね。でも、どうしてヤカンから声が聞こえてくるのかしら?」
「幽霊だから、昼間は外に出ることができないだろう? そうなると旅に同行できないし、ずっと家で留守番してもらうことになる。それはどうかと思ったから、なんとか一緒に行くことができる方法を探してみたんだ。そうしたら……」
「ウチ、物に取り憑くことができるんやけど、その間は、時間関係なく外に出られるみたいなんや。で、こうしてヤカンに取り憑いてる、っちゅーわけや!」
「な、なるほど……それは……すごいのね」
「なんていえばいいかわからねえが、すごいことは確かだな」
驚きのあまり、二人の語彙が少なくなっていた。
アクスはともかく、セルも動揺していた。
やはり、ちょっと衝撃的な光景だったかもしれない。
今朝、初めて見た時は、俺もしばらくまともに口をきくことができなかったからなあ……
「ティナさんについては理解したのだけど……どうして、頭の上にヤカンを乗せているのかしら?」
「この方がよく見えるからだよー」
カナデがにこにこ笑顔で答えた。
ヤカンに取り憑いている間、視界はちゃんと確保できるらしい。
視点の位置はヤカンと同じ。
だから、高いところの方が気分がいいだろうと、カナデが頭の上にヤカンを乗せて運ぶことになった。
……そんなことを説明したら、二人はますます変な顔になった。
「どうしたんだ?」
「いや……なんつーか……世の中、俺の知らねえことがまだまだあるもんだなあ……って、自分が小さいことを思い知らされるぜ」
「……そういうものと割り切りましょう」
そんなに驚くようなことだろうか?
……いや、驚いて当然か。
ヤカンに幽霊が取り憑いていて、しかも、それを頭の上に乗せている。
自分でも何を言っているかわからないくらい、奇妙な光景だった。
まあ……慣れてもらうしかない。
ティナだけを置いていくわけにはいかないからな。
「そろそろ出発しないか? 時間が余っているわけでもないし、急いだ方がいいだろう」
「それもそうだな。よっしゃ、行くぜ!」
アクスが先頭を歩き、俺達がそれに続く。
街の外に出て、まずはストライドブリッジへ。
目指すところは、その先にある南大陸だ。
「にゃー」
隣を歩くカナデが、うずうずとした様子で尻尾をぴょこぴょこさせていた。
「どうしたんだ?」
「こんな時になんだけど……ちょっと、わくわくして。私、南大陸に行ったことがないから……にゃー、楽しみ♪」
「ちょっとカナデ、旅行じゃないのよ? ちゃんとした依頼なんだからね」
「うっ……それはそうなんだけど……」
タニアにたしなめられて、カナデがシュンとなる。
でもまあ、気持ちはわからなくはない。
一度も行ったことがないところに行くとなると、気持ちが高ぶってしまうのは仕方ないことだろう。
「レインは落ち着いているね。にゃー……やっぱり、私なんかとは違うね」
「まあ、元々は、南大陸の出身だからな。今回のことは、新しい場所に行くっていうよりは里帰りみたいなもんだから、それほどわくわくすることじゃないさ」
「あ、そうだった。レイン、南大陸の出身なんだよね」
「すっかり忘れてたわ」
以前に軽く触れた程度だから、忘れていても仕方ないと思う。
「じゃあさじゃあさ、今回の依頼が終わったら、観光をしない? レインも、色々と立ち寄りたいところがあるんじゃないかな」
「……そうだな。余裕があるなら、それもいいかもな」
「カナデにしては、良いアイディアじゃない」
「にゃふー」
カナデの尻尾が、ごきげんそうにフリフリと揺れる。
「……それでそれで、できればレインと二人で……にゃあ♪」
何やら、追加でつぶやいていたけれど、よく聞こえなかった。
「なあ」
先をゆくアクスが速度を落とし、隣に並んだ。
「こういうのもなんだけど、レイン達、けっこう落ち着いているな」
「ん? どういう意味だ?」
「今回の依頼、かなり大きなものなんだぞ。普通の冒険者なら、緊急依頼と聞いたらビビって顔を青くするもんだ。それなのに、レイン達はのんびりしてるっていうか……あ、悪い意味じゃねえからな?」
「一応、依頼の重要性は理解しているよ」
村一つが壊滅した。
その意味を理解できないほど、俺達はバカじゃない。
「ただ、変に緊張しても仕方ないだろう? もちろん、気を抜いていいわけじゃないが……それよりは、適度にリラックスしておいた方がいいと思うんだよな。緊張していたら、いざという時に思考が固まってしまう」
「なるほどな」
「そのことはみんなもわかっているから、こんなんだと思うよ」
「さすが、ホライズンの英雄だな。俺達とは、考えが違う」
「だから英雄はよしてくれ」
「褒め言葉なんだぜ?」
「むずがゆい。というか、あれはみんながいたからこそ、の話だ。俺一人で魔族を倒したわけじゃない」
「謙遜できるのも良いところだと思うぜ。俺は、レイン達のことが気に入ったぜ。特に、タニアちゃんだな」
「タニアが?」
まだ、二人はろくに言葉を交わしていないはずなのだけど……?
「なんといっても、あの美貌! 綺麗なお姉さんという感じで、スタイルも抜群! 俺の理想にぴったりだね。一度でいいから、蔑んだ目で踏まれてみたいぜ」
「おい」
そういう意味か。
それに、性癖がちょっと特殊すぎやしないか?
「そういうことなら、私が踏んであげましょうか?」
「げっ、せ、セル……!?」
「踏まれたいのでしょう? ほら、踏んであげる」
「い、いや。セルはちょっと……美人なのは間違いないが、ただ、胸がちょっと足りなぐあああっ!?」
「死になさい」
見事に地雷を踏み抜いたらしく、アクスがストンピングされていた。
……アクスもアクスで、緊張感がまるでないな。
まあ、俺達と同じような理由で、適度に心に余裕を持っているのだろう。
でないと潰れてしまうということを理解しているのだろう。
「ふぅ、ひどい目にあったぜ」
ボロボロになったアクスが、再び隣に並んだ。
「セルのヤツ、ひでえと思わないか? ちょっと、口を滑らせただけなのに」
「自業自得の気がするが」
「つれないことを言うなよ。こういう時は、友をかばう、ってもんがお約束なんだぞ」
いつの間に友人になったのだろうか?
……まあ、アクスとなら、良い友人関係になれると思うが。
「けっこう余裕なんだな、アクス達も」
「ま、腕に自信はあるからな。それに、今回は場所がいい。荒事になったとしても、うまくいけば簡単に終わらせることができるだろ」
「それは、どうして?」
「今、南大陸には勇者がいるんだよ」
「……なに?」
「だから、南大陸には勇者がいるんだよ。うまい具合に一緒になれるか、それはわからねえが……でも、一緒できたら安心できるだろ? なんたって、あの勇者だ。緊急依頼を片付けるくらい、わけないだろうからな」
アクスは、そんなことを楽観的に話した。
勇者に対する世間一般の評価は高く、アクスは、一般的な価値観に則り、話をしているのだけど……
「……アリオスがいる、か」
対する俺は、どうにもこうにも、妙な胸騒ぎを覚えてしまうのだった。
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